ギャル ちなつの話

 ちーっす。ちなつでーす。

 私さ、怖い話聞くの大好きだから、みんなの話めっちゃワクワクで聞いてたんだよねー。

 私的には、サマーキャンプの話が面白かったなぁ。

 みんなは?今のところ何がお気に入り?


 ふーん。一番最初のやつ。

「おかわりさん」の話だよね。

 あれも良かったねー。


 え?自分と意見違うと急に冷めるの辞めろって?

 面倒くさいファンかよwww

 違うってー。全部面白かったよ!

 そんな疑わしい目で見んなって!

 そんなこと無いって、マジで。


 もう!じゃぁ雑談終了!!話始めるからね!



 ある日、友人が肝試しに行こうと誘ってきた。

 暇だった僕は、すぐにオッケーを出し、夜十時に友人が車で迎えに来てくれた。

 助手席に乗り込もうとすると後ろの席にもう一人乗っている事に気がついた。

 長い黒髪の女の人。

 あれ?前まで茶髪のショートの彼女だったのに、新しい子か?

 ってか、彼女を助手席にのせなくていいのかな?

 そんな事を考えながら彼女さんに会釈をし、車に乗り込み友人に聞いた。


「僕が助手席でいいの?」

「早く乗れって。今日行くとこ、聞いた話だとマジヤバイらしいからさ」

「へー」

「おすすめですよ」

「そうなんですか?楽しみですね」


 後ろの彼女さんは、ちょこちょこ会話に入るくらいで控えめな感じだった。

 三十分も車を走らせると一軒のボロい民家が見えてきた。


「ここ?普通の民家じゃない?」

「廃屋ってやつ」

「行きましょうか」


 三人でぞろぞろと錆びついた門を開け、玄関へと進む。

 その家はそんなに大きくなく、変わった作りをしていた。

 玄関入って廊下、突き当りに階段。廊下の両脇に部屋がある。


「お邪魔します」

「そんなに広い家じゃないし、手分けして見て回ろうぜ」


 そう言ってバラバラに行動することになった。

 早速近くの扉を潜ろうとする友人を僕は呼び止めた。


「ショートの彼女、別れたんだね」

「あれ、話したっけ?あいつマジやばくてさ、突然バイト先に現れて、浮気だ何だって意味わかんないこと騒ぎやがって。流石にやべぇってなって別れた」

「へー」


 やっぱりあれは新しい彼女か。

 それにしても今までは、キツめの娘やグイグイくる感じの娘だったから、意外だなぁなんて思いながら、二手に別れた。


 台所に入ると、物が乱雑に置かれているのが目に入った。

 座る所が破れた椅子に、開けっ放しになった冷蔵庫の中には何故か座布団が詰め込まれていた。

 テーブルの真ん中にはミキサーだけが置いてあったのだが、何故か土台だけで上の部分はなくなっていた。

 足元はコップが割れたのか陶器やガラスのかけらが散らばっている。

 少し進むだけで、パキンパリンと音が鳴る。

 それでも前に行くとシンクに何故か大量のトイレットペーパーが敷き詰められていた。

 意味がわからずしばらく眺めていると、後ろから「ねぇ」と声をかけられる。

 声なき悲鳴を上げで振り返れば、そこには友人の彼女がいた。


「びっくりした……」

「ごめんなさい。でも、二階から変な声が聞こえて……」

「変な声って?」

「なんだかうめき声みたいなの」


 もしかしてまだ住人がいたのかと二人で階段の下まで移動して確認することにした。


 階段には何故か紐が渡されていて、それをくぐって行かなくては行けない仕組みになっていた。

 なんだこれ?と眺めていると友人も合流してきた。


「なん?それ」

「わかんない。でも変な声が聞こえるって」

「?」

「僕は聞こえないけど、お前聞こえる?」

「聞こえない」

「登ってみないとだめかな」


 そう言って、紐に手をかけようとした時だった。

 ガシリ、と腕を掴まれた。


 友人に。


「ちょっと待て!」

「なんだよ!びっくりしたなぁ」

「誰が声を聞いたって?」

「?お前の彼女」

「は?だから彼女とは別れたって」

「新しい彼女だろ?黒髪の。今日、一緒にきたじゃん」

「は?最初から誘ったのお前だけだし、二人で来ただろ」

「迎えに来たときから、後ろの席に彼女いたろ?!それに三人で話してたし」


 そこまで言って思い返すと


「マジヤバイらしいからさ」

『おすすめですよ』

「そうなんですか?楽しみですね」


「ここ?普通の民家じゃない?」

「廃屋ってやつ」

『行きましょうか』


 彼女はほとんど相槌をうっていただけで、返事をしていたのも僕だけだった。

 それにどんな顔だったか思い出そうとしても思い出せない。


「……いない?」

「あぁ……はじめからお前と俺の二人だ」


 いると思っていた人がいないとわかり、急に怖くなって顔を見合わせて帰ろうとした時だった。


 紐の向こう側、階段の上から女の声がした。


「あーぁ、もう少しだったのに」


 僕らは振り返る事もせず、ただひたすらに車まで走ったのだった。




「彼女」

 三題噺「ファン」「階段」「ミキサー」

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