経験者 なつみの話 

 なつみでーす!よろしくね~。

 そうだなぁ、何の話をしようかなぁー。

 あ、先に言っとくね。

 私の話は私だったり、誰かの経験談だから。

 別に創作怪談が邪道だー!とか言うつもりはないよ。

 怪談界のレジェンドだって自分や他の人の経験談をパズルのように組み立てて創作するって聞くから別に面白きゃいいじゃん!って思ってるよ。

 辻褄が合わない話だってその場の雰囲気が「怖っ」ってなったり、「あの話、よくわかんなかったけど怖かったね」って思えばいいと思うの。

 それを信じる信じないはどっちでもいいけど、「どうせ嘘だろ(笑)」みたいなのは思ってても言わないでね!


 さて!

 今日の話はとっておき!私の小さい頃の話ね。


 小学生の頃にね、夏休みにキャンプに行ってたの。

 市が運営してる、サマーキャンプみたいな感じのやつ。

 市内の申し込んだ小学生が二泊三日でキャンプする。

 小学二年から六年までの全く知らない子達とキャンプするんだけど、もちろん指導員の大人もいる。

 天気が良ければ、1日目はテントを張ってカレーを作り、キャンプファイヤー。

 二日目はオリエンテーリングをして、ロッジに泊まるって感じかな。

 グループは、年齢と性別で四、五人に分けられる。

 その年の私のグループは、最年長は五年生のAちゃん、四年生の私、お調子者の三年生のCちゃん、最年少初参加の二年生のOちゃんだった。

 初めて会う子たちとちょっとしたゲームをして、仲良くなったかなって所で共同作業。

 子供だからかすぐに仲良くなって、カレーがちょっと焦げたって非日常だからケラケラ笑いながら過ごしたの。

 でね、事が起こったのは二日目。

 みんな打ち解けて和気あいあい楽しくオリエンテーションをして、さあ今日はロッジに泊まるって案内されたのは、私は始めて使う大型の方の建物だった。

 いつもはグループ事に小さいロッジを使ってたんだけど、今回は複数グループが使う、ホテルというか宿泊施設って言葉が似合う建物だった。

 入ってすぐに小部屋があって、そこに受付というか管理人さん?がいる部屋があった。

 中には女の人がいて、Sさんと名乗った。

「ようこそ。何かあったら基本的に私はここにいるから声をかけてね」とSさんはニコリ笑った。

 よろしくお願いします!と挨拶をして、Sさんが部屋を案内してくれた。

 私達の部屋は105号室。管理人室から一番遠い角部屋だった。

 Sさんは、歩きながらも私達の方を見ながら施設の説明をしてくれて、子供ながらにちゃんとした人だなぁと思ったのね。

 105号室の扉を開けるときもちゃんと私達と目を合わせてくれていたし。

 部屋の中は変わった作りになっていて、入ってすぐの所は畳でローテーブルが一つ、右側がフローリングでベッドが2台あった。

 ベッドの隣に押入れがあり、そこに敷布団が入っているから、テーブルを片付けて二人は畳で寝てねと言われた。

 共同生活なので、風呂は夜ご飯の前後に分けられていること、シーツと毛布は自分たちで貸出所から借りてくること、など注意点を言われて私達はお行儀よく返事をした。

 最後に質問は?と問われたときに、Cちゃんがこんなことを聞いた。

「おばけは出ますか?」と。

 は?おばけ?と目を剥く私達をよそにCちゃんは、「山だしそういう話の一個ぐらいあるのかなぁって」と特に何も考えていない様子で口にした。

 Sさんも困っているだろうとCちゃんにつっこもうとした時だった。

「そういうのが出るかどうかわからないけど、目を合わせない事が大事よ」そう言って、Sさんは私達をぐるりと見回した。


 Sさんが居なくなって荷物をおろした私達は、ローテーブルを囲んで日程表や館内図を見ようとしていた。

 そんなときにOちゃんがポツリと「なんか、Sさん怖い」と言った。

「え?なんで?」とAちゃんが聞くと、「だってすごい見てくるし」と答えた。

「私はちゃんとした人だなぁって思ったけど」と私が言うと、Cちゃんも「ね。子供相手に丁寧な感じだなって思ったよ。私のふざけた質問にもはぐらかしたっぽいけど答えてくれたし」と。

 ってか、ふざけた質問って自覚あったんだと笑っていたら、Aちゃんが「私もちょっとSさんは、変な感じがした」という。

 何が変?と考えようとしたが、Cちゃんがお風呂の時間がご飯前のグループだということに気が付き、その話は有耶無耶になってしまった。


 それからお風呂も夕食も終わり、部屋でくつろいでいると、『とん』とどこからか音がした。

 なんの音だとみんなで顔を見合わせて、耳を澄ます。


『かたん』


 どうやら押入れの中から聞こえる。


「野生の動物とか?」「家鳴りじゃない?」なんて話をしながら、恐る恐る押入れを開ける。


 そこには二組の布団がしまわれているだけだった。


「なんだ、やっぱり気の所為じゃん」


 せっかく押入れを開けたんだから、布団をひいちゃおうと机を片付けて布団を取り出す。

 借りてきたシーツと毛布を布団とベットに広げていると押入れを見ていたAちゃんがこんな事を聞いてきた。

「布団、濡れてない?」

「濡れてないよ?なんで?」

「押入れのここ、なんか湿っぽくない?」

 Aちゃんが指さした所は今まで布団が入っていた場所の下で、そこを触ると確かに湿っぽい。

「でも、布団は濡れてないから気の所為じゃない?」

 オリエンテーションで1日山を歩いてお風呂も入り、ご飯も食べてお腹はいっぱい。目の前には、布団がある。

 急に疲れて眠くなってしまった私は、適当な返事をしたが、他のみんなも同じように疲れていたため、気の所為ということになり、私達は寝ることにした。

 誰がベットで誰が布団で寝るかを決めようとした時だった。

 すっと押入れが5センチほど開いた。

 その隙間から、誰かがこちらを見ている様な気がして、私達はパニックになり管理人室まで走った。

 管理人室の扉を叩き、出てきたSさんに押入れが勝手に開いた!中に誰かいるかもしれない、と訴えるとSさんはそんな事あるはずがないといいつつも確認してくれるという。

 みんなで団子状態になりながら、Sさんの後ろをついていく。

 そんな私達を見ながら、Sさんは笑って105号室の扉を開けた。

 中は先程と変わった様子はなく、押入れもピッタリと閉まっていた。 

「でも確かに……」と言い募ろうとしたが、遮るようにしてSさんが「目、合ったの?」と怖い顔で聞いてきた。

 私達は顔を見合わせ、誰も目が合ったとは言わなかった。

 すると先程までの雰囲気が嘘のように優しく微笑んで、「今日は山を歩きまわって疲れてるのよ。ゆっくり休んでね」とSさんは帰っていった。

 やっぱりそうなのかな?なんて言いながら、寝ることになった。

 ちなみに押入れ側のベットにAちゃん、もう一つのベットに私、敷布団に残りの二人が寝ることになった。

 布団に入り暫くして、ウトウトとしてきた頃だった。

 ぽたん、ぽたんと何が落ちる音がする。

 夢の中かと思ったが、音は押入れの方から聞こえる。

 チラリとAちゃんの方をみると、Aちゃんは布団を頭まですっぽり被っていた。

 私も布団を被ろうとしたときだった。

 私の布団の中、ちょうど胸のあたりに誰かの手が見えた。しかも大人の女の人の手だ。

 驚いて悲鳴を上げながら布団を蹴り飛ばし体を起こすと、手はどこにもなかった。

 みんなが「どうしたの!」と電気をつけてかけよって来た所でまた、すっと押入れが開いた。

 今度は半分ほど開いて、中に髪の長い女が逆さまになってこちらを見ていた。髪の毛は濡れていて、雫がAちゃんが湿っていると言っていたところにぽたんぽたんと落ちていた。

 驚いて固まる私達に、逆さまの女は「目は合いましたか?」と聞いてきた。

 それにハッと意識を戻され、「合っていません!!」と答えて私達は部屋を飛び出した。

 Sさんに今起こった事を話して、もう一度部屋を確認してほしいと頼んだ。

 Sさんは、「また?」と言いながらも部屋まで来てくれた。

 扉を開けようとしたときに、Oちゃんが「私達を見なくていいから、ちゃんと中を確認して下さい」とSさんに意見した。

 突然どうしたのかと思ったが、確かにSさんは私達とよく目があう。そして扉を開けた時も押入れを開けた時も私達の方を見ていて、開ける瞬間の中を見ていないことに気がついた。

 Sさんは困った顔をしながらも、扉の方を向いてくれた。

 そして扉を開けると、目の前に女が立っていた。

 全身ずぶ濡れで真っ黒な女が「目は合いましたか?」とSさんに聞く。

 不意を付かれたSさんはバッチリ、女と目が合っていた。

 恐怖する私達をよそに、Sさんは女に向かって怒鳴り出した。


「なんであんたがここにいるのよ!私がちゃんと」


 しかし、続きを言う前に扉が閉まり、Sさんは部屋の中に入ってしまった。

 私達は、何がどうなっているのかわからず、そこでやっと他の大人に助けを求めたほうがいいのではと思い付き、指導員室に駆け込んだ。


 その後、Sさんの姿を見た人は誰もいなかったとのことです。




「サマーキャンプ」

 三題噺「レジェンド」「扉」「邪道」

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