語り部 つとむの話
はい!よろしくお願いいたします!
いやぁナッツさんの話、怖かったですねー。
僕もね、袖で聞いていたんですけど、振り返れなくなっちゃいましたよ。
え?自己紹介?
はっ!!
してなかったですね。失礼しました。
わたくし、語り部をやらせてもろてます、つとむと申します。
僕も「怪談芸人です」とか「噺家です」なんて名乗れたら良かったんですけど、生憎ただの話好きなおじさんでして。
こうやって怖い話のライブに出させてもらうだけで、舞い上がっちゃうほど嬉しいんですよ。
プロの方の次なんで、もしかしたら面白くない!なんて思われるかもしれませんが、お付き合いいただけたら幸いです。
そうそう、プロといえば!やっぱりねー、プロはすごい!
ナッツさんに「お話とか全部覚えているんですか?」って楽屋で聞いたら、「ノートに全部書き留めてます」って教えてもらいました。すごっ!と思って。
小学生の頃、日記とか作文の宿題あったの覚えてます?
僕、あれ苦手だったんですよね。
書くの疲れるし、結局何が言いたいの?なんて指摘された日にはやる気もなくなるってもんですよ。
そんな作文嫌いな子の話でこんなのがありましてね。
まーくんは作文苦手な子で、宿題に作文がでたときにやりたくないなぁって毎回思うんです。
で、ある日図書室に文集があるって聞いて、なにか参考になればって探しに行ったんです。
棚には卒業文集やら読書感想文の冊子やらいっぱいあって、どれを読めば参考になるのかもわからずに途方にくれていたら、スミにノートが挟まっているのが見えた。
なんだろうと引っ張り出してみると、古臭いノートが出てきた。
こんな古いノートに何が書いてあるんだろうと好奇心から開いてみた。
もしかしたら誰かの交換日記だったり、ゲームみたいな予言の書かもしれない!なんて、ドキドキしながらページをめくった。
でもね。中は真っ黒だった。文字を書いた上にまた文字を書かれたみたいで、なんて書いてあるかさっぱりわからない。
変なノートだなぁなんて思いながら、もう一枚ページをめくると今度は赤いペンで上側がくの字に曲がった棒のようなものが書いてあり、怖くなってノートをそのままに図書室からでようとした。
するとね、遠くから口笛のような音が聞こえる。
ぴゅーだか、ぴーだか。
耳を澄ませてみると、その音はだんだん近づいてくる。
足音もしない。ただ音だけが近づいてくる。
まーくんは、書棚の影に隠れて扉が開くのをずっと見ていた。
口笛が止まり、ガラガラと音を立てて扉が開いた。
そこには先の曲がった黒い影が立っていた。
否。黒いと思っていたのは血が乾いていただけで、口笛だと思ったのは首が切れて曲がった隙間から空気が漏れる音だった。
怖くて怖くて、ガタガタ震えることしかできなくて、でも女はひゅーひゅーと音をさせながら、図書室を徘徊し始めた。
とにかく逃げなきゃと思い、棚からそろりとでる。
ちょうど足元にあった荷物を持って出口に向かって走る。
ちらり、と後ろをみると女が追いかけて来ているのが見えた。
廊下を走るが、誰とも会わない。
おかしい。まだ下校時刻じゃないのに。
よそ事を考えていたら足がもつれて転んでしまった。
慌てて立ち上がろうとするがすぐ後ろに誰かの気配を感じる。
あの女だ。
ひゅーひゅーと音が耳元で聞こえる。
ひゅーひゅー
ひゅーひゅー
耳につく呼吸音。
その音をかき消したくて、カバンに付いていた防犯ベルの紐を引っ張った。
するとどうだろう。女はゆらりと煙のように消えてしまった。
まーくんは、一目散に学校をあとにした。
あれは、何だったんだろうか。
後日ノートを探したが、図書室のどこにも見つからなかったとのことです。
やっぱり不審者には防犯ベルが役に立ちますね。
もし古いノートを見つけても不用意に開かないでくださいね。
でも、だめと言われるとやってみたくなるのが人の性というものですが。
ほら、耳を澄ますと何処かから口笛に似たひゅーひゅーって音が聞こえませんか?
「呼吸音」
三題噺「口笛」「予言」「作文」
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