第9話 厄介な階層
(クソ!攻撃をさばけてはいるが、こっちからの攻め手がねえ!!)
何度目かになるハーミットクラブの水砲攻撃を躱し、少しずつ距離を詰めていく。
しかし、肝心の相手が水面にいる以上、こちら側に攻め手が無い。
唯一の遠距離攻撃であるコンクリート針の投擲は、相手の甲殻を貫けず、唯一効きそうな風で強化した双剣による直接攻撃は、圧倒的にリーチが足りなかった。
(せめて相手が地上にいてくれれば、いくつか手はあるのに!!)
幸いにもモンスターのスピードは遅めで、距離さえ詰めれれば攻撃はあてられるが
”ビュドオオオ、ビュドオオオ、ビュドオオオ”
(水砲の攻撃も厄介だ。というか、なんでこの威力でここまでの連射ができんだよ!)
矢継ぎ早に飛んでくる攻撃で満足に距離を詰めれない。
周囲の足場は水で濡れ、足でも滑らせればすぐさま水砲の餌食になってしまうだろう。
〈うわっ厄介すぎるな。〉
〈というか、あの水泡どうなってるんだ?明らかにモンスターの体積よりも多くの水を出してるだろう?〉
おかん〈あれ、口から出してるように見えるけど魔法の類よ。周辺の水を利用してるだけだから、弾切れもないわ!〉
〈さっきも言ったアルが、ダンジョンの水は魔石から生成されたものアル。魔法との相性もいいアルよ!〉
・・・・このやり取りを戦闘中の俺は見れなかった。
故におこった致命的な判断ミス。
(残弾が尽きるのを待っていたんだが、ミスったな。周辺の足場がびちゃびちゃだ。)
濡れた滑りやすい足場での回避行動は困難である。
狙いをつけられる中で攻撃を回避するには、モンスターが狙いを定めて発射準備を整え終わってから発射・着弾までの僅かな間に、狙われた個所から移動しなければならない。
これには体の瞬発力以外にも、地面への強い踏み込みが必要となる。
これが水弾といえるような小さい攻撃範囲であれば、体移動のみで躱すことも可能だったろう。
しかし、水砲ともいえるハーミットクラブの攻撃を回避するには、濡れた滑りやすい足場での踏み込みによる高速移動が必要不可欠。
こんな濡れた足場の中、次の攻撃を回避するのは不可能といえるだろう。
「ええい!一か八かだ!」
俺は水面に向かって跳躍する。
向かうはまばらに存在する岩場であり、水面唯一の足場。
おかん〈バカ!無謀よ!〉
〈読まれてるアル!〉
〈えっ?えっ!?なんかまずいのか?〉
〈着地点がまるわかりだろ!狙い打たれるぞ!〉
見てはいないが、罵声コメントが流れているだろうと思いながら跳躍する。
”ぶくぶく・・・ビュドオオオ”
(ちっ!やっぱドンピシャ狙ってくるかよ!!)
タイミングをずらして放たれた水砲は、岩場の少し上、俺が着地する少し前のタイミングで発射された。
(ウルフ戦で俺がやったことをそのままやり返された!空中で身動きが取れないタイミングでの迎撃は回避することができない!)
これだからダンジョンは質が悪い。
前の階層では通用した攻略法が、1層下っただけで全く通用しなくなる。
それどころか、必死に編み出した戦法を、より確実な形で返された。
(でも!だからこそ!!その対策が用意できた!!)
”パンッ!!”
自身の足元で風がはじける。
岩場に向かっていた体は急激に軌道を変え、ハーミットクラブへと向かっていく。
「水砲自体は連射できても!狙いをつけるために首を振る時間はねえだろ!」
俺がハーミットクラブの体内から水砲が発射されていると勘違いしたのは、攻撃が口の正面方向にしか発生しなかったからだ。
だったら、1度水砲を別方向に撃たしてしまえば、次弾の発射には首を動かし狙いをつけるというタイムラグが発生する!
〈なるほど!スポットブーストを本格的に移動用として活用したのか!〉
〈足元で爆発させれば、空中での移動も可能というわけだな!〉
おかん〈でも、とっさの思い付きで成功する方法じゃないわよね?〉
〈空中での迎撃は、クソガキがウルフ相手にやってたアル。逆に自分がモンスターにやられた時の対処方法も練習してたアルな。〉
ハーミットクラブの眼前にまでたどり着く。
水砲の発射が止み、即座に次弾が準備されるも、こちらに正面を向き狙いを定める時間はない。
「一撃で仕留める!」
風で強化された双剣を、甲殻の関節部分を狙い振るった。
・・・・・
・・・・
・・・
ハーミットクラブを仕留めることはできたものの、その後着地できるような足場はなく、全身が濡れネズミになってしまった。
今は、偶然見つけた岩肌に身を隠し、濡れた服を絞っている。
「何とか勝てたけど、これ複数体で来られると対処できないよな?」
〈遠距離攻撃が全く通じてないもんな?〉
〈相手が水辺から攻撃してくる以上、遠距離攻撃は必須アル〉
おかん〈本来あいつは、前衛が水砲を引きつけるかガードしている間に、後衛が仕留めるっていうのがセオリーなのよ。ソロで勝てる方がおかしいの!〉
そうはいっても、仲間がいないものはいないのである。
「コンクリート針がもっと威力あればいいんだけどな。」
〈300円ちょっとの武器にどんだけの性能求めんだよ(笑)〉
〈2本で300円ちょっとだから、1本150円くらいだぞ(笑)〉
〈ちゃんとした投擲武器買うか、魔法覚えろや(笑)〉
散々な言われようであるが、高校生の懐事情を考慮してほしい。
〈というか、そんな安い針が、コンクリート貫けるのかよ?〉
〈いや、実際は釘みたいにハンマーでガンガン叩くんだよ。投擲武器としての運用なんざ考えられてねえって!〉
〈そうなら、何とかして近づかないとアルな。けど、4層での接近戦はお勧めしないアル。〉
ん?またもや引っ掛かりを覚える。
何かを思いつきそうではあるが、先に似非中国人のコメントが気になった。
〈クソガキ。ちょっとそこの岩肌を攻撃してみるよろし。・・・・そう、そこのちょっと不自然にへこんでるとこアル。〉
見ると岩の一部が不自然にへこんでる箇所がある。
(というかここの岩場だけモロイ?まあ、攻撃してみるか。)
双剣・・・・は、刃こぼれが嫌なので、近くの石を持って殴りつける。
”ぴしぴしぴし・・・ドオオオ”!!!!”
「なっ!うがぼぼぼぼぼぼb!」
壁にヒビがはいったかと思うと一瞬で壁面が崩れ、中から大量の水が噴き出した!
”ドドドドド・・・ドボーン!!”
俺は水流の強さに抗えず、水の勢いに流され水面へ飛び込むはめになった。
・・・・・・
・・・・
・・・
〈はっはははははは!!〉
〈いや、コントかよ!!〉
〈ここまで見事にハマるとは思わなかったアル(笑)〉
「ころすぞ!!!(# ゚Д゚)」
コメントに向かってブチ切れる。
またもや水中にダイブするはめになった俺は、服を再度絞りながら悪態をつく。
〈・・・・ああ、悪かったアル、ふふふ。ここの水は魔石から生成されているのはもう言ったアルが、目に見えてる水だけじゃなくて、岩の中にある魔石から作られた水が、壁の中にたまってちょっとの衝撃で噴き出すことがあると知ってほしかったアルよ(笑)〉
「ありがたい情報ではあるが、(笑)とかつけてるじゃねか!」
似非中国人のコメントに怒鳴りつけるが、この情報は重要である。
「・・・この強度だと、下手したら上に飛び乗った衝撃でも水が噴き出すな。」
おかん〈そうよ、場所は限られてくるけど下手に動いたら一気に体制を崩されるトラップとなる。さっきの戦闘した場所になかったのは幸いだったわね。〉
〈自分で踏まなくても、モンスターの攻撃で連鎖的に噴き出す心配もあるよな?〉
〈うわー、余計に身動きが取れなくなるじゃん。〉
〈水の力ってすごいからな。ハーミットクラブの水砲もだけど、水の流れは人間くらい簡単に吹っ飛ばせる。〉
全く、つくづく探索者に厳しい階層である。
でもそれは、モンスターにとってもそうだろう。
「水流、流れか・・・・、ちょっと思いついたかもしれねえ。」
〈また、雑談から思いつくのか・・・。〉
おかん〈何を見せてくれるのか楽しみね。〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます