第8話 水の階層
「配信開始。ドーモ、竜馬チャンネルの見習い探索者、如月竜馬です。
今回から、4階層の攻略を始めていきます。」
いつものダンジョンで、いつもの挨拶をする。
〈おっ、クソガキの配信、始まってるじゃないか!〉
〈いよいよ、4階層だな。次はどんな相手なのか・・・。〉
おかん〈ねえ、〉
〈雑談で考えた技が通じるかも気になるよな!〉
いつものリスナーが今回もコメントをくれ、やり取りが始まる。
違うのは、今日挑戦するのが新たな4階層という点と
「俺の呼び方はクソガキに落ち着いたのね・・・まあ、何でもいいけど。」
〈クソガキだからな、しゃーない。〉
〈お口悪るワルだからね。〉
おかん〈おい(# ゚Д゚)〉
〈ちゃんと応援はしてるぞ?〉
「まあ、気軽に読んでもらえるのはいいんだけど」
おかん〈きけやああああ!くそがきいいいいいい!!!!〉
とあるコメントのIDが、おかんになっている点である!
〈草〉
〈草〉
〈www〉
〈面白すぎるアル〉
「わかりやすいだろ?友達にやって貰ったんだ。」
おかん〈しばく!このガキ泣かしてやる!!〉
初回から見てくれている女性のコメントが荒ぶる。
学校で凛太郎と話していた内容だ。
探索中にもコメントを見る方法として具体的な解決策こそでてこなかったが、設定をいじってくれた。
・・・・その結果が
おかん〈なんでおかんなんのよ!!〉
リスナーの名前を分かりやすく表示することだった。
〈記念すべき1人目のネームドリスナーアルな。〉
〈おかんは一番最初のリスナーだし、妥当か。〉
〈いやー、めでたいめでたい、まったくもって〉
〈〈〈うらやましくない(アル)〉〉〉
おかん〈しばくううう!絶対しばくううう!!(泣)〉
・・・・・・仲良しなことである。
・・・・
・・・
・・
「それにしても、4階層に入って一気に景色が変わったな。」
辺りを見回すと3階層までとは打って変わり、洞窟のほとんどが水で満たされている。
足元を見ると、通路と呼べる部分は2メートルほどの幅しかなく、戦闘行動には不安が残る地形だ。
(足場が少ない。奇襲を受けても、大きくは回避ができないな。・・・後は。)
視線を上げて、水辺を見る。
水面にはぽつぽつと岩肌が見えた。
(距離的に飛び移れるだろうが、足場が悪いことに変わりはないな。)
一時的な回避には使えるだろうが、探索者にとって不利な地形であるのに変わりはない。
おかん〈探索者がふるいに掛けられる階層ね。通路の幅が限られてるから、パーティーでの移動に制限が掛かる。〉
〈こういう地形的な不利があるから、パーティー探索は3~6人が良いと言われてるアル。日本の軍隊が探索者に任せてダンジョンに潜らないのも、ダンジョン内の地形が作戦行動を阻害しているからアルな。〉
〈厄介な地形だ、こんなところでモンスターに遭遇したら・・・〉
〈戦闘はしにくいだろうな。逆に言えば、ソロのクソガキはパーティーより動きやすそうだが。〉
確かに足場という点でいえばその通りだが、水中からの奇襲を考えると、警戒範囲が広すぎる。
最初の奇襲に反応できるかが、攻略の鍵となるだろう。
〈でも、ありがたい面もあるのだよ?ちょっと水中を見てほしいアル〉
コメントに促され視線を水中に移すと、そこにはいくつかの魚影があった。
「モンスターじゃないよな・・・魚?それも淡水魚か?」
ダンジョンにモンスター以外の生き物がいるとは思わなかった。
〈この水は魔石から流れ出たものアルが、栄養価が高く、生き物の住処に適してるアル。定期的にある水エリアはダンジョンの探索において、飲み水や食料の補給場所として重要視されてるアル。〉
なるほど、戦闘を行いながら探索を進める探索者は、手荷物を最小限にしなければならない。
こういう補給スポットは、深い階層になるほど重要になってくるだろう。
〈似非中国人も詳しいな、現役探索者か?〉
〈ダンジョン内の環境か、ちょっと興味深いな・・〉
〈そうアル!!魔石もそうアルが、ダンジョン内は水が噴き出したり火が噴き出したり生態系が特殊だったりと地上に比べて違いが多いアル!特にダンジョン内の環境は深い階層に行くほど地上とはかけ離れて発見される鉱石も変な特色があったりと研究が進めばすすむほど〉
〈うわっ、メッチャ語りだした。〉
〈オタク特有の早口になってそう。〉
「はいはい、とりあえず先に進んでみようか。この階層のモンスターもまだ未発見だし。」
コメントと他愛のないやり取りをしながら歩いていく。
最も、ここから先は満足にスマホを見る事も出来ないだろう。
戦闘に入る前のリラックスとして、これはこれで重宝していた。
”チャプ”
「っつ!」
水音がしたと同時に、その場から飛びのく。
”ビュドオオオ”
その一瞬後、さっきまで居た所を高圧の水砲が襲った。
「っぶねえなコラ!」
モンスターの姿を確認する前に、すかさず発射地点へ針を投擲する。
”パンッ”
風によるブーストも忘れない。
とっさの反撃だったが体のどこかに刺さるだろうと考え、追撃の体制をとるが。
”ギギンッ”
「何?」
投擲された針は固い外郭に阻まれた。
2本のハサミ状のような腕を持ち、体は固い殻でおおわれている。
背中に岩を背負ったようなその姿は、2メートルほどのヤドカリに見えた。
おかん〈ハーミットクラブよ!!動きは遅いけど、防御力はピカイチ、高出力の水砲を放ってくるわ!!〉
〈見た目こそヤドカリに似てるアルが、背中の岩みたいなのは殻が発達したものアル!!体の一部でもあるから、外に出して攻撃とかは出来ないアル!〉
〈これ、結構やばくね?〉
〈クソガキの攻撃手段的に、防御力の高いモンスターは相性悪そうだよな。〉
「その通りだよ!こん畜生!」
コメントを流し読みした後、悪態をつきながらスマホをしまう。
先の攻撃から、投擲武器は牽制にすらならないことが分かった。
それならばと双剣を構え、風による斬撃強化を行う。
幸い、ハーミットクラブの動きは早くない。
速度面だけ見れば、懐に潜り込むのはたやすいだろう。
・・・・・速度面だけ見れば。
”ビュドオオオ”
ハーミットクラブの水砲が襲ってくる。
限られた通路内での回避を余儀なくされるが、距離を詰めることが難しい。
(くそ!砲撃も厄介だが、何より地形が悪い!!回避場所が限られてくるうえ、攻撃対象の居場所が悪すぎる!)
水中から浮上しているとはいえ、ハーミットクラブのいる場所は水面である。
(飛び掛かっても回避されたら後がないし、空中の身動きが取れない中水砲を打たれたら終わりだ!!)
相性の不利に、場所の不利。
竜馬にとって最悪な状況での戦いが始まった。
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