第6話 リスナー竜馬チャンネルの楽しみ方を知る

「さてと、こんなもんかな。」


雑談配信から3日後、俺は配信で言っていた通りダンジョンへ来ていた。


「配信開始。ドーモ、竜馬チャンネルの見習い探索者、如月竜馬です。

今回は雑談で告知した通り、3層の攻略を始めていきます。」


〈お、はじまった。〉

〈今回はダンジョン配信か。〉

〈雑談で言っていた思い付きは何かな?〉

〈またソロで来てるのね、全くパーティで来いとあれほど言ってたのに。〉


配信を始めると、次々とコメントが流れる。


少し視聴者が増えているようで、初見らしきコメントも見られた。


「初見さんは初めまして、今回は雑談配信でリスナーと話した方法を色々と試していきたいと思います。」


軽く挨拶を済ませて、早速本題へ移行する。


既に3層の入り口へは辿り着いているので、早速索敵し対ウルフ戦に入っていく。


〈とはいっても、具体的な結論は出なかったよな?〉


〈地道に風属性の魔法を覚えようって結論じゃなかったっけ?〉


〈いや、何か俺たちの話を聞いて思いついたって言ってたから、それを試すんじゃね?〉


〈私のパーティー組めって言う話しをガン無視なのは確かね(# ゚Д゚)〉


〈キレるなキレるな〉


コメントで漫才じみたやり取りがされているが、ここからはスマホを確認する暇はない。


「さて、攻略開始だ。」


スマホをポケットにしまい、双剣を構えて通路を進んでいく。


すると、通路の向こうからウルフの鳴き声が聞こえてきた。


『ヴァウ、グルルルr』

『バウ!』

『グルルルルルル!』


通路を超えて走ってくるウルフは、全部で6体。


前よりも2体ほど多く、この時点で前回と同じ戦法は取れない。


「まずは先制!!」


先頭のウルフに向かい走り出す。


そのままのスピードを維持しつつ、ウルフの爪を避けてカウンター気味に刃を放った。


〈それ!前回かわされたでしょ!〉


〈だめだこいつ!全然反省してない!〉


〈単発攻撃じゃ通じねえって!〉


見えてはいないが、コメントでは批評の嵐だろう。


ここまでは前回の焼きまわしであり、ウルフは即座に反応して躱されるだろう。


(だが!ここからはちげえ!)


剣を振るう右手に衝撃が走る。


正確にいうなら、右ひじと手首付近で空気のはじける音がした。


それと同時に振るった刃が、劇的に加速する。


『ガゥァ!?』


ウルフは身をひるがえして回避運動に入っていたが、急激なスピードの変化についていけない。


結果的に双剣の一撃は、無防備なウルフの首筋へと吸い込まれた。


〈ハア!?今、腕の振りだけがすごいスピードで加速した!?〉


〈なんか、空気がはじけるみたいな音したんだけど、何!?〉


〈魔法?それか、身体強化でもかけたのか?〉


〈いえ、違うわ!圧縮した空気を爆発させて、瞬間的な加速を得た。なんて無茶するのあの子!!〉


やったことは簡単で、ようは"風で背中を押した"のである。


違うのは、圧縮した空気を開放しその反発力を用いたこと、それと肘と手首のピンポイントで行うことで、腕の振りという部分的な加速に終始したことだ。


(ウルフの身のこなしから来る回避力は確かにすげえ。でも、攻撃途中からいきなり斬撃が早くなったら、いくら何でもかわせねえだろ!!)


これがリスナーとの雑談で思いついた、『スポットブースト』だ。


身体制御にこそ気を付けないとだが、やってることは部分的な風の制御。


風による斬撃強化の延長でしかない。


3日もあれば、十分ものにできる技術だった。


〈いや、理屈は分かるけどやるか普通。〉


〈手元で風船を破裂させてるようなものよ。ダメージはないでしょうけど、普通ビビるでしょう?〉


〈というか、俺のあの『風で背中を押せば(笑)』発言から、こんなん思いつくのか(-_-;)〉


とはいえ、倒したのはまだ1匹。


残りは5匹いる上、仲間がやられたことで警戒度が跳ね上がった。


ウルフ達は一定の距離を保ちながら、じりじりと包囲するように動いていく。


(このまま囲まれるのはごめんだな、新兵器のお披露目と行きますかね!)


包囲が完成する前に、右サイドから距離を縮めてくるウルフに仕掛ける。


先ほどの攻撃を警戒しているのか、対象のウルフは後方へ飛びのき、そのリカバーに2匹のウルフが左から仕掛けてきた。


「これでも、食らっとけ!」


とものベルトから棒状のものを引き抜き、仕掛けてきた2匹と飛びのいた1匹に投擲する。


"パアン!"


投擲の際、スポットブーストでも起こった空気のはじける音がすると、3つの投擲物が凄まじい勢いで飛び出していく。


『ギャン!』


仕掛けてきた2匹にはかわされたが、後方へ飛びのき、空中で回避行動がとれない1匹にヒット。


無力化に成功する。


〈なんだ!?何を投げた!?〉


〈早すぎる!棒状のものを取り出したのは分かったけど。〉


〈今の音、腕の時と同じように風で加速したのか?〉


流石にドローンがある程度離れているとはいえ、視聴者にも見えなかっただろうが。


〈見えたわ!針よ!確かに投擲武器としては優秀ね!!〉


〈針?そんなの刺さるのか?〉


「誰も見えなかっただろうが、こいつは工業用の針だ!そいつを投擲と同時に圧縮した風で打ち出した。」


〈〈〈いや、見えてた人いたけど。まあ、スマホ見れないだろうしいいか。〉〉〉


「こいつが俺の新たな遠距離武器!コンクリート針 小 Am〇zonで2本税込み304円(実際に販売してます)だ!!」


〈〈〈こいつ、財布に優しい武器を用意してきやがった!!〉〉〉


残り4匹、後はもう作業のようなものである。


この投擲武器の利点は、風で飛ばしているという点。


すなわち、投げる動作がなくとも、ある程度の投擲スピードが出るのである。


ならば


(多数の針を予備動作なしで投擲も可能!!)


残った4匹めがけて、針を飛ばす。


回避されるが、最も近いウルフへと向かい双剣を振るう。


身をかがめてかわそうとする所を


「スポットブースト!」


今度は手の甲に風を集めて、斬撃の方向自体を変える。


横向きの斬撃は軌道を変え、回避直後のウルフの脳天に突き刺さった。


・・・・

・・・

・・


最後の3匹は針を使うまでもなく、始末できた。


やはり、斬撃の急制動や軌道の変化は、回避力の優秀なモンスターにも通用する。


戦闘が終わり、周辺のモンスターがいないことを確認して、ポケットからスマホを取り出した。


〈おつかれー、すごかったな!〉


〈いや、ツッコミどころも多かったけど。〉


〈まさか、俺らの雑談からあんな戦闘方法を生み出すとは・・・どういう脳みそしとるんだ?〉


〈一回りしてすごかった!バカだけど!バカだけど!!〉


「やかましい、しばくぞ。」


思わず暴言がでるが、このやり取りも心地よい。


「まあ、そのなんだ。いろいろ助言もらえて助かった。」


〈ツンデレだ、クソガキだけど。〉


〈素直だな、クソガキだけど。〉


〈可愛いとこあるじゃない?クソガキだけど。〉


「うっさい!」


照れくさくなって、つい悪態をついてしまう。


まあいずれにせよ、対ウルフ戦の戦闘方は確立できた。


・針を用いた牽制で動きを抑える。

・飛び掛かり中の滞空時間を狙い牙の届かない蹴りなどで迎撃する。

・スポットブーストを用いたタイミングを外す攻撃で、致命傷を与える。


特に針を使った遠距離攻撃と「スポットブースト」での近距離戦闘は、今後の攻略にも役立つだろう。


「対ウルフ戦、攻略完了・・・かな。」


このまま一気に、3層の攻略を進めてしまおう。

・・・・

・・・

・・

〈と、いじってはみたものの、このガキ実際スゲーことやってるよな。〉


〈なんで冗談じみた雑談から、あんなえげつない技を思いつくんだ?〉


〈カッターナイフ大量装備を発言した俺氏。困惑を隠しきれない。〉


〈いや、でもあの針、コンクリート針って言ったわよね?実際有用だと思うわ。〉


〈工事関係職の俺氏的にベストチョイス、あれって針のくせにマジでコンクリートぶち抜けるんだよ。〉


〈俺たちのコメントが、ダンジョン攻略の進捗にマジで直結するのか。〉


〈俺、作業のBGM変わりに見てたんだけど、見入ってしまって仕事が進まんかった。〉


〈まあ、見ごたえはあるわね。1人で危ないことはやめてほしいのだけど。〉


〈おかんやな。〉

〈おかんや。〉

〈おかんアルナ、間違いない。〉


〈ぶっ飛ばすわよ!!〉


竜馬がスマホから目を離して、3層の攻略を進めている際に。


リスナーたちは竜馬チャンネルの楽しみ方を知ったようだ。


こうして、少しずつではあるが竜馬チャンネルのフォロワー数は増えていくこととなる。





〈ん?今初見で似非中国人いなかった?〉


〈ネット上でのキャラずけアル。私もフォローしたから、次回から本格的にコメントするアル。〉

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