第5話 雑談という名の反省会

翌日自室にて


今回の探索を思い返すと、最終的な勝利を収めたとはいえ改善すべき点が多かったと思う。


対ウルフ戦でやった戦術は、相手が4匹。


もっと言えば、最初の一撃で1匹減らして3対1を作り出したからこそ上手くいったといえる。


あれがもし5、6匹を相手にしていたなら、すかさず追撃が行われ、片方の剣では迎撃できずにやられていたことだろう。


何より、今回の作戦は綱渡り部分が多かった。


ウルフが牙の攻撃に切り替えなければ。


蹴り落したウルフがもう一匹を巻き込まなければ。


その前の攻撃で致命傷を受けていれば。


逆にやられていたのは俺だったろう。


「何とか対ウルフの戦闘ロジックを組み立てないといけないよな。」


反省点も多いが、飛び掛かりからのカウンターや蹴りのリーチを活用しての攻撃は有用だった。


使える部分と使えない部分、組み合わせの効率化は必要不可欠だろう。


(今日は探索を休んで、動きの見直しをするか。)


俺はいつものダンジョンではなく、家の近くにある広場へ足を運ぶことにした。


・・・・

・・・

・・


広場に着くとドローンを起動する。


ドローン撮影による自身の動きの見直しは、最早日課となりつつある。


今日はそれに加えて、ちょっとした思い付きがあった。


「配信開始。・・・ドーモ、竜馬チャンネルの竜馬です。

リスナーさん誰かいませんか?」


思い出すのは、初めてコメントをくれたあの女性。


『3層にいるウルフの脅威はゴブリンの比じゃない。4足歩行による身のこなしが厄介すぎる。』


『ウルフは鼻がいい!血さえ流れていたら、居場所なんてすぐにばれる!』


前回の戦闘で決め手となった、対空迎撃のメイアールアジコンパッソ。


正直、彼女の書き込みが無ければ思いつかなかった一撃だ。


ダンジョンにおける探索知識も相当なものがあったし、彼女だけでなく視聴者からの意見があれば、自身では気が付かない方法が出てくるのではと考えた。


〈ん?配信してるじゃないか!〉

〈今日はダンジョンじゃないの?〉

〈けが大丈夫だったかー?〉


急な配信だったが、反応してくれるリスナーが数人いた。


やはり、コメントが貰えるのは嬉しいものがる。


「ドーモ、今回は昨日の反省会というか、皆さんの意見が聞きたくてはじめました。

なんで、ちょっとダンジョンはお休みです。」


配信の目的を手短に伝える。


俺自身、ダンジョンに潜り出して数カ月のビギナーだ。


リスナーには悪いが、ちょっと強くなるのに利用さしてもらおう。


〈昨日のあれか。アーカイブで最初から見たけど、確かにギリギリだったもんな。〉

〈まあ、探索は無理をしたらあかん。〉

〈当然よ、傷が塞がらないうちに次の探索なんてするもんじゃないわ。〉


彼女からの書き込みがあった。


どうやら、見てくれていたみたいだ。


「昨日のあれが綱渡りだったのは自覚してる。最初にやった、逃げながらの迎撃が上手くいけばよかったんだけど、ウルフの身のこなしは相当だった。」


昨日の一戦を思い出しながら話していく。


「身を削りながらでも、相手の隙が生じる攻撃を引き出したかったんだ。

攻撃の瞬間に意識がそがれるのは、2階層のゴブリンで学んでたから。」


ウルフへの蹴り込みは、俺がさんざん煮え湯を飲まされた、ゴブリンから学んだものだ。


攻撃しようする一瞬の隙をつかれると、とんでもないダメージを受けるのは身をもって知っている。


〈は?あの攻防が全部計画通りだったってこと?〉

〈マジか、片方の剣落としたのもわざとか、アホやろ!〉

〈いや、確かに違和感はあった。振り向き攻撃が外れても冷静に見えたし。〉


リスナーから驚きの声が上がるが、違和感や狙いを感じていた人も数人いるようだ。


(・・・違和感を感じさせてる時点でまだまだだよなー。)


反省点は色々多そうである。


・・・・

・・・

・・


〈昨日も書いたけど、パーティは組まないの?モンスターの討伐は、攻撃をさばく人、攪乱及びアタッカー、後方からの支援及び遠距離攻撃の最低3人で成り立つのだけど。〉


〈確かに、ソロって探索者にいないよな。〉


〈そりゃあ、1対多数を危険なダンジョンで繰り返すのは危なすぎるだろう。〉


「いや、それはそうなんだけど・・・・。相手がいないのはどうしようもないんよ。

友達自体が少ないし・・・探索者見習いのとなると、全くおらん。」


〈〈〈なんだ、ボッチか(ね)。〉〉〉


「違うわクソが!探索者見習いの友人がいないだけじゃ!」


痛い所をついてくるが、やはりリスナーとのやり取りは勉強になる。


中でも、最初にコメントをくれた女性の知識量は相当のものだ。


単なる雑談配信のはずが、気づけばリスナーとのやり取りに熱中していく。


〈大体、あんたの属性は何なのよ!双剣と投げナイフは使ってたけど、魔法は使ってないわよね?〉


〈そうだよな。現状何ができるのかは把握しときたい。〉


〈あのウルフ戦も、遠距離攻撃があればもっと楽だったろうしな。〉


「ああ、俺は風属性持ちだ。最も魔法としては覚えてなくて、刃に纏わせて切れ味を上げている」


ここでいう属性とは、探索者各々が得意とする魔法の種類だ。


地水火風の4種が基本で、ごくまれに2種持ちや氷・毒・雷などの異端属性持ちがいる。


〈なるほどな、比較的短めの剣なのに一太刀で無力化できてたのは、切れ味を上げてたからか。〉


〈しかし、魔法が使えないのは痛いよな?〉


〈ああ、遠距離攻撃はあった方がいい。威力が低くても牽制になるし、攻撃の切っ掛けを作り出せる。〉


〈風属性の魔法は出が早いものが多いわ。対して決め手に欠ける属性でもある。

高威力のアタッカーが欲しいわね。〉


「ああ、だからトドメは切れ味を上げた双剣でになると思う。魔法は覚えたとしても牽制や目くらましかな。」


色々と有用な意見は出るが、3層攻略への決め手には欠ける。


それでも、次々と提示されるコメントに段々と頭が回ってくる。


「風を使って、移動速度を上げれないかな?ウルフの厄介さは身のこなしと速度だ。速度だけでも上回れたら、戦闘はだいぶ楽になる。」


〈風を体に纏って移動速度を上げる魔法があるけど、難易度高いわよ?あと、直進的な動きが多い分、対捌きは悪くなるわね。〉


〈下手な強化は、長所を殺すぞ?〉


〈後は、風で背中を押すとか?いや、それこそ動きがわけわからんくなるよな(笑)〉


〈素直に魔法を覚えていって、少しずつできる事を増やすしかないんじゃない?〉



・・・・ん?


こいつらのコメントで、一つ思いついたことがある。


多少の練習は必要だけど、これはよい技になるのではなかろうか?


〈それから何だっけ?遠距離攻撃だっけ?〉


〈それこそ魔法覚えろって話だろ?〉


〈なあなあ、今は遠距離武器って投げナイフだけなん?〉


「ああ、投げナイフが1本だけで戦闘の都度拾ってる。だから前回、一回離脱した時に回収できなくて、それ以降遠距離攻撃ができなかった。」


〈いや、複数本もってきなさいよ。1本はいくら何でも少なすぎるわ。〉


「ナイフ1本でも高いんだよ・・・高校生の懐なめんな。」


〈草〉


〈草〉


〈貧乏乙!〉


「しばくぞ!」


ちょくちょく話が飛ぶが、これはこれで楽しいものがある。


〈いっそのこと、安物のなんかを大量に持っとけば?〉


〈安物ってなんだよ(笑)〉


〈カッターナイフとか(笑)〉


〈そんなものダンジョンに持ってきた日には、しばきまわすわよ!〉


〈〈サーセン!!〉〉


段々とアホな話題が多くなって・・・・?


まただ、何かが引っかかる。


何か重要なヒントがあった気がするのだけど。


「とにかく、お前らの話で少し思いついたことがあるから、これからちょっと練習するわ。ということで、今回の配信はここまでな!

3日後くらいに、3層攻略するからその時また見に来てくれ。」


今は、この配信で思いついたアイディアを形にすることを優先する。


そのためにも、一旦配信を終わらせることにした。


〈?今の雑談でなんか思いついたの?〉


〈とりま、今日は終わりなわけね。〉


〈ちょうどいいし、俺もレポートに戻るかねー〉


〈3日後だな、仕方ないから見に来てやるよ。〉


〈俺も見に来るわ!乙〉


〈乙〉


さてと、配信を切って思いついたアイディアを形にしますか。

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