第3話 初めての配信

「よ!竜馬!お前やっとこさ2階層攻略できたんだな(笑)」


登校すると友人の凛太郎が話しかけてくる。


ゴブリンとの一戦以来、こいつにはドローンを借り続けているのだが、その条件としてダンジョン動画を提供しているので、攻略状況を把握されているのだ。


「まあ、本当にやっとこさってとこだな。

動画のおかげでモンスターのパターンが分かったから、そこからはすぐだったけど。」


ダンジョンへ潜るようになってから3ヶ月。


2カ月半も2階層で難儀していたが、あの攻略以降はサクサク進み、前日の探索では第3階層まで到達していた。


「そういえばお前って、ダンチューブの配信とかしないの?」


ダンジョン専用の動画投稿サイトであるダンチューブは、編集した動画をアップする以外にも配信機能というものがついている。


ダンジョンの探索を面白おかしく視聴者に提供することで、スパチャや広告費などの収入を得る、通称ダンチューバーなる職種が昨今は人気のようだ。


「いや、俺がなにしゃべるんだよ。男子の配信とか需要ないだろ?」


最も俺は見たこともなければ、興味もないのだが。


「いや、金策だよキ・ン・サ・ク。どうせ今の収入なんか微々たるもんだろ?

一発当てようとは思わないのか?」


なにをバカな・・・とは思うが、収入面の話をされると弱い。


攻略が順調になってきたとはいえ、儲けなんか無いに等しいのが現状である。


聞けば、探索中の映像を流すだけでも一定数の需要はあるそうだ。


労力が変わらないのなら、少しでも利益になることをやるべきだろう。


しかし・・・


「いや、そういうのは俺向いてないだろう?向いてるのはほら、ああいう連中だ。」


教室の向こうで、騒がしくしている集団を指す。


「今回の配信はよかったよね~!フォロワーが一気に増えたよ!」


「やっぱ、レアモンスターを見れたのはデカかったよな!リスナー曰く、上層じゃめったにお目にかかれないんだってよ!」


「あ、やっぱりそうなんですね?私のリスナーも興奮してて、一緒にいきたかった~!って言ってました。」


「ただでさえ僕ら学生は、限られた階層にしか行けないしね。」


話していたのはクラスの上位カーストに位置する、陽キャグループだ。


友達同士でパーティーを組んでおり、全員が配信者として活躍している有名人でもある。


特に


「でも、やっぱり未来の人気が大きいよね!私たちのリスナー、大体未来から流れてくるもん!」


「そんなことないよ!きっとみんなとのトークが面白いからだよ!」


ひと際目立つ美少女が笑う。


彼女の名は遠崎 未来。


ダンチューブのフォロワー30万人越えの超人気配信者で学園のアイドル。


まさに小説にでも出てきそうな、人物だ。


「トークだってよ、俺にできると思うか?」


「うん、無理だね。」


凛太郎の薄情な反応には腹が立つが、俺はどちらかといえば陰キャよりのキャラだ。


何より、ダンジョン内で探索をしながらトークを盛り上げるとか、出来る気がしない。


動画の件といい、こいつが何をさせたいのかが全く分からないが、少なくとも人気が出ることはないだろう。



「とは言いつつ、お金は欲しいんだよなー。」


いつものダンジョン入り口で、ドローンの配信設定をする。


学校ではああ言ったものの、金を稼ぐ方法はあった方がいい。


幸いにも配信の設定は凛太郎がしてくれたので、俺はドローンのスイッチを長押しするだけである。


「どうも、見習い探索者です。今日はダンジョンの3階層を潜っていきます。

・・・って、だれも見てねえか。」


有名人ならまだしも、素人の初配信なんてこんなものである。


「まあ、戦闘が始まると、スマホ見てる余裕もないだろうしな。」


配信のコメントはスマホに表示されるが、探索中に見る事もないだろう。


感覚的にはいつものダンジョン探索と何ら変わりない。


1階層2階層と難なく進み、3階層に入ると洞窟内が広く開ける。


この階層は、通路全体が広くなっているようだ。


「さて、どんなモンスターがいるのかね?」


軽口をたたきながら探索を進める、配信をしているからか、独り言が多くなっていた。


『ヴァウ、グルルルr』


通路の向こうから唸り声が聞こえる。


その声に反応すると、通路の向こうから4匹のウルフが姿を見せた。


「速ええ、ゴブリンよりも圧倒的だ。複数体いるのは予想道理だけど。」


未だに距離があるはずがウルフ達はみるみる迫り、もう数秒で接敵する。


先頭のウルフに標的を絞り、双剣を構え迎え撃つ準備を整えた。


「まずはひと当て!」


接敵の瞬間に攻撃を加えるが、刃が当たる寸前で身をひる返し空振りに終わる。


後続のウルフが展開し、またしても囲まれる形になった。


「1対多数のロジックは、ゴブリンで構築積みだ!」


頭数が増えようとも、同時に攻撃をできるのは最大3匹が限度。


それも、完全な同時攻撃というのは連携をするモンスターであっても、難易度が高いことを俺は学んでいた。


(故に、基本となるのは1対3の繰り返し。内、2匹の動きを制限しつつ、3匹目の動きを先読みしてつぶす!)


2階層でのゴブリン戦と同じである。


今回は4匹と多いが、1回の攻撃に参加できるのは3匹が限度。


2匹の攻撃を捌く中、わざとスキを見せて3匹目が攻撃を誘い、カウンター気味に仕留める。


これを繰り返すことで、1匹ずつ倒していく・・・・・・はずだった。


「何!?」


カウンター気味に放った一撃は、寸前で躱され空を切る。


仕留めるつもりで放った刃はその勢いを殺し切れず、致命的なスキとなった。


“ザシュッ”


ウルフの爪が脇腹をえぐる。


体制が崩れた所を、次の3匹がすかさず襲ってきた。


「ちい!」


ギリギリで受け流したのち、横っ飛びで転がるように距離をとる。


(一旦引くか?・・・けど。)


一連の戦闘の結果、2層に戻る道はウルフ達の後ろにあり撤退が難しい。


それでも仕切り直しの必要があると考え、自身の背後にある奥へ続く道に駆け出すのだった。



「クッソ痛てえ。けど、何とか離脱で来たな。」


投げナイフでの牽制が上手くいき、一旦ウルフ達から逃げ切ることができた。


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