第1話 動画撮影はじめました

「なんで、勝てねえのかねーー?」


自分の部屋の中でついついぼやいてしまう


俺の名前は如月 竜馬。


今年から高校に通う、高1の学生だ


「もう3ヶ月ほど潜ってるのに、ゴブリンにすら勝てないとは、なさけねー限りだぜ」


この世界には50年ほど前にダンジョンと呼ばれる洞窟ができた


発生した理由は未だに不明だが、ダンジョン内で取れる鉱石や素材は、この現代においてなくてはならない存在となり、かつて抱えていた多くのエネルギー問題が解決したのである。


一方で、ダンジョン内はかつて空想の産物でしかなかったモンスターが生息しており、より深い階層に行くほど、その危険度は跳ね上がった。


「高校生になったからやっとダンジョンへ入れるってのに、これじゃあ先が思いやられるわ」


そんな危険なダンジョンから貴重な素材を持ち帰る者たちは探索者と呼ばれ、国が運営するギルドで管理されている。


「これじゃあいつまでも探索者見習いだ、これ以上のただ働きはご免なんだがな」


俺のような学生は、探索者見習いと呼ばれ、潜れる階層や素材の換金に制限がつく。


装備や準備金を考慮すると、儲けなど無いに等しい


「とりあえず、明日学校終わったらリベンジしてみるか」


・・・・

・・・

・・


翌日、学校にて


「竜馬、今日もまたダンジョンにいくのか?」


こいつは神無月 凛太郎


中学からの腐れ縁で、数少ない友人の一人である。


「ああ、あのくそゴブリンにリベンジかましたいからな」


息まいて答えるものの、いまいち上手くいくイメージがわかない


俺自身、むきになっている自覚があった


「よくやるよ、ひとケタ階層なんてろくな儲けにならないだろう?」


それをこいつもわかっているのだろう、苦笑いしながら話を続ける


「どうせダンジョンに潜るなら、動画でも撮って”ダンチューブ“にでも上げたらどうだ?」


・・・”ダンチューブ“、かつて大手の動画投稿サイトだった会社が始めた、ダンジョン専用の動画、配信サイトだ。


有名ではあるので、名前だけは聞いたことがある。


「あんな岩だらけの所、動画にしたところでなんの需要があるんだよ?」


有名ではあるのだろうが、実際に見たことはなく、岩だらけ、モンスターだらけの動画になんの需要があるのか、俺にはさっぱり理解ができなかった。


「いや、ダンジョンっていう非現実的な場所は非探索者にとって興味深いんだよ。

それに、深い階層なら洞窟内とは思えないような珍しい景観もあるそうじゃないか」


そんなものなのだろうか?


いずれにしてもゴブリンにすら苦労している現状じゃ、戦闘しながら動画を撮るなんて無理だろうが。


「家に使ってないドローン撮影機があるから貸してやるよ。

というか、興味があるからダンジョンの動画や写真を撮影してきてくれ」


ドローン?


というか、ダンチューブの話を振ってきたのはそういうことかよ。


まあ、こいつには世話になっているし、出来る事なら頼まれてやりたいが、俺の実力ではろくな動画は取れないと思う。



「・・・・押し切られてしまった」


ダンジョンまでの道中、手の中には友人に押し付けられた浮遊型ドローンがあった。


凛太郎曰く、動画の撮影にはダンジョン内で稼働する浮遊型ドローンが自動で撮影してくれるらしい。


バッテリーにダンジョンで取れる魔石が使われているらしく、モンスターに落とされる心配もないとのこと。


ダンチューブに自動でアップされる機能とか配信方法とか色々言われたが、ほとんど聞き流した。


とにかく、動画を撮るだけならダンジョン内でスイッチを入れるだけでよいらしい。


装備を整え、ダンジョン内でドローンのスイッチを入れる。


ブーンという音の後、ドローンが浮かび背後の少し離れた位置で止まる。


確かにこれなら動きの邪魔にならない。


「このっ、相変わらずうっとうしい!!」


ダンジョンの2階層でゴブリンと戦う。


1階層では単独で出現するモンスターだが、2階層では複数体出てくる。


単体では雑魚のゴブリンだが、この日は3体が相手であり、この複数体との戦闘を俺は苦手としていた。


『ガッツ』

「痛ってえなクソ!!」


やや、後ろにいるゴブリンが投げた石が、頭にあたる。


額が切れたのか血が流れ、右目の視界が悪くなった。


「クソッ!今日は撤退だな」


幸いにもゴブリンは足が遅く、撤退は容易である。


とはいえここしばらくは、そんな戦闘が続いていた。



「あー、クソ!本当に腹立つ!後ろの奴うっとうしすぎるだろ!」


家に着き、部屋で額の治療をしつつ愚痴をこぼす。

ここしばらくは同じような負け方をしており、自身の不甲斐なさに嫌気がさしていた。


「そういえば、凛太郎に動画を頼まれてたな。

正直、こんな情けねー戦闘見られたくねーけど、一応チェックしとくか。」


机のPCにドローンを繋ぐと、今日撮影した動画ファイルが表示される。


散策シーンを飛ばして、見どころともいえない戦闘シーンを再生した。


「なっさけねえ、完全に後ろを取られてやがる。

なんでこの3匹目から目を離しちまったんだ」


画面の中の俺は3体のゴブリン相手にあしらわれていた。


2体のゴブリンが果敢に攻めていき、最後の1体が死角から攻撃をしてくる。


段々と動きのキレが悪くなり、3体目の攻撃を受ける回数が増えていた。


「しかし、上空からの3者目線って戦闘の流れが分かりやすいな。

あっ!俺なんでそこで防御解くん・・・・だ・・・」


ふと、自分の動きとゴブリンの動きに違和感を覚える。


死角から攻撃するもの、果敢に攻撃するものが入れ替わり立ち代わりしているが


「・・・これ、戦闘の流れ自体は一定か?」


1体が果敢に攻撃をしだすと、もう一体が角度を広く取って攻撃に加わる。


すると最後の1体の攻撃回数が明らかに減った。


そこから2体の攻撃が激しくなり、角度も狭まっていき、広くなった死角に3体目が回り込んで攻撃。


「一連の流れができてる。これ、2体の攻撃角から3体目の仕掛ける場所がわかるんじゃ?」


この動画が、俺の今後の探索者生活にある変化をもたらすようになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る