第5話 ヒールからスニーカー

 春の花の香りがする。花粉症だったら今頃目が涙目になっているんだろうなと思う。

 彼女には、靴を白いヒールから白いスニーカーに変えてもらった。駅で待ち合わせして、この公園に来る前に履いていたスニーカーだ。

 俺はスマホで動画を撮っていた。公園のブランコに彼女は揺られている。

「これはなんの動画ですかー?」

「動画もいいかなーって思ったんだよ」

彼女は笑いながら

「ふふ、なんか照れくさいですね」

「え、なんで?」

「なんでって言われても……なんか変な感じ」

俺は笑うしかなかった。彼女は首を傾げていたが

「人生山あり谷ありですから」

彼女の横顔は流夜さんに似ている。

「運命の人いつ現れるかなぁ。高校ライフを満喫してたら恋人できますかね?」

俺は、彼女がいたことがないので

「えー、俺に聞かないでよ」

と笑った。

彼女は急に立ち上がって振り向いた。その瞳はキラキラ輝いている。

「よし、決めました!! 私、吹っ切れます」

と、高々と宣言する。

「まぁ、そう簡単にいくのかな」

「ドロドロの恋愛小説ばっかり見てるんですか? 少しは未来に期待しましょう!」

彼女はガッツポーズを俺に見せてきた。

俺は動画の撮り終わってスマホをポケットにしまう。

 それから、彼女は思い立ったような顔をして

「結野くんは、恩人ということで、恋人になるとかはないと思うよ」

と、ニコニコしながら言ってきたので

「いや、それはどうぞご勝手にって感じなんだけど」

グサグサ言ってくる天使だなと俺は苦笑するしかない。

「でも、これから仲良くしようね。連絡先交換しよ」

彼女は、俺の顔をじっと見つめた。

 俺は、生半可な返事をしてしまったせいか

「はい」と、答えると、「え、なにそのテンション」とクスッと笑われた。「よろしくお願いします」と言うと、また彼女は笑っていた。その笑顔が素敵だと思った。

 風菜ちゃんは最後にもう一度ブランコに乗った。俺はその姿をまた動画で残す。

「叔父さんとね、よく遊ぶ時に乗ってたの」

俺は黙って聞いていた。

「また、会いたいなぁ。結婚とか私がするとしたら、その時も来てほしい」

彼女の笑顔は桜が咲くように可愛らしい。彼女のその表情は、まるで魔法みたいだと思う。人を魅了してしまう魔法みたいな笑顔を彼女は持っていた。

 そして、また風菜ちゃんは立ち上がる。スカートをパンっと叩いて気合いを入れているようだ。

 そして、大きく背伸びをする。

「叔父さん好き?」

と、俺が訊いたら

「好き」

困ったような、切ない笑いを見せた。

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