第3話 依頼と想い

「肉、食べながら聞きますよ」

と、俺は箸を持って肉を網の上に並べ始めた。

 それから、しばらくして

「俺は俳優もやってるし、ヒットしたドラマにも映画にも出演している。雑誌の表紙とかもよく飾る。だから、それなりにお金もあるんだ。それに、彼女のために仕事頑張ってきたからさ。写真の一枚くらい、撮らせてあげる余裕がある」

 俺は、困ったように笑うだけだった。写真の報酬なんて考えてなくて、「いくらなんですか?」とは、なかなか聞けない雰囲気だったのだ。すると、彼は続けて

「写真は依頼料とは別に払うことにする。君には感謝しているんだ。だから、君の仕事には値段をつけられない」

「えっと、はぁ……」

すごい人と契約を交わそうとしている自分が、信じられなかった。趣味で設立したSNSのアカウントで、こんな大物俳優と話すきっかけになるなんて。

 俺は窓の外を見た。冬の風が吹いているのか、木々の葉が枯れ始めていたのだ。

 俺は、彼に向き直ると

「でも、石倉さん自身が考える、要望はありますよね? それは何なんでしょうか?」

「うん。ウェディングドレス姿で撮ってほしい。後、撮影場所は公園で」

俺は思わず「はい」と言ってしまったが、その後に「え?」と聞き返した。

「その、なんか、花嫁姿に何か理由とかあったり?」

石倉さんはそっと笑って

「たまに会いにいくんだよ。高校生の娘の風菜にね。公園で散歩とかだったけど、最近は会えてない」

俺が、まだ聞きたいような顔をしていると

「花嫁姿で写真を撮ってほしいのは……なんだろう。自分の気持ちに区切りをつけたいっていうか、兄の代わりに父親らしいことをしたいっていうかさ。まぁ、俺自身に理由は分からないんだけどね」

「いえ、分かりました。その……流夜さんの事情はよく知らないですけど、そういうの、大切だと思います」

 まだ、十六の高校一年生の俺は、なんと言えばいいのか分からなかった。自分でツッコんだところでもあるのに。

「大人って不思議だよね。大人なのに、自分で作った原因を自分で対処しきれなくなって、大人の定義みたいなのを俺は知らない。知らないで終わらせられないけど」

 流夜さんの今の顔は、責任感のある顔にも見えるが、自分の無力さを嘆くかのような顔でもあった。

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