第43話
ーーーー首相官邸ーーーー
「ーーーはい、わかりました。では、その場合には日程調整した上でこちらからご連絡差し上げます。
はい、ではよろしくお願い致します」
未来が報告のため入室すると、三村首相がちょうど電話を終えたところだった。
受話器を置いた三村は困惑を隠しきれない様子で未来を見て言った。
「一体どうなってるのかしら。
たった今、アフリカ連合の大統領から直接電話があって是非日本と同盟を結びたいって興奮した様子で言われたのよ。
一通りその内容も確認したのだけれど、どれもこれも日本にすごく有利な内容になっているのよね。これからすぐに議会にかけるらしいのだけれど。決定次第、こちらで調印したいって話だったわ。
国分先生、あなた何かご存知かしら?」
「はい、その件についてですが…
まず、今回来日したアフリカ連合代表のカサンドラ氏が大阪E区に居住したいとのことです。
こちらはカサンドラ氏と片岡 和也様両名のご要望となっております。
つきましては、カサンドラ氏に特例として第伍名家の資格をと考えております。
また、生活面につきましてはカサンドラ氏と第壱名家三女の妃 日向を養子縁組させ、彼女にサポートしていただこうと考えております」
あまりの予想外の事態に三村はデスクをバンッと叩きながら立ち上がった。
「ちょっ、ちょっと待ってもらえるかしら。
予想外すぎて理解が追いつかないのだけれど。
カサンドラ氏が名家となって大阪E区に住むの?それに、妃家三女の日向さんと養子縁組って一体どこがどうなってそんな事態になったのかしら?」
未来はこれまでの経緯を三村に話した。
「とにかく、養子縁組については本人の了承、その他確認は取れているのよね?ならば、問題無いでしょう。
第伍名家と居住についてもあの片岡様のご要望とあらば認めないわけにはいかないわね。
こちらもすぐに根回しに動きましょう」
「それと他に二件報告があります」
未来の言葉を聞いた三村は両手で頭を抱えた。
「今の件だけでもうお腹いっぱいなのだけれどまだ何かあるのかしら?」
「はい、一つ目は非常に嬉しいニュースです。
元あびこ区警察署長である片桐 桃華の妊娠が確認されました。片岡様の精子での初となる自然妊娠です。
現在は病院にて安静にしているところです」
未来の報告を聞いた三村は思わずパンッと手を叩き笑顔を浮かべた。
「そう!それは本当に喜ばしいニュースね!
確か彼女の年齢は……」
「今年で40歳となっております。
また、病室内でのやり取りを第参名家である古賀様が撮っていらっしゃったのですぐに動画にアップされるものと思われます」
未来の報告を聞いた三村はうんうんと大きく頷いた。
「そちらも大変素晴らしいわね。
少し前まで庶民であった彼女が自然妊娠で子を授かり、さらに一般的に高齢といわれる40歳とあれば似たような年代の女性に多大なる希望を与えることでしょう」
「その通りかと。
また、彼に関する配信は日本国内のみならず全世界で視聴されております。
そちらに関しても非常に高い効果が期待できるものと思われます」
補足を入れる未来も明るい将来への道筋がハッキリと見えており希望に満ちた表情をしていた。
「続いての報告ですが、先程のカサンドラ氏のことにも関係するのですが。
アメリカ代表エミリー氏がカサンドラ氏の居住についてお聞きになった結果、是非自分も住みたいと」
「待って!お願いだからちょっと待ってちょうだい。
国分先生、あなた私を過労死させるつもりなのかしら?
カサンドラ氏のことについてだけでも半端ではない仕事量なのにこれ以上にアメリカもですって?
ああ…どうすれば…ここは思い切って辞任した方がいいのかしら?」
頭を抱えてデスクに突っ伏してしまった三村に更に未来の追い打ちがかけられる。
「ですが首相、そう悪いことばかりではありませんよ。
彼女の発言を聞いた他の各国代表も居住希望されておりました。こちらは準同盟国であることを理由に断っておきましたが。
そのうち、先のアフリカ連合と同様にこちらに非常に有利な同盟の申し出があるかもしれません」
備え付けの固定電話が吹っ飛ぶ勢いでデスクを叩いた三村は吠えた。
「仕事量が余計に悪化してるじゃないのよッ!?
よし!辞任しよう。今すぐ辞任しよう!さくさく辞任しよう!
後任は国分先生がやってくれますよね?」
「構いませんが、先ほどお約束されたアフリカ連合との件をきっちり終わらせてからにしてくださいね?
それまでに追加で同盟の申し出があった場合はそちらもお願いします」
そのとき、扉がノックされ三村が許可を出すと秘書官が入ってきた。
「首相に各国の代表から直接話したいとお電話が入っておりますがお繋ぎしてもよろしいでしょうか?」
その瞬間三村の顔は一気に青ざめ、自然と体がわなわなと震えだした。
「そ…その参考までに聞きたいのだけれど各国というのは具体的にどこの国かしら?」
「はい、略称で失礼致します。
順番にヨーロッパ、オーストラリア、カナダ、台湾、ブラジル、ロシア、タイ、インドネシア………etc」
淡々と告げる秘書官に絶望する三村。
そんな三村の様子を見た未来は笑いを堪えて言った。
「では、首相。そちらの方もお願いしますね?
私はこれで失礼します」
「待って、ねぇ!待って!!!」
そんな三村の懇願を無視した未来が退室し扉を閉めると同時に室内からこの世のものとは思えないほどの大絶叫が聞こえてきた。
こうして、三村のブラック企業も真っ青の激務の日々は幕を開けたのだった。
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