第39話

最初はどうなるかと思われた招待だったが、その後は順調に進んでいっておりひとまずは一安心だ。


ちなみに家で待機していた娘を紹介する際に俺の特殊な境遇については説明しておいた。これについては前日に話し合った結果、俺の案を採用したというか押し通した形だ。

他のみんなはパニックになります!や研究対象として攫われたら…なんて反対していたが、その危惧は杞憂に終わったと思う。

というのも、話を聞き終えた要人たちは表面上はみな落ち着いており、エミリーさんに至ってははじめから知っていたらしい。うーん、さすが大国アメリカだ。




それからは各自自由に寛いでもらった。俺に殺到されたら対処しきれなくて困るのでそこだけ禁止にさせてもらっている。

すると、例のトラブルの件からてっきりぼっち確定かと思われたエミリーさんはなぜか優子ちゃんに懐かれており二人で真剣に何か話し合っている。

少し聞き耳を立ててみると、どうやら優子ちゃんの質問にエミリーさんが熱く語っているようだ。


「ユウコ、ニクデース!!ビーフ、ポーク、チキンとにかくニクを食べまくるのデス!」


何の話なんだか。とりあえずうちの常識組に変なことを吹き込むのはやめてもらいたい。



美弥さんと咲希さんはフランス人形のような可憐な子のほっぺをつついたり、髪を撫でたりして楽しそうに語りかけている。


「なぁんて可愛いの!!」「ほんまに、このまま飾っときたいわー」


愛でるのは構わないけれど、だいぶ迷惑そうだからやめてあげてほしい。



杏ちゃんはエルフのようなロシア代表をキラキラした目で見つめながら仲睦まじく笑い合っている。


「そうなんです。良かったら今度お送りしますよ。聖剣レヴァンテ…」


よし!聞かなかったことにしよう。



美里ちゃん親子は南米代表らを相手に熱心に何かを説いているようだ。


「そういうわけで片岡様は現代に降臨された神なのです。そして、その神の子つまり神子があそこに居られる古賀 結月様なのです」


おぉー!!とどよめきが起こる。

うん、変なことを吹聴するのはやめよう。可哀想に彼女ら信じちゃってるじゃないか。



その娘はアジアの代表らに跪かれ拝まれておりかなり迷惑そうな様子だ。


「かの偉大な片岡様の神子にお会いできるなんて!帰国後すぐ像を造らせ本殿に飾らなければ!!」


おっ?美里ちゃん親子と話してた南米代表らも加わって拝みだしたぞ。さらに何やらアジアと南米で揉めだした。ケンカよくない。



桃華さんはカサンドラさんと腕相撲で競いあっておりそこの空間だけ熱気がハンパない。

あっ、カサンドラさんが勝った。


「くぅ〜!こんなことでは超越神様をお守りすることなど…」


え…桃華さん素手で戦う気なの?範馬勇次◯かな?



そんな和やかな?雰囲気のまま時間が過ぎ去っていく。

だが、終始笑顔のカサンドラさんのたまに見せる悲しみを帯びた表情が気になった俺は彼女がトイレに立ったタイミングで追いかけ、表に連れ出し話を聞いてみることにした。



「やぁ、カサンドラさん。

どうしたの?元気無いみたいだけど。楽しくなかったかな?」


「い、いえっ!とても楽しい。桃華さんとてもとても優しい」

慌てた様子でそう言ったカサンドラさんはそれから少し俯いた。


「あの、、、聞いてくださいまするか?」


「もちろんです。何でも言ってみてください」



それから彼女の語った内容をまとめると、

・アフリカは他の国と比べて人工授精技術が劣っており、成功率が高くないこと

・人口が右肩下がりで減少しており、それによって経済的にも苦しい状況になるという負のスパイラルに陥っていること

・もちろん男の数も減り続けていてこのままでは遠くない未来に0になってもおかしくないこと



「そうだったんですね…

でも、すみません。やはり私は娘やみんなを置いて他国へ行くことはできません」


話を聞き終えた俺はまずはじめにはっきり断った。可哀想だとは思うが、こればかりは仕方ない。


「いえ、そんな大それた考えないです。片岡様気にしないでくださりませ」


気丈に笑って見せる彼女だったが、やはり心のどこかでは少し期待していたのだろう。その笑顔はどこか弱々しく感じられた。

何か自分にできることはないんだろうか?何か……考えを巡らせた結果一つの案が思い浮かぶ。

さらに都合の良いことにその案に必要な人物がこちらへやってくるのが見えた。かなりふらふらの状態ではあるが……



「国分先生、ちょっと」と手招きして呼んだ後、二人に今の案を提案してみた。

だが、これまでこちらの要望を全て叶えてきた国分先生がこの案に難色を示した。


「つまり、冷凍保存した片岡様の精子をアフリカへ送るということですね?

それは許可されません」


「どうしてですか?」


「男聖の精子はとても貴重なものというのはおわかりいただけていますよね?

もしも、輸送中に何か予期せぬトラブルで紛失、最悪盗難にあったりする可能性があるからです」


「私たち専用の飛行機で直接受け取りまする」


それならトラブルに巻き込まれたり、盗難にあう心配もないだろう。

だが、国分先生はこれも否定した。


「それでも許可されません。

他の男聖ならいざ知らず、片岡様の精子はもはや国の宝、希望なのです。それを他国へ持ち出すなど上が許可しないでしょう。

そもそも日本では精子の個人的譲渡が禁止されております」


がっくりと肩を落とす俺とカサンドラさんを見て、大きく一つ息をついてから国分先生はぽつりと言った。


「一つ手がないわけではないのです。かなりギリギリではありますが」


その言葉を聞いた俺は目を輝かせて思わず国分先生の手を取った。


「ハァ……

ほんっとどこまでもお人好しなんですから。誰かに聞かれると面倒なので続きは私の診療室で」


三人で病院へと移動しようとしたところで急に玄関が開き、娘が出てきた。どうやら、拝まれるのに耐えきれず避難してきたようだ。


「パパ、どこ行くの?」


「あっ、うん。

ちょっと、いや漏れそうなくらい腹痛いから病院へ」


「カサンドラさんも一緒に??

ふーん、まぁいいけど。ハーフの子なんてのも可愛いしね」


「ち、違うからっ!そんなんじゃないから!」


突拍子もない爆弾発言を慌てて否定する。


「そう?私にはパパがハーフの子を抱いてる姿が見えるけどね。

とにかくこっちはうまく言っとくわ」



何言ってんだこの娘は。拝まれすぎて自分はノストラダムスになったと勘違いしちゃってるのか?今度、頭の病院連れて行こう。




結果、娘の予言は見事的中することになるのだが、それはまだ先のお話。





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