第33話

「ふふふ、もうすぐだ…我にかかればこんなもの造作もないわ!フハハハハハ!!」


「パパ、雑巾持ちながら何を独り言言ってるの?かなり不気味よ。

それより加藤さんたちが来てるのよ。早く行ってあげてね」


「ちょっ…ここだけ!ここだけやらして!終わったらすぐに行くから!」


「はぁ……昔っから掃除しだすと周りが見えなくなるんだから。

わかったわよ。私が応対しておくから。その代わり早くしてね」


そう言って呆れた娘は戻っていったので安心して掃除を再開する。



ーーー三十分後ーーー



「ふぅ…いい汗かいた〜余は満足じゃ。

見よ!この光り輝く階段を!

もはや自分の掃除スキルはカンストしているといっても過言ではないな。うんうん」


芸術の域にまで磨き上げた階段を見て大満足しているところに偶然通りがかった美弥さんに声をかけられた。


「あら?片岡様どうしてこちらに?」


「あっ、美弥さん。

階段を掃除してたんですよ。どうですこの光り輝く階段は、素晴らしいと思いませんか?」


「え、えぇ。とても素晴らしいと思うのですが……」

何かとても言いづらそうにしている美弥さん


「どうかされました?

ハッ!そうか!まだ汚れが残っているってことですね!?私としたことが…もう一度やり直さねば」


「いえ、そうではないんですが…」


「何でも遠慮せず言ってください」


「あの、、、結月さんに加藤さんたちの応対を頼まれ」


その言葉を聞いた俺は美弥さんが言い終わるよりも早く音速を超えるスピードで駆け出したのだった。



「ゼェゼェ…お、お待たせして申し訳…はぁはぁありません」

部屋へ入るなり即座に謝罪する。


すると、娘が立ち上がってこちらへやって来たかと思うと強めの肘打ちが脇腹へと飛んできた。


「いえ、こちらこそ何か重要な用事の最中に来てしまったようで申し訳ありません」

立ち上がった加藤さんは頭を下げて言った。


「あ、あはは〜。じゅ、重要な用事ね」

頭をかきながら明後日の方向を向いて答えた。


「古賀様からそうお聞きしております。

あら…?ところで片岡様そちらの雑巾のようなものはどうされたのですか?」


ついうっかり雑巾を持った手で頭をかいてしまったため頭の後ろから雑巾がちらちら揺れているのを加藤さんに見つかってしまった。


「ちょっと階段の掃除を…あはは」


俺が答えると横で娘があちゃーと額に手を当てていた。


「か、片岡様が掃除なさるのですか?」


加藤さんや神林さんも驚いていたがこの発言は二人のどちらでも無い。

そこで俺ははじめて加藤さんと神林さん以外にあと二人いることに気づいた。


「ええ、まあ…もはや日課といいますか。

ところでそちらのお二人は…?」


「申し遅れました。

私大阪府警本部本部長をしております三条 恵子と申します。片岡様にお目にかかれて光栄でございます」


「同じく大阪府警本部の兵藤 早苗と申します。片岡様にお目にかかれたこと恐悦至極にございます」


二人の言葉を聞いた俺は近寄って順番に二人の手を取った。


「ああ〜、その節は本当にお世話になりました!一度直接お礼言いたいと思ってたんです。

私用にも関わらず警官の皆様に警備していただいたこと本当に感謝しております。ありがとうございました」


「あ、あの片岡様のお手が私にふ、触れて…」

そう言った二人の顔は真っ赤になった後俯いてしまった。


俯いた二人を不思議に思った俺が娘の方を見ると目で何かを訴えかけている。


「(パパ、雑巾持ったままよ!)」


「うわっ!雑巾持ったままでした。本当にすみません」


慌てて手を話して謝罪すると二人がボソボソと何か呟いていた。

「うちこの手…もう洗わ…ん」「そ…な、一生大事に取っと…う」



「ところで、今日はどうされたんですか?」


このままだとまた何かやらかしそうだと思ったので本題へと入ることにした。

すると神林さんが一枚の封筒を差し出してきたので開けて中身を確かめる。


「えぇーと、これはパーティーの招待状か何かですか?」


「はい、来週諸外国からかなりの数の来賓が来られます。その歓迎パーティーの招待状です」



ふむふむ、なるほどなるほど。

で、なんでこれを俺に?と思いながら周りを見ると俺に視線が集まっていることに気づいた。


「えっ!!?まさかこれに出ろと?いやぁ〜まさかね。

ハッハッハ、加藤さんも冗談きついんだから!」


笑いながら見ると加藤さんの目はあの時と全く同じで真剣そのものだった。

あっ、これマジなやつだ…


「いやいやいや!絶対無理ですって!だって俺一般庶民ですよ!?そんなお偉いさんの相手なんて無理に決まってるじゃないですか。

もっと適任な方いくらでもいるでしょう。ほら、第壱名家の方とかそういうのに慣れた男とか」


焦った俺は身振り手振りをまじえながら熱弁したが加藤さんたちは微動だにしなかった。


「今回は三村首相と国分副首相からぜひ片岡様にご出席いただきたいと」


「国分副首相ってまさか…?」


「はい、あの国分先生の姉妹です。それに各国からもぜひ片岡様をとのご指名がありまして」



ははは…これ断れないやつじゃん。

そう確信した俺は一気に放心状態に陥った。


「一応頑張ってはみますけど、どうなっても責任は取れないですからね!」


先に言い訳をすることで少しでも心の負担を軽くしたのだった。









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