第31話

里穂ちゃんに案内されて大根畑へやってきた俺たち一行はその広さに圧倒された。

彼女は狭いなんて言ってたけどとんでもない。見渡す限り畑・畑・畑だった。


「これ全部大根畑?

これで狭いの?嘘でしょ…」


思わず呟いた俺に里穂ちゃんが言った。


「大型の機械を導入したりして効率化を図ればもっと増やせるんですけど、現状これ以上増やしても収穫が追いつかないんですよ」


説明しながらあまりの遠さで豆粒ほどにしか見えない人へ手を振っている。

彼女はちょっとお待ちくださいと言いそっちへ駆けていった。


「人がどんどん減ってるので土地だけはたくさんあるんですけどね」

千夏ちゃんが苦笑しながら補足してくれた。


「これ全部ブリ大根にしたら何人前できるんやろ?想像つかんなぁ」


「ブリ大根も良いですけど、これから冬ですしおでんにしても良いですよね」


「おでんすきー♪」


おでんと聞いてはしゃぐ優子ちゃんの頭を撫でてあげながら隣を見ると千夏ちゃんと杏ちゃんが楽しそうに話していた。

年齢が近いこともあって良い組み合わせなのかもしれない。傍目から見れば確実に杏ちゃんの方が年下に見えるだろうが。

何を話しているのか気になった俺は彼女たちの方へ意識を向けた。



「ーーーーーーそれで、そのとき片岡様が斉藤様に向かっておっしゃったの。

『その女は俺のものだ!手を出すなッ!!』って」


ビシッと人差し指をさしてポーズまで決めた杏ちゃんが誇らしげに熱弁していた。


「そ、それでそれでどうなったんですか?」


「もちろん斉藤様は怒り狂って片岡様に殴りかかってきたわ。

でも、片岡様はものすごい体格差をものともせず傷ついた私を背後に庇いながらも怯むことなく撃ち合ったの。二人の血飛沫が激しく舞ったわ。そして、最後に立っていたのは片岡様だった。

片岡様は激しく傷つきながらも私を見つめて片目を閉じてこう言ったわ。

『俺の嫁になれ。そして俺の子を産め』と」


「キャー♡私もそんなセリフ言われてみたい!それで、杏ちゃんは何て返事したの?」


「『100人でも200人でも…私の身も心も全て貴方様のモノです』と返したわ。

私はその時思ったの。私がこの世に産まれてきたのは全てをこの方に捧げる為だったんだって」


「キャーキャー♡それで杏ちゃんは、そ、その片岡様に初めてを?」


「もちろんです。

はじめはあの方の立派な聖剣がこんな小さな私に受け止められるのか不安だったのですが、今ではすっかりあの方専用になることができました」


「う、羨ましすぎますっ!!

ということは…片岡様は………」


千夏ちゃんは杏ちゃんの膨らみと自分の膨らみを交互に見た後ガックリ首を垂れた。


「大丈夫よ、私が一番なのは間違いないけれどあの方はお優しいからきっとあなたにもチャンスはあると思うわ」


杏ちゃんは気落ちする千夏ちゃんの背中をポンポンと叩きながら優しく慰めていた。




二人の会話を聞いた俺の顔は本当に(´⊙ω⊙`)←こうなっていたと思う。


いやいやいやいや、誰の話ー!!!

ほとんどいやほぼ全て創作なんだけど!?

嫁になれなんてましてや俺の子を産めなんて言ってないし!片目も瞑ってないよな?確かにあのときはハイになってたからちょっとうろ覚えだけども。


Oh.Jesus…

成人組で唯一まともだと思っていた杏ちゃんがまさか……もはやまともなのは未成年組だけなんじゃなかろうか?

ハッ!?いや、もしかして俺はかなり特殊な女性を惹きつける性質でもあるのか!?そういえばあのクレープ屋の店員さんも床舐めるとかなんとか…

いかん!これはいかんぞ!美里ちゃんや優子ちゃんが彼女たちみたいになってしまったら立ち直れる自信がない。

ああ…二人はこのまま真っ直ぐに育って欲しい。ほんと、いやマジでガチ目に。



遠い目をしていた俺を心配した優子ちゃんが「かーくんどうしたのー?」と訊ねてくれた。


「優子ちゃんはこのままお利口さんでいてね」


何のことかわからない優子ちゃんは首を傾げていたがやがて「うんっ♪いっつもお利口さんにするよー!」と気持ちの良い返事を返してくれたのだった。



千夏ちゃんの畑同様のくだりをした後、俺たちは大根の収穫をさせてもらえることに。

軍手をはめていざ収穫のとき!!


「こうやって左右に揺らしながら少しずつ引いていくと折れずに収穫できます」 


ふむふむなるほど。こんな感じかな?

里穂ちゃんの説明を聞いた俺は見よう見まねでやってみる。


「すごーい!初めてとは思えないほどお上手ですよ!あと一息です」


彼女の上手なかけ声もあってやがてすぽっと引き抜くことに成功した俺は感極まって大根を右手に持ち高々と掲げてうおぉぉぉ!と雄叫びをあげた。

横を見るとみんなはまだ頑張っていた。どうやら今回は俺が一番だったようだ。


ふぅ…これで何があってもすぐに対処できるなと安堵した。いや、もちろん何もない方がいいんだよ?


優子ちゃんの方を見ると顔を真っ赤にして引き抜こうと頑張っていた。しかし、力のない子どもではさすがに厳しそうだ。


「優子ちゃん俺と一緒にやろっか!

まずはこうやって左右に揺らして。うん、これくらいかな?

せーので力いっぱい引いてね?

いくよ?せーっの!」


思ったより軽く抜けるようになってたようで優子ちゃんは抜けた大根とともに後ろへひっくり返ってしまった。それでも自分で抜けたことが嬉しいようで無邪気に笑っている。


「杏ちゃん見て見て!自分で抜けたんだよっ!すごいでしょ?」


両手にしっかりと抱えた大根を近くの杏ちゃんへ見せびらかす優子ちゃん。だが、杏ちゃんからの反応はない。



しまっ…!と思ったときにはもう遅かった。

彼女は自分で抜いた大根を見つめて自分の世界に入っていた。


「ああ…まるで貴方様の聖剣レーヴァテインのよう。このまま羽黒家の家宝にしたい…」


それを聞いた千夏ちゃんは顔を真っ赤にして訊ねた。


「か、片岡様のはこんなにも?」


「ええ、そうです。こちらはフル充填モードです」


「うひゃー♡」


周りを見渡すと杏ちゃん以外の成人組もウットリ。カメラを構えた咲希さんは下半身を擦り合わせてもじもじしている。



もうこのまま未成年組と娘以外置いて帰ろうかな?そんな考えがふと頭をよぎってしまったのも仕方ないと俺は思う。




里穂ちゃんのアドバイスで採れたての大根は余分な味付けをせず時間をかけてじっくり焼いた後醤油だけで、葉の方は里穂ちゃんのお母さんがお味噌汁にしてくれた。


「採れたてならコレが一番だと思います。ほんとは葉にも栄養が豊富に含まれているんですけど捨てられる方も多くて…時間があればナムルなんかにしても美味しいですよ。

はいどうぞ」



「えっ!?これほんとに大根!?

うまっ!醤油につけただけでこんなに!?」


「お味噌汁も美味しいです!ちょっと衝撃的です」

美里ちゃんは味噌汁のお椀を持ったまま目を白黒させていた。



「ふふ、ありがとうございます。みなさんの言葉でお母さんもおばあちゃんも報われたと思います」


どこか寂しげに言った里穂ちゃんに理由を訊ねると彼女のところも千夏ちゃんと同様に値段が高くて卸せるスーパーがどんどん少なくなっており、このままだと今年いっぱいで廃業となってしまうようだった。


「もちろんこの大根も買わせてもらうよ!ね?みんな」


満場一致で決定した。


「はいっ!ありがとうございます!山下大根農園で検索していただければ大丈夫です」



その後サツマイモと大根を手にみんなで記念撮影をした。そして、帰ったら必ず購入するよと約束し、泣きながらいつまでも手を振って見送ってくれる二人と別れて帰宅の途に着いた。





ーーー数日後ーーー




「パパたいへん!!これ見て!」


娘が出したノートパソコンの画面には

【あの片岡様が大絶賛!!二年後まで予約で埋まった伝説のサツマイモと聖剣レーヴァテイン(大根)】

との見出しが大手ニュースサイトのトップを飾っていた。



ちょっ!待てよ!

思わずキムタ◯風になってしまったのも仕方ないとわかってくれるだろう。


大絶賛はいいよ?確かに大絶賛したから。

伝説のサツマイモも良いよ、うん、大丈夫。

でも、でもさぁ聖剣レーヴァテイン(大根)はおかしいだろ!なにしれっと大根をサブにしてんの?



スクロールしながら記事を読み進めていくと記事の最後に写真があった。

そこには【命名:聖剣レーヴァテイン(大根)】というバカでかい幕を掲げて満面の笑みを浮かべる二人が写っていた。



この記事が出てから一週間あみだから羽黒 杏の名前が消えたことはいうまでもない。






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