第30話

二人に案内されてまずは千夏ちゃんの家にやってきた俺たち。

千夏ちゃんの家が先になったのは単純に近かったからなんだけど、なぜか千夏ちゃんはふふんと勝ち誇った顔で里穂ちゃんを見ていた。



「へぇ〜熊本ではあまり見かけない感じのお家ですね。同じ日本でも地域差があるんですね。面白くて勉強になります。

あっ!あれはなんでしょうか?」


これまで熊本から出たことがなかった美里ちゃんには全てが新鮮なようで色々なものを興味深そうに眺めていた。

ちなみに美里ちゃんは昨日の夜にE区に到着してからずーっと興奮しっぱなしだった。

お母さんの方は着いて早々にベッドへ直行したが美里ちゃんは興奮のあまりほとんど寝ていないようだ。しかし、そこは若さでカバーできるようだ。羨ましい。

元気いっぱいの彼女を見ながら俺も若いときは友だちと徹夜で24時間桃鉄99年チャレンジとかしたよなぁと思わず遠い目になってしまう。



「家の裏手が畑なんですよ。ちょっとお母さんたちに声かけてきますね」

そう言った千夏ちゃんは走って行った。


後ろを振り返ると里穂ちゃんと美弥さんがなにやら話している。


「ーーーーーなるほど、お魚を好むと。使用人として気をつけていることなどありますか?」


よく聞いてみると主に里穂ちゃんが質問し、それに美弥さんが答えるといった感じのようだ。なんか微笑ましいな。


「それと先程から気になってたんですが、咲希さんがしきりにお腹をさすっているのは…もしかして使用人は優先的に片岡様の、その、せ、精子を人工授精してもらえちゃったりするのでしょうか?」



ぶばッ!!!な、何聞いてんだこの子。



「いえ、そういうことはありません。

ですが、私たちは片岡様から直接子種をいただいております。

昨晩は咲希さんだったのですが、あのチンパンジーは今朝『着床した!うちにはわかる!』などというあらぬ妄想をしていたのでそのせいではないかと」


「ちょ、直接いただけるのですか!!

なんと妬まし…じゃなかった羨ましい。

では、美弥さんも?」


「えぇ、もちろんです。

本当にすばらしい夜でした…片岡様が滾ったモノを何度も何度も私に打ちつけてくださり、やがて熱い熱い液を私の中に……」


身振り手振りをまじえて熱弁する美弥さんとふんふん鼻息荒く続きを催促する里穂ちゃん。


「ちょっ!ちょっー!!ストーップ!!!」


流石に答えないだろうという俺の油断とあっさりと答えてしまった美弥さんに一瞬呆気に取られ止めるのが遅くなってしまった。


「流石に恥ずかしいのでやめて…」


「いいではないですか、片岡様と私の愛の営みを誰かが語り継ぐのはとても素晴らしいことだと思います!

今後はSNSや掲示板にも…」

変なスイッチが入ってしまった美弥さんは止まる気配がない。


「………美弥さん今日から1か月あみだの権利無しね」


ビクッ!!


「あ〜あ、今日辺り美弥さんの番な気がしたんだけどなぁ〜そっか残念だなぁ」


ビクビクッ!!


「嫌がることするんだし仕方ないよねぇ〜。あっ、咲希さん咲希さん。今日から1か月美弥さんのあみだの枠を咲希さんに」

なんやなんやと咲希さんがこちらへ近づいてくる。


「やめますッ!!他の人に話したりするの今後一切いたしません!」


「ちゃんと言うこと聞ける?」


「全て聞きますッ!!」


「お手」


「わんっ♪」


ほんの冗談で言っただけなのに一切の躊躇なく犬になりきりお手をする美弥さん。

ドン引きである。

里穂ちゃん、真似しなくていいから…



そうこうしていると千夏ちゃんが戻ってきた。彼女の後ろにいる二人がお母さんとおばあちゃんなのだろう。


「はじめまして。片岡 和也と申します。

千夏さんからサツマイモの収穫をしているとお聞きしまして。できれば見学させてもらえたらと。

それと、お願いばかりになってしまうのですが良ければ撮影もお願いできればと思っております」


俺が近づきながら彼女たちに言うとお母さんとおばあちゃんは「へ、へへぇ!仰せのままに」とその場で平伏してしまった。



「こちらがお願いしている立場なのですからお顔をあげてください。

本日はどうぞよろしくお願いします」


俺が頭を下げるとやはり「へへぇ!」と平伏してしまう二人だった。




「こここここ、こんな感じで収穫するじゃーん」


収穫しながら説明してくれるお母さんだったがカメラが回っているのもあってか、かわいそうなくらい緊張しており無理に標準語にしようとして変な語尾になっている。


「へぇ、すごい。

ここらへん全部サツマイモなの?」


「はい!

みなさんよろしければやってみませんか?」


千夏ちゃんが気を利かせて聞いてくれた。

これはぜひやってみなければ!

彼女の指導のもとスコップで慎重に掘っていくと立派なサツマイモがごろごろ出てきた。


「やったやった!!みんな見て見て、こんな大きなサツマイモ取れたよ!」


みんなに見てほしくて、興奮し無邪気にはしゃぎながら横を見た俺はそこで異様な光景を目にした。



みんなも無事に収穫できたようなのだが、俺の収穫したものの1.5倍はありそうなサツマイモをウットリと見つめ優しく指を這わせていたのだ。

俺の隣で収穫している美弥さんにいたっては頬擦りまでしている始末。

そして、彼女は小さく呟いた。


「ああ…なんて立派な。まるで片岡様のモノのようです」



ブボォォ!!ゲホゴホッ!



「えっ、片岡様のモノはこんなに…?」


美弥さんの言葉を聞いた千夏ちゃんはサツマイモと俺を交互に見ている。


「えぇ、これが平常時の片岡様のモノです」


「こ、これが平常時…」

ごくんと唾を飲み込んだ千夏ちゃんは「私、入るかなぁ…?」と真剣な目で悩んでいた。


「ち、違うからッ!みんなのジョークだから!!」



その後、みんなを正気に戻してからおばあちゃんが用意してくれたアルミホイルと焚き火で焼き芋をした。


「うまっ!!あまっ!!これマジ?

こんな美味しいサツマイモ食べたことないよ!」


「ほんとに美味しいわね。今までスーパーで食べてたサツマイモは何だったのかしら。

これなら何個でも食べられるわね」


娘もみんなも大絶賛だ。


「うちは有機栽培で肥料にもこだわって一つ一つを大切に育てているんです。

ですが、その分値段が高くなってしまって…売れないのでほとんどが廃棄になってしまっているのが現状です」


暗い顔で下を向いた千夏ちゃんはそう教えてくれた。


「えっ?こんな美味しいの廃棄にしてるの?

俺買うよ、通販とかやってる?」


みんなもうんうんと頷く。


「はいっ!

サツマイモの美園農園で検索していただければ出ると思います。

片岡様に買って食べていただけるなんて…ねぇ、お母さん・おばあちゃん」


見ると二人の目からは大粒の涙がとめどなく溢れ出していた。


「本当こんな美味しいの初めてだよ。

ちょっ…!それパパの!!」


早い者勝ちと言った娘が幸せそうに焼き芋を頬張る様子を見た俺はまあいいかと笑った。



「では、次は私の家の畑へご案内します」


そんな様子を見て嬉しそうに立ち上がった里穂ちゃんは言った。



ん?あれ、待てよ?次の里穂ちゃんの家の畑って確か…なんか嫌な予感がビシバシするんだけど?

かなりの不安を抱えたまま俺たちはお母さんとおばあちゃんにお礼を言ってから里穂ちゃんの家の畑を目指したのだった。








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