第28話
ーー妃邸円卓会議室ーー
「羽黒家を潰す計画はどうなっていますの!第伍名家の一つや二つ潰すのにどれだけ時間をかけているの!?」
会議室に麗香の怒声が響き渡った。彼女からの叱責を受けた女は鬼上司に叱られた部下のように萎縮してしまっている。
「そ、それが調べさせたところどうやら国が支援をしているようでして…」
第参名家当主の
「あなたのところの斉藤様があんな目にあわされたのよ!?それをわかってるの!?
望月家の総力をあげて議員買収を進めなさい!
わたくしの方でも多方面に働きかけておくわ」
「あ、ありがとうございます!
第壱名家の妃様が動いてくださるのであれば成功は確実でございます」
「あなたたちもわかっているわね?」
麗香はギロリと会議に参加している他の面々を見渡した。
「もちろんでございます!我々一同どんな協力も惜しまない所存でございます」
会議に参加する名家当主たちからの協力を取りつけた麗香はやっと落ち着いたとみえて満足気にソファへ体を沈めた。
「ふふ、わたくしをコケにした報いを受けてもらうわ。従順になったところでたっぷり可愛がってあげましょう、片岡様」
麗香が従順になった彼を妄想し愉悦に浸っていたところで会議室の扉が荒々しく開かれた。と、同時に一人の若い女が慌てて飛びこんできた。
「お、お母様大変でございます!!」
「
第壱名家としてあるまじき失態です。反省なさい!」
妄想を邪魔された腹立たしさと他の名家当主の前で慌てふためく様子を見せた娘に麗香は手に持った扇子を叩きつけながら怒鳴った。
母からの特大の叱責を受けた日向は先の望月 南同様萎縮してしまいその場から動くどころか口さえ開けなくなっていた。
イライラしたまま退室を命じようとした麗香はふと考えた。
日向は妃家の三女ながら第壱名家としてどの男聖にお仕えしても恥ずかしくないよう幼い頃から厳しく躾けてきた。
我が子ながら容姿・学業・作法に至るまで長女や次女たちと遜色がない、いや肩書を除けばそれ以上だという自負が麗香にはあった。
そんな日向がここまで取り乱すというのはよほどのことがあったのではないか?と考え、
「それで…?一体どうしたというのです。
大事な会議を邪魔するほどの何かがあったのかしら?」
「いえ。よく考えればそこまでのことでは…」
「怒らないから言ってみなさいな」
自分の怒声に完全に萎縮してしまっていると感じた麗香は今度は優しい声音で訊ねた。
それでようやく日向は口を開く気になったようだ。
「はい、実はーーーー」
「「「「なんですってぇぇぇ!!」」」」
今日一番の絶叫が室内にこだまし、麗香と他の名家当主たちは転げるように会議室を飛び出した。
⭐︎
「ようこそ!今日はありがとうございます。
あっ、ようこそ!おばあちゃん腰大丈夫?来てくれてありがとうね。
はーい!順番にこちらからお入り下さい!プレートは見えるように右胸へお願いします」
俺が玄関前で案内をしていると10人ほどの一団が並んでいる人たちの横を通り過ぎてこちらへやってくるのが見えた。
先頭にいるのは第壱名家の妃さんだ。
その一団は俺の前まで来ると足を止めた。全速力で駆けてきたようでみな息があがっている。
「本日はまたどのようなご用件でしょうか?」
「ハァハァ…ど、どのようなご用件も何もないわよ!
なんなのよっこの大勢の庶民は!?E区内は庶民の立ち入りが禁止されていることぐらいおわかりですよね!?あなた一体何を考えているの?
警備も警備だわ、こんなに大勢の庶民に侵入を許すなんて…即刻クビよ!
何ぼおっとしてるの!あなたたちすぐにE区から立ち去りなさい!ここは庶民が入っていいところではありませんっ!」
捲し立てるよう言い放った妃さんは怒り心頭な様子。一団の他の面々も並んでいる招待客を追い出そうと必死になっていた。
そして、妃さんがすでに家に入った人たちを追い出すべく玄関に入ろうとしたところを押さえた。
「なぜ止めるの!
ここは庶民なんかが来ていいところじゃないのよ!?」
「あなたが招待客ではないからです。あなた方を家へ入れるわけにはいきません。
それに許可ならきちんと取ってあります」
持参していた一枚の羊皮紙を広げながら彼女に見せた。
「なにをわけのわからないことを。許可なんて出るわけ………………はっ?」
その立派な羊皮紙には今回の企画に於いて名家以外のE区内立ち入りを特例として認めるという内容とともに内閣総理大臣の署名があった。
「あれ?知りませんでした?
SNSやら動画で告知してたんですけどね。
というわけなのでお引き取りください。いくら第壱名家といっても男聖家に許可なく立ち入ることが禁止されてるのはご存知ですよね。
あっ、すみませーん。この方たちを噴水のある広場までお送りしてもらえますか」
紙を見つめたまま呆然とする妃さんを今回の企画に快く協力してくれた大阪府警の警官のみなさんに頼んだ。
「なにあのおばさん」「頭おかしいんじゃないの?」「ねぇ、勝手に来て勝手に騒いで」「許可取ってるに決まってんじゃん」
招待客の中でも若い子たちが固まる彼女を見てヒソヒソと話していた。
その声が聞こえたのかハッとした彼女は手に持った扇子を渾身の力で折った。
「今おばさんって言ったのは誰!出てきなさい!もちろんわたくしが第壱名家当主妃 麗香だと知ってて言ってるのですよね?」
「しらなーい」「あの金ピカのドレス、ほんとに品がないわよね」
どこからか聞こえた言葉に近くの招待客たちからクスクスという笑い声が起こった。
顔を真っ赤にした彼女は周りを見回し威嚇しはじめる。
「あっ、そういえば」
「なに!?」
いつもの口調はどこへやら。俺に対しても他と同じ言葉遣いになるくらい余裕がない。
「これも告知してたんですけど、これ生配信なんで絶賛配信されてますけど、、、みなさん大丈夫です?」
俺はカメラを構える咲希さんを指差した。
俺の指差した方向にカメラを見つけた妃さんたちは茫然自失になりへなへなとその場で膝をついたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます