第26話

「ほぇ〜、ここが羽黒家か。昔の教科書で見た武家屋敷みたい。おぉ、引き戸だ」


今、俺は杏ちゃんを迎えに羽黒邸前にいる。みんなは直接男聖が出向くなど…呼びつければ良いではないですかなんて言ってたけど単純に名家専用住宅街がどうなってるのか興味もあった俺はちょっと散歩がてら行ってくるよと言って半ば無理矢理出てきたのだ。


チャイムが見当たらない。こんな細かいところも日本風にしているところに意識の高さが感じられる。引き戸をノックするか声をかけるか数瞬迷った俺は結局後者を選んだ。


「ごめんくださーい、どなたかいらっしゃいますかー?」


大声で俺が叫ぶと中からドタバタドタバタとすごい音がした。と、次の瞬間引き戸がガラガラと音を立てはぁはぁと息を切らせた杏ちゃんが出てきた。

おぉ、着物だ。なんて愛らしい。


「か、片岡様…どうしてこちらに?申しつけてくださればこちらから参りましたのに」


「やっ!杏ちゃん。迎えに来たんだよ。ついでに杏ちゃんのお母様にもご挨拶と思って。大切な娘さんをお預かりするわけだし」


杏ちゃんが俺の言葉を聞いて戸惑っていると奥から落ち着いた色の着物を着た女性がひょこっと顔を出した。

あの方が杏ちゃんのお母さんに違いない、そう思った俺は90度に腰を曲げて挨拶をした。


「お初にお目にかかります。片岡 和也と申します。本日は娘様をお迎えにあがりました」


「あっ、えっ…は、ははぁ〜!」

お母さんは酷く慌てた後、パニックになったようで殿様にひれ伏すときのような言葉を言いながら廊下の頭に額を擦り付けていた。


「お母様、そんなことなさらなくて結構ですから。頭をあげてください」


それを聞いて頭を上げたお母さんの顔は真っ赤になっており両手で頬を押さえてくねくねしている。


「ど、ど、ど、どうしましょう!お義母様だなんて…こんな素敵な」


あ、お母さん。それはかなり気が早いです。

そんな母を見て苦笑する杏ちゃん。


「片岡様、ここでは人目につきます。せっかくですからお上がりになりませんか?」


「良いの?ラッキー。実はこういう日本風の家にかなり興味あったんだよね。

お邪魔しまーす」


「え、えっ…?

杏、お上がりいただくの?そんな何も準備してないわよ」

男聖が家に来る、ましてや上がるなど考えてもいなかったお母さんはあたふたしながら娘に言った。


「うちのお茶なんかで大丈夫かしら、ご機嫌を損ねたりしたら…」


「あっ、お構いなく。水筒持ってきてるので。

お母様も良かったら一緒にどうですか?ただのスーパーで売ってるほうじ茶ですけど」


「私もよろしいのですか…?

こんなすてきな男聖とお茶だなんて。

はっ!?まさかこれが噂に聞く親子丼というやつでは…そんな、いやん♡」


お母さんそれ盛大な勘違いです。




そうして居間へと案内された俺は用意された湯呑みにお茶を注いだ後、お母さんと向かい合って座ることになった。杏ちゃんは俺の隣だ。


「改めまして、片岡 和也と申します。

大切な娘さんを私のような者に預けるのは不安だと思いますが、杏さんが幸せになるよう精一杯努力してまいります」

そう言って頭を下げた。



…………………………



あれ?おかしいな。返事が全く返ってこないぞ。うーん、こういうのに慣れてないからなぁ。頑張ったつもりだったんだけどどっかミスったか?


おそるおそる顔をあげるとお母さんの目には涙が溢れていた。ビックリして隣を見ると杏ちゃんは顔を真っ赤にして下を向いてもじもじしている。



待って。もう一度よく考えてみよう。

まず、俺の隣に杏ちゃんで向かい合ってお母さん。で、俺のさっきの言葉と…ふむふむ。

って!これまんま結婚の挨拶じゃね!?

杏ちゃんも「ふ、ふつつかものですが…」とか言ってるし。

今更いや違うんです!とは言えない雰囲気だよなこれ…どうすんだよ俺。



うんっ!よしっ!未来の俺に託すことにしよう。頑張れ未来の俺!君ならできるはずだ。



そんなこんなで杏ちゃんを連れて帰宅した俺は今後の話し合いのためみんなを広間へと集めた。


「さて、まず我が家でのルールを設けたいと思います。

一応考えた案があるのでそれをみんなに聞いてもらった上で意見などがあれば遠慮なく言ってください。

その1…ケンカは御法度です。みんな仲良く過ごしましょう。

以上です」


「あ、あの終わりですか?」

みんながポカンとする中、美弥さんだけがかろうじて訊ねてきた。


「はい、終わりです。

それと今後の予定なんですが近いうちにーーーーーというのをやりたいと思っています。

みなさんいかがでしょうか?」


「それってすごいお金かかるんじゃないかしら。パパそのお金どうする気なの?」

俺の提案を聞いた娘が難しい顔をした後訊ねてきた。


「うん、実は資金の方はなんとかなりそうなんだ。国分先生からーーーーーー」


それを聞いた娘はそれなら大丈夫そうねと安心した様子だ。


「警備の方はお任せください!伝手を使ってなんとかしてみせます」

元署長さん、今はもう桃華さんだな。そう言って張り切っている。


「案内などは私たちにお任せください。完璧にこなしてみせます」

そう言って頑張るポーズをしたのは愛莉ちゃんと杏ちゃんだ。


「私たちはそのための準備をしましょうか、ね?優子」「準備?するするー♪」

美弥さん親子もやる気満々である。


「んならウチは……」


「あっ、咲希さんには担当してもらいたいものがあるんだけど良いかな?」


「ダーリンの頼みならなんでもっ!」

ふんす!と鼻息荒く快諾してくれた。


ちなみに美里ちゃん親子はまだE区に来ていない。さすがに学校関係やらの処理をすぐにというのは無理だったようだ。


和気あいあいと盛り上がりをみせるみんなを見て改めてみんなと出会えた幸運に感謝した。


そんなじーんとした感動に浸っていると隣へやって来た娘が脇腹を肘でつつきながら小さな声で「(ほら、例の件…)」と言ってきた。


「(結月さん、今のタイミングですか?)」


「(じゃないとパパいつまでも悩んで言わないでしょ)」


ええぃ!出たとこ勝負だ!

意を決した俺は「がんばろーね!」とお互い励まし合うみんなに向けて話しかけた。


「あ、あ〜。これはルールとか予定とは関係ないんだけど…」


俺が話し出した途端、さっきまでのわいわいしていたのが嘘のように静まり、みんなの目が俺に向けられる。


「その、なんていうか…

この中で俺との子を自然妊娠してみたいなぁなんて思う人、、、いるわけ…」


その瞬間みんなテレポートの使い手だったのかと思うほどのスピードで目の前までやってきたかと思うと口々に喚き始めた。


「はいっはいはい!!!はぁい!!」

美弥さん、目が真剣すぎてちょっと怖いんだけど…

「うちや!!うちが先や!名前も咲希やし!」

咲希さん、名前は関係ありませんよ。

「咲希さん何を言ってるんですか?あなたのようなガサツな人が一番でトラウマになったらどうするんですかっ!?私ですよね!で・す・よ・ねっ?」

愛莉ちゃん、軽く咲希さんをディスるのはやめましょう。あともしかしてちょっとメンヘラ入ってます?

「超越神様の神子を…ぜひっわたくしに!」

桃華さん、俺は神でもなんでもないんで産まれてくるのは普通の子です。

「かーくん、わたしはー?」

優子ちゃん、15年後くらいでお願いします。

「結婚と妊娠が同日だなんて…母が聞いたらどれほど喜ぶことか」

杏ちゃん、今日ヤッたからといって妊娠するとは限りません。



そこで杏ちゃんの言った『結婚』の二文字を聞き逃さかった美弥さんの目がスッと細くなった。



あっ、コレあかん方の美弥さんや…

冷や汗が地面に落ちる前に光の速度で俺の腕をギリギリッと掴んだ美弥さんははり付けた笑顔を俺に向けて訊ねた。


「片岡様?

結婚とはどういうことでしょうか?私にもわかりやすく説明していただきたく思います」


「かーくん結婚するのー?だれとだれとー?」

「結婚やて!?それは聞き捨てならんで」

「超越神様がお決めになられた相手ならば潔く身を引くのみ」

「ふぇぇぇぇ、片岡様はみんなのなのに」

愛莉ちゃんにいたっては泣き出してしまった。




その後たっぷり一時間かけてみんなに説明した後、殺意渦巻く室内で空前絶後の壮絶なるあみだくじ大会が開催されたのであった。





※良かったら誰が選ばれたのかみなさんの希望をお聞かせください。参考にさせていただきます。


あと、女の子(女性)の容姿についてほとんど書いてないのはめんど…ゲフンゲフン。

みなさんの想像する女の子で補っていただくためです。みなさんなりの美弥さんや咲希さんたちを想像しながらお楽しみいただければ幸いです。

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