第23話
ーーー国分家のある一室ーーー
「なんとか上手くいきそうね、助かったわ祥子。このままだと遅かれ早かれ日本も諸外国のようになるところだったもの」
「えぇ、なんとかね」
「けれど、あなたからの報告を聞いたときは驚いたわ。まさかそんな男聖が存在するなんて考えてもみなかったから。
それと、あの話は本当なの?羽黒家の長女のために斉藤様を打擲したって話」
「えぇ、全て本当よ。
その件で羽黒家がピンチになったことがかえって良かったみたい。あのまま何もなく視察を終えてしまったら確実にご承諾いただけなかったでしょうから」
「そう、本当のことなのね。
彼のことあなたはどう思ってる?」
「まだ日が浅いから確実なことは言えないけれど、一般庶民と同じ感覚を持ってると私は思うわ。困ってる人を放っておけなかったりね。
国の存続のためだけでなく今の日本には彼のような男聖が必要よ。言いたいことはわかるわよね?」
「えぇ、わかっているわ。
彼の望むことは全て調えましょう。そのための根回しはもう済んでいるわ。
あなたは引き続き彼の様子を見てちょうだい。それと、可能なら自然妊娠の方もね」
「さすがは姉さん。
私の方も可能性がありそうな人選はすでに終わらせてあるわ」
日本の未来に一筋の希望を見出した二人はふふふと笑いあった後それぞれ部屋を後にした。
⭐︎
「ふぁぁぁぁ、眠いなぁ…
けど、この時期のゴミ出しは最重要だからなぁ。放置なんてした日には、、、考えたくもないな」
独り言をつぶやきながら玄関の扉を開けた瞬間、予想だにしない目の前の光景を見た俺は呆気に取られてしまった。
だが、なんとか声を出すことに成功する。
「あの、、、みなさんまだ五時半ですけど何をしてらっしゃるんですか?」
玄関付近には大阪に帰ったはずの美弥さん親子をはじめとした全員が膝をついていた。
「私たちを名家にしていただけるだけでなく専属使用人としていただけるとお聞きしまして、いても立ってもいられず馳せ参じた次第です」
みんなを代表するかのように署長さんが口を開いた。
俺を見た優子ちゃんは「かーくんだ!あのね足痛かったの」と言いながら走り寄ってきて足にしがみついてきた。
「そっかそっか。足痛かったね、痛いの痛いの飛んでけ〜!」
優子ちゃんをあやしながらみんなに声をかける。
「あのことはまだ先のことですし、国分先生はおそらく大丈夫だっておっしゃってましたけどまだ正式に決定したわけでは…」
玄関前での騒ぎに気づいた娘もやってきたが俺と同様に目の前の光景を見てギョッとしている。
どうしたものかと俺と娘が困り果てているとアパートの階段の方から声をかけられた。
「あっ、みなさんお揃いでしたか。
それでは参りましょうか」
声のした方を見ると加藤さんに神林さん、国分先生までいる。
「あの…行くってどこにですか?」
全く話の見えない俺は加藤さんに訊ねた。
「ふふふ、片岡様は御冗談もお上手なんですね。
大阪ユーフォリア特別区域に決まってるじゃないですか」
はっ…?いや、確かに昨日の夜に娘が神林さんにOKを伝えていたのは知ってるよ?
けど、けどさぁ…
「あ、あの昨日の今日なんですけど…?
それに、国の方の話し合いや手続きなんかもまだなんじゃ?」
「爆速で終わらせました!!」
エッヘンと胸を張って答える加藤さんから『バクシーン』という幻聴が聞こえた気がする。
足元では優子ちゃんが「お引越しの準備終わってるのー♪」と嬉しそうに俺を見上げている。おそるおそるみんなの方を見るとウンウンと力強く頷いていた。
いやいやいやいや、爆速すぎでしょ!!なにその『ちょっとピクニックに行きたいんだけどいいかな?』『おけまるー』みたいなノリ。
「あ、いやちょっとまだ準備できてないというかなんていうか…
そう!!!ほら!娘の退職がまだですし!」
冷や汗をダラダラ流しながら俺は一筋の光明を見つけ、それを言い訳になんとか凌ごうとした。
「あっ、それなら朝一番に私のと一緒に終わらせておきましたぁ。
みなさん『聖母様〜』と涙を流しながらハンカチを振っていましたよ?」
屈託のない笑顔を浮かべてあっさりと一筋の光明を消し去ってくる愛莉ちゃん。
「あっ、うん…そうなんだ」
うん、悪気ないのはわかってるよ?善かれと思ってやってくれたんだってすごくわかる。けど、けど、今だけはその善意がとっても重いよ愛莉ちゃん…
「お部屋の片付けの方ですか?それもご心配には及びません。
お前たちッ!」
そう言って階段下に向かって呼びかける加藤さん。
その言葉をきっかけにたくさんの筋骨隆々な女性たちが階段を昇ってきた。
先頭の女性は腰に手を当て、その後ろは先頭の肩に手を置き、更に後ろは二番目の女性の肩に手を置いて…足並も全てキッチリ揃っている。
地下帝国の作業員たちかな?お給料はペリカとかじゃないよね?
「お前たちにこちらのお部屋の片付けを言い渡す。
いいか、チリ一つ残すんじゃないぞ」
「「「「イエッサッー!!!」」」」
すると突然201号の玄関が勢いよく開かれ中から怒り狂ったおばちゃんが出てきた。
「あんたたちっ!!何時だと思ってんだい!!」
うん、このおばちゃんが絶対的に正しい。間違いない。
みなを代表して謝ろうとしたそのとき闇のオーラを纏った四人の魔王がゆらぁっと立ち上がった。
「じ、慈愛神様を怒鳴りつけるなど…」「絶対コロス…」「ただ殺すだけでは生ぬるいですわね…」「磔拷問の末、晒し首にしてくれるわ」
四人の手にはどこから取り出したのか恐ろしい凶器が握られていた。
それを見たおばちゃんは「ひぃぃぃぃ」と悲鳴をあげ勢いよく扉をしめて部屋へ引っこんでしまった。
「ちょっ…ちょっと今のはこっちが…」
そう言って娘が四人を止めようとしたが、全く止まる気配がない。それどころか闇のオーラが更に増した気さえする。
「お、おすわりッッッ!!」
「「「「わん♪」」」」
やぶれかぶれで叫んだ俺の一言が功を奏したようだ。
本物の犬のように舌を出してお座りした四人の姿を見た俺はこの先大丈夫だろうかとおそろしい不安に駆られたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます