第22話
「ーーーーーというわけなんだけど」
「はぁぁぁ…どこに行ってもトラブル起こしてくるのね。
で、パパはどうせその杏ちゃんを助けたいって考えてるんでしょう?」
アパートへ戻った俺は娘にE区でのできごとを説明した。すると、大きなため息とともに今のお言葉が返ってきた。
「そうだね、名家の諸々は全部国がやってくれるらしいしこっちは何もする必要が無いってのも大きいかな。
それに、パパが何かの役に立てるなら…」
「…この歳になって弟妹ができるかもしれないなんてね、世の中本当にわからないものね」
娘は諦めの表情とともに小さく笑ってから下を向いた後少し暗い顔になって言った。
「…パパ、私ね本当は子ども欲しかった。けど、無理だった。18のときに検査を受けるとね99%無理だってお医者様に言われたの。
当時、今もだけれど男聖の精子は本当に貴重で、私には1%の希望にかけるなんて選択は到底できなかったの。
あのときパパも聞いてたからわかると思うけど、ほとんど女の世界になってから不妊の人は欠陥品なんて呼ばれて差別を受けるのよ。
庶民はどれだけ綺麗にしたところで男聖と出会ったりできるわけじゃないでしょ?だからそういうところで女同士の格差をつけるの」
ああ、あのときの彼女らの発言はそういうことかと納得した。
今までつらい思いをたくさんしてきたであろう娘に俺はすぐにかけてあげる言葉が見つからなかった。
「でも、弟妹ができるなら嬉しいわ!
おばあちゃんとしてでも良いから子どもと接したいの」
だけど、次の瞬間には前を真っ直ぐに向いて笑顔を俺に向けてくれる娘。
ああ…俺がいなくてもこんなに強い子に育ったのか、しのぶちゃん本当にありがとう。
自然と涙が出た。
「何泣いてるのよ!!
そうだ、せっかくだから弟がいいわ!!相手の子が望むならじゃんじゃんヤッてあげて!」
「泣いてないし。
それに娘が親にじゃんじゃんヤッてあげてとか言うのはどうかと思うよ」
ひとしきり二人で笑いあった。
「ところで、パパは誰を考えてるの?
はっ!まさか、、、美里ちゃんじゃないでしょうね?このロリコンオヤジ!」
一言も何も言ってないのに自分の中で答えを出した娘は俺を罵倒してくる。
「いやいや、中学生はちょっと…
というか、本当にパパと、、、なんていうかそういうの望む人とかいるのかな?意気込んだ結果0人でした!とかなったらパパは精神崩壊を起こす自信しかないよ!?」
「大丈夫よ、私のパパだもん!自信持って。それより希望者が殺到しないかの方が心配だわ…」
「それなら良いんだけど。
まずは身近に望む人がいるならそこからかな。ゆくゆくはネットで希望者を募っててのもアリかなと思ってる」
「それって庶民もってこと?」
「うん、パパもみんなと同じ一般庶民だからね」
それは良いわね!!と体を乗り出し答える娘。
お、おう…そんな食い気味で来られても。
「ところで、早く美里ちゃんやお母さんに伝えた方が良いんじゃない?もし、その気があるなら中学校のことなんかもあるからこっちより大変なんじゃないかしら」
娘から言われてそりゃそうだと思った俺はすぐさま隣へ向かったのだった。
チャイムを鳴らすとすぐに扉が開いてお母さんが出てきた。
「片岡様、おっしゃっていただければこちらから参りましたのに…」
「いえいえ、あの、美里ちゃんいますか?」
俺がそういうと目から大粒の涙をぼろぼろとこぼしたお母さん
なんで今泣いたの!?美里ちゃんいる?って聞いただけなんだけど!?
「み、美里を御所望でいらっしゃいますか?すぐに準備を調えさせますのでっ!!片岡様はお布団の方でお待ちいただければ…」
あっ、、、
俺は気づいた、時間がとっても悪いことに。この時間訪れたらそう思われても仕方ない。慌てた俺は否定するための言葉を発した。が、その言葉はもっとまずかった。
「あっ、いえお母さんも一緒に…」
「わ、わ、わ、わたしもですかっ!?
全く想定しておりませんでしたので、その、準備に少々お時間をくださいませ。
…下も処理しなくちゃ!」
盛大な勘違いであたふたしているお母さんだったがその顔は期待に満ち満ちている。
その後、なるべく傷つけずに誤解をとくのにそれはもう苦労した。うん、頑張ったよ俺。
「私ったら早とちりしちゃって…
本当に申し訳ございません」
隣では美里ちゃんが「お母さんはほんとにっ!」とプリプリ怒っている。
「それでお話というのは…?」
二人のやり取りを見ていると美里ちゃんの方がしっかりしてるように思えてくるから不思議だ。
「あ、そうですね。
えっと、突然なんですが、、、名家になりません?」
ズバッと直球を放り込んだ。
「「…は?え、、エェェェェェェ!!?」」
二人は同時に叫んだ。それはもう向かいの家にまで響き渡るぐらいの声で。
「わ、私たちがですか!?」
訊ねたのは美里ちゃんだ。
「うん」
「で、でもうちお金ないですよ?」
「あぁ、その辺のことは国が全部やってくれるらしいから心配しなくて大丈夫」
指でOKマークを作って答えた。
美里ちゃんは頑張って受け答えしているというのにお母さんは「わ、私たちが…名家名家」とうわごとを呟いて放心状態だ。
「…片岡様はE区に行かれるのでしょうか?」
少し考えこんだ後美里ちゃんが訊ねてきた。
「少しの間はそのつもり。ただずっといるわけじゃ」
「なりますッ!!!」
俺の言葉を最後まで聞かずに身を乗り出して答える美里ちゃん
「あっ、いや中学校のこととかもあるし別に無理にと」
「な・り・ま・すッ!!!」
「あっ、うん…」
若干血走った目で答える美里ちゃんに俺はそれしか言えなかった。
え?情けないって?いや、無理だよあれは。うん、むりむりむりむりかたつむり。
玄関を出る際後ろを振り返ると笑顔で見送る美里ちゃんといまだにあの時のまま呆然としているお母さんがいた。
「なりますっ!!!すぐなるっ!今すぐっ!!」
家へ戻るとこれまたバカでかい声が響き渡っていた。
「あのね、落ち着いて。今すぐじゃないのよ。手続きなんかもあるでしょ?」
そんな相手を娘が必死で諭している。
「やぁだぁぁぁ!すぐなりたいのっ!お仕えしたいのっ!」
めっちゃ駄々こねてる…誰だろ?
立体映像を見ると相手は愛莉ちゃんだった。そういえば娘が愛莉ちゃんは男聖に仕えることが夢なんだって言ってたっけ。
その後駄々をこね続ける愛莉ちゃんを相手にたっぷり一時間かけて説得に成功した娘はぜぇぜぇと息を荒げ疲労困憊の様子だった。
「あ、あと美弥さんのとこと咲希さん、それに署長さんのとこもお願いね」
ニコッとした笑顔で軽々しく言う俺にまたもや娘の怒声が響き渡ることとなったのだった。
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