第21話

俺の予想通りで商業エリアの奥に見えたバカデカい建物が例の病院だった。

少女を背負い中に入ったまでは良かったのだが、加藤さんが受付したところ女性を診ることはできないと断られた。

どうやらこの病院は男聖専用らしく規則で無理だということだ。

ちなみにこの受付嬢も絶対ナースではあり得ない格好をしており目のやり場に困った。


「特例として頼んだのですが…やはりダメでした。申し訳ございません」


気落ちして戻った加藤さんと交代で受付に向かった国分先生はバッグから一枚の書類を取り出して彼女に渡し、彼女の耳元で何事かを囁いた。

その直後、彼女はこれまで頑なに拒否していたことが嘘のようにテキパキと手続きを開始。すぐに案内をはじめてくれた。

その際、俺を欲情した目で見つめていた気がするが、、、気のせいだと思いたい。



そこから怒涛の検査ラッシュが始まった。

なにやらよくわからない大型の機械に少女は寝かされ脳波測定にはじまり、血液検査などなど。絶対問題無いはずの性病検査まで行っていた。


大掛かりではあるものの次々とスムーズに検査が行われるため、所要時間は驚くほど少ない。

ようやく検査がひと段落し最終結果が出ることとなった。


「血液検査の結果はまだですが、全体的に体の異常は見られません。顔の腫れに関しても一週間程度で引くでしょう」


あれだけ頭をガンガン踏みつけられていたので内心かなりヒヤヒヤしており、結果を聞いて胸を撫で下ろした。



「体に異常が無さそうで良かった。腫れも綺麗に引くそうだし。せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうと悲しいもんね」


待合室へと移動した俺は彼女に声をかけた。


「はい、本当にありがとうございました。なんて御礼を申し上げれば良いか。

それに男聖に背負わせてしまうなんて…」


笑顔でお礼を言った直後、自分のしでかしたことに気づいた彼女はみるみる落ち込んでいった。


「気にしなくて良いから。それより自己紹介がまだだったね。片岡 和也と申します。よろしくね」

彼女の気を紛らすためと見た目から判断してなるべくフレンドリーな挨拶にした。


「わ、私は第伍名家羽黒家の長女で羽黒 杏はぐろ あんと申します。よ、よろしくお願い申し上げます」

三つ指ついて挨拶する彼女


「そんなことしなくていいから。ほら、顔上げて。

杏ちゃんはなんていうか、年相応じゃないというか、すごく大人っぽい話し方や振舞いをするんだね?」


「名家では幼い頃からそういったことを厳しく躾けられますから。

あの、、、それと私先月18になりました」


はっ…?じゅ、じゅうはちだとぉ!?まさかの今の俺より歳上だったなんて。

いやいや、かなーり頑張って精一杯高く見積もって中学生…むしろランドセル背負ってる姿の方が想像できるレベルなんだが!?

合法ロリなどラノベにしか存在しないものだと思っていたよ。



「それよりあなたこれからどうするの?

斉藤様のところへは戻れないんでしょう?

確か記憶では羽黒家は長女のみでしたよね。そうなるとこのままだと…」

唐突に国分先生が彼女へと訊ねた。


「はい、来年の審査で庶民になりますね」

彼女が答えるよりも早く加藤さんが答えた。


「代々守ってきた名家が、、私のせいで…」

せっかく少し気を取り戻していた彼女は再び俯き泣き始めてしまった。


「えっ!?でも、さっきの店員さんたちは使用人とかじゃないって」


「彼女たちは姉妹の誰かが男聖に仕えているのです。ですから、E区で生活できています。ですが、羽黒家の場合は…」


「そんな!なんとかならないんですか?これでは彼女があまりにも」


「今から他の男聖に仕えることができれば可能ですが、、、流石に厳しいかと」

暗い顔をした神林さんが首を振って答えた。

誰も何も言うことができずに暗い雰囲気と静寂が辺りを包んだ。


パンッ!!

みんなが一斉に音のした方を見ると手を叩いたのは国分先生だった。その表情は穏やかなものだ。


「そ・こ・で・です!

『片岡様の専属使用人になる』というのはどうでしょう?そうなれば羽黒家は名家のままです。

それに、先程の片岡様のお言葉が本当であれば名家として残るどころか第参、いえ第弐名家となることも夢ではありません」


「はっ?えっ?俺の専属使用人って?

それに、さっきの言葉って…?」


突然の国分先生の提案に驚いた俺は話し方が素に戻ってしまった。


「彼女たちであれば喜んで抱いていただけるというお話です」


「あっ、あれは!言葉のアヤというか…」


「では、あれは嘘だったのでしょうか?」


「嘘じゃないですが、既婚者ですし…」


「ですが、死別なされたとお聞きしておりますが?

それに一夫多妻は普通です。

というよりも、直接子種をいただく方が男聖が産まれやすいという結果から国は男聖に妻を一人でも多く娶ることを推奨しております」


ことごとく論破してくる国分先生


「でも、俺ここに住むつもりないですよ?」


「それも問題ありません。片岡様にはE区に籍だけ置いていただき、二週間に一度精液提供を行っていただければ」


「実は、現在上の方で内々にそのことを話し合っておりまして、恐らくというか必ず可決されます。それに伴って名家の数も増やす方針です」


話が全く見えず混乱は深まるばかりだ。


「はぁ…今の話と名家の数を増やすのがどういった関係が?

それになんでそんなに俺にこだわるんですか?」


「片岡様、今から検査結果を出しますが他のみなさんが見ても?」


「はぁ、全然構いませんが」


俺の許可を取った国分先生はこちらをご覧くださいと言ってカバンから取り出した二枚の紙をテーブルに並べた。

パッと見ただけだがなにやら運動性や運動速度、奇形率などが示されており項目ごとの評価もされていた。


「こちらが一般的な男聖の精液検査の結果を平均化したものです」


数値は一切わからないが、各項目ごとの評価は軒並【F】となっている。そして、最後に総合評価があり当然こちらも【F】だった。


「そして、こちらが片岡様の精液検査の結果です」


そういえば入院中に精液検査したな。

これまた数値は全くわからないが、各項目ごとの評価は全て【S】となっており、当然総合評価も【S】だと思ったら【SS】となっていた。


「え、えすぅぅぅ!!」

驚きすぎた加藤さんと神林さんは飛び上がって後退りし壁に激突していた。


「お二人とも驚くのはまだ早いですよ。まだ続きがありますから」


そう言って検査結果を裏返した国分先生。

そこにはシミュレーション結果が示されており、男児出生確率という文字が見える。


「シミュレーションの結果、一般的な男聖と人工授精をした場合の男児出生率は0.1%、自然妊娠つまり直接子種をいただけた場合でも0.13%です」


男女比が1:1000なわけだから当然の結果だ。


「片岡様の場合ですと、人工授精でも8%、自然妊娠にいたっては驚異の20%となっております!

その結果を踏まえ、上では片岡様の要望は全て叶える手筈を整えております。

先日、E区へのご提案の際に断られた理由を覚えておいででしょうか?」

どこか誇らしげに語る国分先生。


「確か、『六人は一緒に住めないんですよね?だったらいいです』だった気が…」


「それですっ!それが名家の数を増やす理由です。

つまり、古賀 結月をはじめ相馬 美弥と優子、松浦 咲希、片桐 桃華、中村 愛莉を国の力で名家にするのです。

直接の親族である古賀様は第参に、他は第伍名家となる予定です」


お、おう…話が壮大すぎて現実味が全く無いんだが?

俺の心の安定のため隣を見ると加藤さんと神林さんが「はは、20%…しゅごい」と繰り返し呟いて正気に戻りそうにはなかった。


「ちなみに私は片岡様の専属主治医に、補助は15名ほどつける予定ですがその中に堂本も含まれております。

どうでしょうか?」


いや、どうでしょうかと言われても…っていうか国分先生は何者なんだ?加藤さんや神林さんすら知らない情報持ってるなんて。


「本当に自由にE区と外を行き来できるんですよね?」


「はい!それはもちろん!」

満面の笑顔で答える国分先生


「こちらは娘と相談してみます。

あと、他の人たちはみんなが良ければという感じですね。

それともう一つ。ここまでしてもらって非常に申し訳ないとは思うんですが、あと一つ名家増やすことってできますか?」


「全然問題ないと思いますっ!五つも六つも同じなのでっ!」


お、おう。そんな簡単に…



こうして俺のE区見学会は幕を閉じたのだった。







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