第20話

「あちらのお方は第参名家である望月もちづき家支援の斉藤 綺羅星さいとう きらぼし様ですね」


き、きらぼし!?とてもそんな風には…って名前で判断するのは良くないな。

だけど……


「三分以内だからなぁ!?三分過ぎたらお前らなんか即解雇!解雇解雇解雇解雇っ!!」


それを聞いた両手に食べ物らしきものを抱えた数人の女性たちは青い顔で走り出した。

しかし、みんなフラフラで今にも倒れそうだ。

そう思っている間にその中の一人の少女がつまづいてしまい前のめりに倒れ、持っていたソフトクリームを床にぶちまけてしまった。


「くぉらぁぁぁぁぁ!!メス4号!!ぼくちんのアイスを台無しにしたなぁ!?」


更に顔を真っ赤にした綺羅星君が玉座で怒り狂う。

すぐさま起き上がった少女は彼の下まで走り寄って土下座をし許しを乞うている。

だが、綺羅星君の怒りはおさまらない。担いでいた女性たちに指示し、地面に降り立ったかと思うと土下座する少女の頭を200kgオーバーの巨体で踏みつけだした。


「よくもよくもぉぉぉぉ!!どいつにも仕えられなかったポンコツをぼくちんが拾ってやったのにぃ!

お前なんか解雇だ!目の前からさっさと消えろぉぉぉ」


それを聞いた少女は顔をあげて綺羅星君の足に必死に縋りついている。



「片岡様、こちらではああいった光景はよく見られ…

片岡様どちらへ!?」


確かに今の時代こういった光景が普通なのかもしれない。郷に入っては郷に従えという言葉通り、ここは見て見ぬフリをするのが正解なのかもしれない。

けど、自分の心が見過ごしてはならないと告げている。気がつくと綺羅星君と少女の間に割り込む形で目の前の巨体と対峙していた。


「もうその辺にしとけ、たかがソフトクリームだろ。また買えば済む話だ」


「誰だぁ?お前。男のくせにメスなんかを庇いやがって!ぼくちんは男聖様なんだぞ?ぼくちんの精子が無ければコイツらメスは産まれてくることすらできないんだ。だからメスどもは跪いてぼくちんのために働いて当たり前なんだよ」


コイツのあまりの物言いに腹が立って仕方ない。コイツには遠慮など必要ない。



「へぇ、最近のブタは人語を喋るのか。ぶひぶひ鳴いてるだけかと思ってたわ」


「だ、誰がブタだって!?」

額に血管が浮き出るほど怒り狂っている。


「あっ?鏡見たことないのか?

あ、すまん。やっぱ訂正させてくれ。ブタの体脂肪率はトップアスリート並なんだった。お前なんかと一緒にされたらブタに失礼になるな。

脂肪君、君がいると暑苦しいことこの上ないし、あとその体も見るに堪えないからさっさと消えてくれないか?」


普段罵倒されることなど決してないヤツは怒り狂い拳を握りしめ殴りかかってきた。

だが、動きはかなり遅い。なんなくヤツの一撃を躱した俺は走って距離を取った。そんな俺を捕えようと追ってくる。


ヤツはものの一分もしないうちにハァハァと息を荒げ膝に手をついて立ち止まってしまった。だが、怒りの表情は全く衰えていない。


「ど、どこいったぁぁ!?ぼくちんをバカにしたこと後悔させ…

うわぁぁぁぁぁ!」


ヤツのガラ空きの背後から思いっきり背中を蹴飛ばしてやると悲鳴をあげながら前のめりに倒れこんで地面に手と膝をついた。

そして、更に倒れたヤツの横に回りこみ、でっぷりと脂肪を蓄えた腹を思いっきり蹴りあげてやった。

そして、呻きながら腹を押さえ仰向けに寝転がって足をジタバタさせるヤツの上に乗りマウントポジションを取った。

硬く右の拳を握りしめ大きく振りかぶる。


「お、お前らッ!!ぼくちんを助けろッ!」


ヤツは横を向き手を伸ばしながら必死に使用人たちに助けを求める。


「で、ですが…」「男聖に手を出すなど…」

躊躇する使用人たち。


「お、お前!ぼくちんをこんな目にあわせて良いと思ってるのかっ!?

も、望月に頼んで絶対に潰してやる」


使用人たちが使えないとみるや次は俺をおどしてくる。

だが、俺は冷めた目でヤツに言い放った。


「お前、俺をボコる気満々だったろ。なら、自分がボコられても仕方ない道理だろ?もうお前黙ってろ」


振りかぶった右拳を顔面に叩きつける。

そして次は左の拳。また右、左、右、左……


「ぷげっ…やめ…いた…ゆるし…もうやめてくだ…」


「そういえばお前ソフトクリーム食いたかったんだよな?」


ちょうど手を伸ばせば届く位置に少女がぶちまけてしまったソフトクリームの残骸があるのを見つけた。


「も、もういいです…ソフトクリームもいりません。殴るのやめてください」


「三分ルールって知ってるか?落ちてから三分以内なら食ってもセーフってルール」


俺は言いながら右手を伸ばしぐちゃぐちゃになったソフトクリームを掴んだ。道に落ちたこととヤツの鼻血で真っ赤になった俺の手で掴んだことによってソフトクリームは赤黒く変色している。

それを見たヤツは首を振り拒絶の意思を示していたが、そんなことはお構いなしに口へ押し付ける。


「無抵抗な女の子をいたぶるほど食いたかったんだろ?ほら、遠慮せず食えよ。お前の大好きなソフトクリームだぞ。

それともこっちの方がいいか?」


そう言って左拳を振り上げると必死に飲み込み始めた。


「美味いか?」


腫れ上がった目にいっぱい涙をためながらコクコクと頷く。


「そうか。多少色変わってるけど美味いなら問題無いな。まだたくさんあるから遠慮せず食ってけよ」

そう言って次のソフトクリームを手に掴み再び口へ押し付けた。



ぶちまけられたソフトクリームがなくなる頃にはヤツの目は恐怖に満ちていた。


よっこらせとマウントポジションを解除した俺を見て走り寄ってきた国分先生に申し訳ないと思いながらもハンカチをお借りする。

手を拭いながら、呆然としている少女の前まで行った俺は腰を落として彼女の視線の高さに合わせる。彼女は先の俺の行動を見て怯えたのか体を小刻み震わせていた。

そんな彼女の腫れ上がった顔を俺は優しく撫でた。


「これは本当に酷いな。可愛い顔が台無しじゃないか。すぐに病院に連れてくからね」


「国分先生、すみません。ここには最高の医療があるっておっしゃってましたよね?

私が彼女をおぶっていくので案内頼めますか?」


「喜んでご案内させていただきます」


呆然としたままの少女を背中に負い、病院を目指そうと一歩踏み出したところで少し恐怖が和らいだヤツが口を開いた。


「お、お前絶対許さないぞ!

こうなったら……仕方なくこのメスどもを抱いて直接精子をくれてやるッ。その代わりお前のことは絶対潰してやる。

か、覚悟しとくんだな」


「あっ?仕方なく…だと!?

お前、こんな美少女・美女たちを相手に仕方なく抱くのかよ。俺なら彼女たちが望むのなら毎晩でも喜んで抱くけどな。

やっぱ欠陥品だよ、お前。

それとさっきの三分ルールな、三秒ルールの間違いだったわ」


俺はそれだけ言うとヤツの方を振り返りもせずに歩き出した。

俺の言葉を聞いた国分先生は謎に満足げな笑みを浮かべていたのだった。






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