第19話

ほぇー、ここがE区の入口か。なんか城門みたい。警備もやたら厳重だし…


加藤さんたちが入場手続きをしている間、俺は入口ですでに圧倒されてしまっていた。

軍服姿の女性たちが映画でしか見たことのないような大きなライフルを手に携えながら城壁のような大きな壁の上を巡回していた。


「さぁ、参りましょう」


加藤さんと神林さんは何の躊躇もなく中へ入っていく。俺は慌てて二人の後を追い、その後ろに国分先生が続く。


中へ入ると大きな広場となっており、バカでかい豪華な噴水とその大きさに負けないくらいの金ピカの像が俺たちを出迎えた。

加藤さんの説明によるとあの像は男聖を讃えるために建設されたそうで、純金でできており同じものが東京・福岡にもあるらしい。

俺個人の感想としては、実用性のない無駄な物を莫大な予算を使ってまで造る必要はないと思うのだが、ここは価値観の違いというやつだろう。

その広場から綺麗に整備された道が3つのびていた。



「むかって左手には男聖専用住宅街が、中央には商業エリアが、右手には名家専用住宅街がございます。

どちらからご覧になりますか?」


加藤さんの問いに庶民区との差に圧倒されていた俺はお任せしますとしか答えることができなかった。


「では、男聖専用住宅街からご覧いただきましょう。

すぐに迎えが来る手筈となっております。もう少々お待ちください」


迎え?誰か案内係でも来るのかな?

そう思っていると、俺の知ってるリムジンを更に豪華にした感じの車が到着した。もちろんこれも宙を走っている。


「えっと、これに乗るんですか?歩いていくのでは?」


加藤さんと神林さんはわかりやすくビックリしていたが穏やかな笑みをたたえた国分先生が説明してくれた。


「男聖はご自分の足を使うことを嫌がられます。ほとんどの用事は使用人に申し付けますが、どうしても外出しなければならないときや、商業エリアへ自ら赴きたいときなどはこちらかもしくはアレをご使用になります。最近はアレの方が人気がありまして、こちらを使用する男聖はほとんどおられませんが…」


「アレというのは…?」


「すぐにわかりますわ。このE区視察の間に一度はご覧になると思います」


この豪華リムジンよりも人気あるのか。すごく気になる。だが、国分先生の言うとおりならじきにわかるだろう。


「あの、せっかく用意していただいて申し訳ないんですが歩いて行きたいんですけど?街並みとかもゆっくり見たいので」


「あ、歩かれるのですか…?」


「ダメなら無理にとは言いませんが」


「あっ、いえダメというわけではありませんが、歩かれる男聖など聞いたことがなかったものでして。

で、では本当によろしいので?」


「はい、構いません」


それからも何度も念を押す加藤さんに大丈夫だと伝える。




「こちらが男聖専用住宅となります、専用と申しましても実際は使用人も住んでいる場合がほとんどです。

男聖の場合最低でもこのクラスの住宅が国や名家から与えられることとなります。

こちらは第伍名家の安藤様が支援されている末永 透様のお屋敷ですね」



俺の目の前には俺の考える普通の家が5軒は入る豪邸が立っていた。

ほぇー、第伍名家でこの大きさってことは第壱名家とかどうなるんだろ?想像つかないわ。

だが、俺はそこでふとあることに気づいた。


「あれ?でも、あのときの写真の家の方が立派だったような気が…?」


そう、あのとき加藤さんたちに見せてもらった家の方が立派だった気がするのだ。写真だから立派に見えたのだと言われればそれまでだが…


「はい、片岡様には特例として第参名家支援相当の住宅が国から用意されております」


第参名家ってなんで?しかも特例。

そういえば、専属使用人のところにも第参名家次女と書いてあったような?

俺が混乱していると、国分先生が後ほどご説明いたしますと言ってくれた。



そこから更に歩いていくと更に立派な豪邸となっていった。第弐名家支援男聖エリアからは特別な許可が必要なようで今回は引き返すことに。


許可ってなに?許可って…

だが、これで住宅街は大体わかった。奥に行くほど位の高い名家が支援しており建物も立派になっていく。


許可も気になるがそれよりも気になることがあった。


「あの、誰一人として出会わないんですけど?さっきの説明で自分の足で歩いたりするのが嫌いってことはわかるんですがそれでもここまで男に会わないなんて…男は健康のためにジョギングしたりしないんですか?」


「えっと、ジョギングですか?申し訳ございません、私は聞いたことありません」


男聖省の方が知らないんだからきっとそんなことはしないのだろう。


「えっと、じゃあ男はどうやって健康を維持するんですか?娘やみなさんの話を聞く限りとても不健康そうに思えますが」


「ですから、E区には最高の医療が備わっているのです」

またも説明してくれたのは国分先生だった。



そして次に行った商業エリアで俺は国分先生の言っていたアレの正体を知り激怒することになる。



「へぇ、ここが商業エリアですか」


商業エリアというだけあって様々な飲食店が建ち並んでおり、そのどれもが煌びやかな輝きを放っている。

その飲食店よりも更に奥にはここからでもわかるほどバカでかい建物がそびえたっていた。


「ここが商業エリアの中でも最も人気があるエリアとなります」


人気があるという割にここも人っ子一人見当たらないが…


華やかさに興奮した俺はその中の一つクレープ屋さんを覗いてみることにした。

店内へ足を踏み入れると、目のやり場に困るセクシー衣装に身を包んだ店員さんが五人ほどでお客さんは誰もいなかった。


「いらっしゃいま…せ???

えっ!?だ、男聖が御身で…?」


ガチャン


最初に俺を見た店員さんはよほど慌てたのか持っていたグラスを取り落とした。

俺は彼女たちを見ないように横を向いたまま加藤さんたちに訊ねた。


「あ、あの彼女たちの格好は、、、目のやり場に困るんですけど…」


加藤さんの説明によれば彼女らは名家の中でも専属使用人や警護官に選ばれなかった者たちらしい。

男聖が直接店に訪れることはほぼ皆無らしいが、万が一にも訪れた際に精一杯アピールし気に入っていただき、あわよくば使用人の末席に加えていただけるようにということで商業エリアの店員はみなこういう格好なのだそうだ。


「男聖はあの、、その、、、性欲があまり…ですから、これぐらいアピールしなければ目にも留めていただけないのです」



いやいや、それにしてもこんな…

そうこうしているうちに裸よりエロい格好をした店員さんたちに囲まれてしまった。


「ぜひ私めを専属使用人に…ご主人様の歩かれる床を前もって丁寧に舐めてお掃除いたします!」

「いえいえ、ぜひ私を!!ご主人様の家のチリを喜んで食べさせていただきます!」



えっ、床を舐める?チリを食べる?

なにこのカオスな状況…

もちろん比喩だろうが、、、比喩だよな?頼むから比喩だと言ってくれ!!

だが、彼女たちの目は真剣そのものだ。


「あっ、いや俺はそんな…」

それだけ言った俺は逃げるようにして店の外へ出てしまった。

や、やばい。下着店のときなど比べ物にならんぞ。彼女たちが特別変わった性癖を持ってるんだ。きっとそうだ、そうに違いない。

ハァハァと荒い呼吸を整える。


「あの、クレープ買って参りましょうか?」

気を利かせた神林さんが聞いてくれた。


「じゃあ四つお願いできますか?おいくらでしょう?」

財布を取り出しながら神林さんに訊ねる。


こういうときのために娘からある程度のお金を借りて財布に入れてきていた。

だが、神林さんはお代は国から支給されておりますのでと言って走って店内へ戻っていった。


数分後、四つのクレープを両手に持った神林が戻ってきた。

そして、どこをどう考えたのかその四つとも俺に差し出してくる。


「あっ、いえ。私のは一つで残り三つはみなさんの分です。というか、全部食べられないですよ」


神林さんもお茶目なところがあるんだなと思い、笑いながらそう伝えると彼女はその場で固まってしまった。

そんな彼女から「これいただきますね」といってクレープを一つ抜き取った。



しばらく呆けていたが、その後みんなでクレープをいただく。


「これ、めっちゃ美味しいですね!ちなみにおいくらなんですか?」


国からということは税金ということであり、みんなが頑張って納めた税金をこんなことで使うのはさすがに悪いと思った俺は後で彼女に渡すべく値段を訊ねた。


「15,000円でした。この中のお店だとかなりお安い方だと思います。さすがお優しい片岡様です、国のことも考えてわざわざお安い店を選んでくださるなんて」



ブフゥ!!盛大に口の中からバナナを噴き飛ばしてしまった。

まだだ、まだ。まだ慌てる時間じゃない。


「あ、当たり前ですけどそれ四つでそのお値段ですよね?」

四つでも15,000円など異常なのだが。


「片岡様、お口が汚れてしまっております…いえ、もちろん一つのお値段です」

クリームで汚れた俺の口を優しくハンカチで拭きながら彼女は答えた。



あっ、財布の中身全然足りない…

これが一つ15,000円だと…俺のパンツ何枚分よ!?というかここに住んでる人らはコレが安いの!?頭おかしくなりそうだ。




そのとき、後ろでバカでかい怒声がした。


「おいっ!そこのメスども!さっさと僕ちんのおやつ全部買ってこいって言ってるだろぉ!!」


後ろを振り返るとそこには十人ほどの女性が神輿のようなものを担いでおり、その後ろには食べ物らしきものを両手に抱えた数人の女性。女性たちは全員が疲労困憊の様子だ。

そして、その神輿の上にはまるで玉座のような立派な椅子に座った200kgは確実に超えているであろう巨デブが顔を真っ赤にして鎮座していた。







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