第15話

無事?下着を買い終えた俺はさすがに今日服を買いに行くのは諦めてアパート周辺をぶらぶら散歩することにした。


熊本だからといって住宅街なんかは特に大阪と変わらない。

ここに公園ね。遊具はあんまり昔と変わらないんだな。公園に備えつけの時計で時刻を確認すると1時を少し回ったところだった。

俺はもう少し先まで足を伸ばすことにした。



大きな川を発見。大阪の川と透明度が違う気がする。

そして、俺の目の前には大きな橋。その橋の名前を確認すると『白川橋』と書かれてある。ということはここは『白川』ってことだな。

渡ってみようと思い白川橋を進んでいくと、中ほどで地面に顔を向けたまま動かない女の子を見つけた。セーラー服を着ているので学生なのだろう。

どうしたんだろ?と思っていると彼女は急に欄干に手をかけ身を乗り出そうとした。



その様子を見るや体が勝手に動き、まさに乗り越える寸前で彼女を抱き止めることに成功した。だが、無事降ろされた彼女は俺の腕の中で目一杯暴れている。


「離して!離してください!!私はもう…もう死ぬしかないんですッ!!」


とにかく暴れる彼女を落ち着かせるため片腕で彼女を抱き、もう片方の手で頭を撫でた。少しすると彼女は暴れることをやめ、今度は泣き始めた。

ここでは人目につくと思った俺はなおも泣き続ける彼女の手を引いてさっき見つけた公園へと移動。都合の良いことに公園には誰もいなかった。

どうしてあんなことをしたのか理由を聞くため彼女をベンチへと座らせた。そこではじめて俺は口を開いた。


「あのさ、何があったか聞いてもいいかな?」

フードを取りながら彼女に聞いてみた。俺が男だったことにひどく驚いていたが、やがてぽつりぽつりと語ってくれた。



彼女は原西 美里はらにし みさと 14歳で中学二年生

彼女の話を要約すると、クラスのリーダーグループに目を付けられた彼女はクラスメイト全員から無視されたり、教科書やノートを破かれたり…などなどのイジメの対象になってしまっているようだ。なけなしのお小遣いを取られるカツアゲも行われているらしい。

そして、先日ついに家の金を盗んで持ってこいと命令された彼女。

だが、彼女の家は貧乏で母が朝から夜遅くまで頑張って働いて得たお金を盗るなどとは到底できず、またそんな苦労をしている母にイジメられていると心配をかけるようなことも言えずにもう死ぬしかないと先の行動に出たようだ。



それを聞いた俺は怒りに震えた。世間一般ではイジメと言われるが、俺ははっきりとした犯罪だと思っているタチだ。

目の前のまだ俺の半分くらいしか生きていない女の子が死ぬしかないと思うほど追い詰められている。


『なんとかしてあげたい』その一心で考えを巡らせる。だが、彼女の家の事情やら友人関係やらを全て把握するには時間も労力も足りない。

しかし、ここで一つの妙案が浮かんだ俺は彼女へと訊ねた。


「そのイジメはクラスメイト全員が自分の意思で行っているの?」


自分の置かれた状況を話し終えた彼女は下を向いていたが、俺の突然の質問に首を傾げてこちらを見てから答えた。


「多分みんなリーダーグループがこわくて…従わなかったら次は自分が標的になるんじゃないかって怯えているんだと…思います」



ふふん、それなら今日中になんとかなるかもしれない。

彼女の返答から考えた案がうまくいくだろうと踏んだ俺は彼女に更にいくつか質問し、それから一つの指示を与えた。

その指示を聞いた彼女は絶望の表情をしていたが必ず実行するようにと念を押してから俺は公園を後にした。



数時間後、フードを取って素顔を晒し校門の横に立つ俺を見て下校する女子中学生たちが周りを囲みきゃっきゃっと騒いでいる。


「な…なんで?なんで男聖がこんなとこに…?」

「ちょっ…ヤバいって!!今まで見た男聖の中で文句なしにイケメン!」

「それにほら!体!!あんなにすらっとした男聖いるの!?やば…ちょっ…話しかけてきてよ!」

「無理無理!!普通の男聖でも無理なのにあんなイケメン目の前にしたら心臓止ま…ちょっとそれよりトイレ行きたい。下ヤバいかも」


そんな彼女たちに笑顔で手を振ってあげる。


「今!!今!私に手振ったよね!?」

「あっ!?自意識過剰ブスが頭イカれたんか?私と目が合って手を振ってくれたんだよ!……多分今受精した…家帰ったら検査薬買いに行こう」


時間が経つにつれて中学生の数はどんどんと増えていく。そんな中、一人のやんちゃそうな女の子が後ろから押されたのか俺の目の前に出てきた。


「あっ、あっ、あの…私ちがくて…押され」


やんちゃそうな見た目に反してあわあわと慌てる彼女が言い終わる前に俺は笑顔で言葉をかけた。


「ここに原西 美里って子がいるよね?彼女を待ってるんだ。もう授業も終わってるだろうし、悪いんだけどちょっと呼んできてくれないかな?

えーっと…?」


橋本 美月はしもと みつきですっ!!」

俺の意図するところを正確に理解した彼女は食い気味に答えた。


「じゃあ美月ちゃん。ちょっと呼んできてもらってもいいかな?あと、ちょっとこの子たちもわかる?」

そう言って数人の子の名前を告げた。


それを聞いて首が取れるんじゃないか思うぐらいの速さで肯定する彼女


「じゃあお願いしていいかな?」


そう頼まれた彼女はうぉぉぉぉぉ!!と腹の底から声を出し驚異のスピードで校舎へと駆け出していった。

エルコンドルパサ◯かな?



数分後、校門の人だかりに驚きながら美里ちゃんと後三人が現れた。美里ちゃんが到着するやいなや人混みがわれて俺までの道ができてゆく。

モーゼの十戒かな?

無事に出てきた美里ちゃんを見た俺は大きく手を振って声をかけた。


「おーい、待ってたよ美里ちゃん!もう授業終わったよね?一緒にかえろ?」


すると、呼びにいってくれた美月ちゃんがおそるおそる声をかけてきた。


「あの…この子とお知り合いなんですか?」


「そうだよ!友達なんだ」

笑顔で即答


俺と美里ちゃんが友達と聞いたリーダーグループの三人は青い顔で今にも倒れそうだ。

そんな三人を睨みつけた俺

周囲の中学生たちはさっきまでの笑顔と打って変わっての怒りの表情に戸惑いを隠せない様子。


「あのさ、君たち美里に酷いことをしているらしいね?どういうことか俺に説明してもらっていいかな?」

三人が倒れそうなことなどおかまいなしに問い詰める。


「あっ、いや…これはちが…仲良くして」


リーダーグループの中のリーダーなのだろう。真ん中の子が真っ青になって口ごもりながら答えようと必死になっている。他の二人は放心状態でその場にへたりこんでいた。



「へぇー、そうなのか。

クラスメイトに無視するよう強要したり、自分たちの手は汚さずに教科書やノートにイタズラしたり、あまつさえお金を盗るよう脅すことが仲良くすることなんだ。

じゃあみんなにお願いがあるんだけど、今日からこの子たちに同じことしてもらえるかな?」


俺の言葉を聞いた周囲の中学生たちが一瞬で三人を氷のような冷たい視線で見つめる。


「ほぉ、お前らそんなことしてたのか…男聖様のお許しも出たことだし、今日から普通に道歩けると思うなよ?」

さっきまでの慌てっぷりはどこへやら。美月ちゃんが拳をポキポキ言わせながら三人へと近づいていく。



うん、、、俺としてはあわあわしてた美月ちゃんの方が好みだなぁ…


もはや泡をふくレベルの三人。このままじゃ彼女たち三人は転校するかそれが出来なければ本当に死ぬしかなくなってしまうだろう。それは俺の望むことではないし、美里もまた望んではいないことだ。


真っ青を通り越して土気色の顔になった三人に温情を与えることにした。


「俺としては美里をイジメていたことを素直に認めて心から反省してもらえればそれでいいんだけどどうする?」


一条の光を見出した三人は何の躊躇もなく土下座をした。


「あのさぁ、謝る相手って俺じゃないよね?」


俺の厳しい声に三人は慌てて美里へと土下座をした。今なら美里の靴を舐めろと命令しても何の躊躇もなくする勢いだ。


「じゃあもう美里への…いや、美里以外もだけどイジメるのはやめてね?

君たちがちゃんと反省してるのか美里から聞くから。

あっ、あと当たり前だけど美里から奪ったお金キッチリ返してね?」


「「「承知致しました」」」

三人揃った見事な返事をしてくれた。


そして当の美里ちゃんはというと、俺の案を聞かされていなかったこともあって呆気に取られていた。


そう、俺の案は男聖であることをフル活用したものだ。昨日の件から多分大丈夫だろうと判断した。クラスメイト全員ならちょっと人数が多すぎて大事になりかねず面倒だが、リーダーグループのみなら簡単だ。


そうこうしていると、校舎からジャージ姿の女性が走ってきた。おそらく先生なのだろう。先生も男がいることに目を丸くしていたが、生徒の手前気丈に振る舞っている。


「男聖の方がどうして?すぐに警察に保護を要請しますのでっ!少々お待ちを…」


「あっ、もう終わりましたんで大丈夫です。今から帰りますからお構いなく。

さっ、美里帰るよ」


そう言って呆気に取られたままの彼女の手を取って歩き出す。

すると、周囲からは「いいなぁ!!!髪の毛一本だけでも貰えないかな?」などという声と羨望の眼差しが美里ちゃんへと注がれた。



道中ハッと我に返った美里ちゃんはずっとお礼を言って恐縮しっぱなしだった。しまいには「身も心も貴方様に捧げます。死ねと言われればすぐにでも…」などと言い始めた。


「ちょっとお腹すいたから美里ちゃんの家行って良い?なんでも良いんだけど作ってくれると嬉しい」


すると、最初は「狭くて汚いので…神様を迎えるのは…」と渋っていたが気にしなくて大丈夫だからと言い続けると最終的に彼女が折れてくれた。

彼女の先導で道を進んでいく。


ん?なんか見たことある景色…それに狭く汚いってのも既視感があるような?


俺の予感は的中した。

彼女の家は娘のアパートもとい俺の家と同じだった。しかもうちは203号、彼女の家は202号で隣だ。


「なんだ、美里ちゃんの家って俺の家の隣じゃん!すごい偶然。良かったら後でうちにも来なよ」


そう言われた彼女はしばらく理解が追いつかずたっぷり30秒後今日一番の驚きに見舞われるのだった。




※近頃時間が取れず、今日に至っては確認作業すらできていません。

時間ができたときに確認し、修正入れる予定です。






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