第14話

「ここかぁ。入るのに勇気が必要なところだな」


二人から教えてもらった下着専門店に到着した俺はそんな独り言を漏らした。


目の前には華やかなブラジャーやショーツを身につけたマネキンがショーウィンドウに飾られている。

店の外観もピンクで男がましてやおっさんが入ってはいけない雰囲気をビシバシと感じる。



俺からすれば男がいないんだったらこんな凝った下着はいらないと思うんだが女性は違うのだろう。

そういえば、道行く女性たちを見てもみんなオシャレだ。ジャージにサンダルのようなラフな格好の人は一人も見当たらない。

フードを深く被り直した俺は心を決めて店の中へ足を進めた。



店の中はもっと凄かった。色とりどりの華やかな下着が所狭しと並べられ、中にはスケスケのブラやショーツなんてものも見受けられる。

どうやら平日の昼にも関わらず結構な数の女性たちが下着を買いに来ているようだ。二人組やグループがほとんどで俺のようにぼっちの人は見当たらない。

そんな女性たちが服の上やスカートの上から「これはちょっと派手かな?」などと言いあいながら試着?している。

そんな女性客たちの様子を間近に見た俺は一歩も動けずにいた。



ここは地上の楽園かな?俺はもうダメかもしれん…店を出るまで正気を保てる自信がないぞ。



とにかく早く移動しなければ…なるべく女性客たちを見ないようにしながら目当てのワゴンコーナーを素早く探し出した俺は『あれはただの布、そうただの布だからなんら問題ない』と自分自身に言い聞かせワゴンへと向かった。



目的のワゴンの中には確かに俺の履いている下着とそっくりなものがあった。もちろん前は開かないようになっているが、そんなことは些細な問題だ。サイズもLLであれば問題なさそうだ。

さっきの光景をすっかり忘れ一人の世界でふんふんと機嫌良くどの色にするかを選んでいく。うん、やっぱりシンプルに黒かな。

値段を確認したが三枚で780円だった。



「お決まりになりましたでしょうか?ご希望のサイズがない場合はおっしゃっていただければ在庫を確認してまいりますので」


機嫌良く商品を選び終わった俺にどこからかやってきた若い店員さんが話しかけてきた。


「はい!大丈夫です。コレください」


俺の返事に彼女は固まったまま動かなくなった。

あれ?俺おかしなこと言ったかな?

自分の犯した過ちに気づくことなくその場に固まった彼女を眺めているとやがてハッと我に返った彼女がわなわなと震えだし、小さく呟いた。


「えっ…?へっ…?だ、男聖?えっ、なんで?」


あぁぁぁぁぁ!!しまったぁ!!

そう、声で男だとバレてしまったのだ。



そんな俺たちを見て何事かと周囲の女性たちも集まってきた。

そして、「だ、男聖が…男聖が…」と呟いたままの店員さんを見、そして俺を訝しげに見てきた。


「あっ、いや、ちが…」

焦った俺は身振りをまじえて必死に抵抗したのだが、またも同じ過ちを繰り返していることに気づかない。



周囲にいた女性たちは俺の声を聞くと目を見開き口をあんぐり開けた。


「うっそ!マジじゃん!!ちょっ、フードフード取ってよ」

その中の女子高生ぐらいの女の子が俺のフードを取ろうと手を伸ばす。


「ちょっ…やめ…」

必死に抵抗する俺。そんな俺の手に今さっき選んだ商品が握られていることに気づいた一人の女性。



「えっ、、あれってそこのワゴンのやつ?

私やっぱりさっきのやめてこれにする!!

色は?色は?…黒!!やっぱり男聖は黒を履いてもらったら喜ぶのね!?」


なおもフードを取ろうとする女子高生と格闘しながら俺は弁解した。


「ちがっ…これは俺が、、、履くやつ…」


その一瞬、時が止まったかのような静寂が訪れる。フードを取ろうともがいていた女子高生も手を伸ばしたまま固まっていた。


そんな女子高生を見た俺はようやく格闘から解放された安堵からまたも油断した。

手を離した一瞬の隙に背後にいたお母さんに抱っこされた1、2歳のアサシンにフードを取られてしまったのだ。

俺の容姿を見た女性客と店員さんは再度フリーズ。



そして、数秒後


「絵本の中だけじゃ無かったんだ…」

両手で口を押さえた女子高生の呟きが聞こえた。



そして、女性客の誰かがポツンと言った。


「あのさ、これってさ、同じやつ履けばラブラブカップル…いや、もう新婚って言っても過言じゃないんじゃ…」



この言葉を皮切りに我先にとワゴンへ殺到する女性客たち。クレヨンしんちゃ◯で見たデパートのバーゲンセールのように三枚780円の下着を奪い合う。

俺はその隙に猛スピードで会計を済ませ店を後にした。



その夜、ニュースで『熊本に謎のイケメン男聖現る!!』という見出しでさっきの店と空になったワゴン、それに若い店員さんがインタビューを受ける様子がテレビで流れることになり無事娘から特大の説教を受けることになるのだが、そんなことは今の俺には知る由もなかった。




※一応書いてはみたんですがイマイチ納得できる回ではないので後で修正入れるかもしれません。




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