第13話

みんなが寝静まった深夜、寝付けなかった俺はみんなの様子を眺めることにした。

ちなみに寝るスペースは確保出来なかったのでみんな座った態勢でタオルケットをかけただけだ。


美弥さんに体を預けて寝ている優子ちゃんは「……けっこんするの」と小さな寝言を言っていて幸せそうな寝顔だ。

うん、けど結婚を意識するのはおじちゃんまだ早いと思うよ。…いつか素敵な王子様が現れるといいねとほっこりした気持ちになる。


署長さんと咲希さんは頭をくっつけあって寝ていた。署長さんはなんだか険しい顔つきで「……合法……ミンチ…大阪湾……」などと物騒な寝言を言っている。

一方の咲希さんはなんだか悔しそうでちょっと面白い。

四人には本当に世話になってばかりだ。本音を言えば明日大阪に帰ってしまうのが寂しい。けど、みんなにはみんなの生活がある。『きっとまた会える』だから明日は笑って見送ろうと心に決めた。



そんな二人とは対照的なのが愛莉ちゃんだ。のほほんとした寝顔は見てるだけで癒される。優子ちゃんに通じるものが彼女にはあった。


最後に娘

「ああ、またタオルケットが外れてる。仕方ないなあ…ほんと昔から変わらないんだから」

そう小さく呟きながらかけ直してやる。でも、なんだか少し嬉しい。

「パパ」急に娘が小さな声で呟いた。


「起きてたのか。明日もお仕事あるだろ?ゆっくり寝た方がいいよ」


「うん、ありがと。私のことは気にしなくて大丈夫、パパが生きていてくれただけで満足。だから、E区に行っても大丈夫だよ」


「ふぅ、何言ってんのかね。パパはゆっちゃんと一緒。60年の分取り戻さなきゃ。ね?」

再び目を閉じた娘は「……うん」と言って一粒の涙をこぼし、その後は満足した顔で眠った。



翌朝、大阪組を見送った。

なんか四人とも大号泣だったけど、愛莉ちゃんが屈託ない笑顔で「片岡様のことはお任せください」と言ったあとはぶつぶつと怨念のような呪文を唱えながら車に乗り込んで帰っていった。


その愛莉ちゃんは今日は娘と一緒に出勤するつもりらしい。二人の出勤時間までまだ余裕があるため部屋へと戻った。そして、部屋へ戻るなり俺は土下座して頼んだ。


「今日は服や下着を買いに行きたい。だからお金をください!お願いします!」


「あのねぇ、娘にたかる親ってどうなの?」

呆れ声で言う娘とは対照的に愛莉ちゃんは財布を取り出してそれごと俺に捧げた。


「あのね、一つ言っとくけど男物の服やら下着やらはめっちゃ高いんだから。私たちが有り金全部渡したって下着二枚がせいぜいだからね」


そんな馬鹿な!世のお父さんは基本そうだと思うが、下着なんか三枚セットで980円だし服はユニク◯やシマム◯で一着2,000円ぐらいだ。もちろん俺もそうだ。

俺に怪訝な顔で見られてることに気づいた娘


「あっ、その顔は信じてないね?じゃあちょっと見せるからこっち来て」

そう言ってデスクのノートPCを起動させ、男聖用下着の通販サイトを開いた。


ば、バカな…下着が一着230,000円だと!?この『,』実は小数点なんじゃないかと何度も見直したがやはり230,000円だった。しかも驚くことにこれが最も安いのだ。

え…なにこれ?E区の男どもはみんなこんなん履いてるの?ハリウッドスターかなんかか?


「なぜこんなに高い!?パパの愛用している三枚セットで980円はどこにいったの!?

それにこの売れ筋のマーク間違ってないか?こんなデカいサイズが売れ筋なわけないでしょ」

値段が衝撃的すぎて横の売れ筋マークに気づくのが遅れた。このマークがついているのは体重が100kg超えのアメリカ人が履くサイズ。


ハッハッハ、危うく娘に騙されるとこだったぜ。うん、これは無い。

拳で額を拭った俺に娘の言葉が飛んでくる。


「あのね、男聖は女に傅かれて当たり前の世の中なの。

つまり、男聖はほとんど自分で動く必要がないのよ。それでいて高級な食べ物やカロリーの高いものを好きなだけ食べるから…必然的にこうなるのよ」


「えっ、じゃあ男はどうやって金を得るんだ?」

驚きと呆れが入りまじった声で訊ねた。


「二週間に一度の精液提供と、あとは名家の支援ですね。直接子種を貰うためなら名家は支援を惜しみません」

娘の代わりに愛莉ちゃんが問いに答えてくれた。


「じゃあ、もしも仮にだよ?パパがE区に行ったとしたら…?」


「ええ…間違いなく希望者が殺到して名家同士の血で血を洗う争いが幕をあけるわね」

真剣な面持ちで答える娘


いやぁぁぁぁぁ!昨日同意しなくてマジで良かったあ!昨日の俺ぐっじょぶ!!俺100万年無税!!

だが、これはこれで困った。下着やら服やらどうしようかと悩んでいると愛莉ちゃんが言った。


「あっ、でも女性用なら片岡様がおっしゃってた三枚セットのものもありますよ?」


いやいや、さすがに女性用を履くのはちょっと…そういう趣味もないし。

そんな愛莉ちゃんの言葉に娘が同意した。


「そうね、今はパパが履いてるようなものも割と女性用としても人気あるから。服だってパパの背格好ならシンプルなのを選べば大丈夫だし。

行くならわかってると思うけど、フードは絶対に取らないでよ?」



えぇぇぇぇぇ…マジですか…

といってもそれしか手が無いのは事実なので俺は二人からお金を受け取って一人でショッピングへと出かけることになるのだった。

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