第10話

中継センターを後にしようとしたところで仕事が残っていることを思い出した娘。

娘はその訳を話しづらそうにしていた。そこで、同じ職場である愛莉ちゃんに訊ねた。すると、娘の分は終わっているのだがチームメンバーの仕事を押し付けられてしまっているという現状を知ることができた。しかも、所長の指示らしい。



それを聞いた美弥さんの目が一瞬細く鋭くなった。そして、パンッと手を叩いた彼女。


「私にいい考えがあるんです。ただ、片岡様にも少しお手伝いいただくことになってしまいますが…」

全然構いませんと快諾する。


すると、彼女は各々に役割を話していく。最初に聞かされた俺と娘の役割は『少しの間娘は残った荷運びをする。それを俺が手伝う』というものだった。


「男聖に荷運びなどさせてしまい申し訳ありません」

土下座する勢いで謝罪する彼女に全然大丈夫ですからと笑顔で答え早速娘と倉庫へと向かった。

途中で振り返ると、彼女が他のみんなに役割を伝えているのが目に映った。ただそのときのみんなの顔がいつもの優しい笑顔ではなく暗く歪な笑顔だった。



あれ?見間違いかな?

目を擦ってもう一度見ると、こちらを見ていつもの優しい笑顔で手を振るみんなの姿が映った。

どうしたの?と訊ねる娘になんでもないよ、気のせいだったみたいと答えて娘の担当である第五倉庫を目指したのだった。



⭐︎



「ーーーーーというわけで、ここの調査も行います、宜しいですね?所長さん」


「勿論でございます、、、ただ、そちらの方々は…?」

相変わらず愛想笑いをしぺこぺこしている所長は後ろの美弥たちを見て疑問を口にした。


「彼女たちは調査の様子を映像で記録してもらうアシスタントといったところです。中村さんにもここの作業員として同行をお願いしています」


「さ、左様でございますか」


明らかに4、5歳の女の子もいるのだが、目の前の無表情な警察署署長に訊ねることもできずそのまま調査が行われることとなった。



⭐︎



第五倉庫の扉を開き、先に足を踏み入れた娘に罵声が飛んできた。


「おいっ!BBAぁ!欠陥品だけじゃなくて犯罪者だったのかよ、警察が来たら証言してやるよ!『絶対にやってると思ってました』ってな。ギャハハハハ」


続いてフードを深くかぶり俯いたまま足を踏み入れた俺は地べたに座った彼女らの方をチラッと見た。そこには結構な数のビールの缶が置かれている。


確実に酔ってるな、これは。


「おいおい、どうしたぁ?お友達の愛莉ちゃんには見放されちゃったのかな?

そうだよなぁ!誰も犯罪者とは関わりたくねーもんなぁ。

おいっ、そこのフードのあんたもこのBBAに関わるとロクなことねーぜ」



そんな罵声を無視して娘は始めましょうと言い荷運びへと向かう。それに続いて俺も娘の後を追った。

黙々と荷運びをする俺と娘に酔っ払った彼女たちは罵声を浴びせ続けた。


「そういやBBA、お前どんな犯罪やらかしたんだよ。なぁ、教えろよ。そのために残ってやってたんだぜ?

人殺しか?ドラッグの密売か?放火か?」


普通に考えてそんな犯罪をしていたなら今こうして作業できているはずはないのだが、彼女らは酔っているからかそんなことにも考えが及ばないようだ。


「なんとか言えよ!

ちっ、つまんねーの。んだよ、せっかく残ってやってたのによ。もう帰ろうぜ。

あっ、作業終わったら酒の空き缶も片付けとけよ?じゃないと全員でお前が飲んだって証言してやるからな」



娘をここまでコケにされ我慢の限界を迎えた俺がフードをとって怒鳴ろうとした、まさにそのとき扉が開きみんなが入ってきた。


署長さんが中央、その隣に所長、もう一方の隣には手にVolt type6を持った咲希さん。三人の後ろに美弥さんたちがいた。


「んー?彼女たちの足元にあるのはビールの空き缶ちゃうかぁ?」

そう言って咲希さんは手に持ったVolt type6を彼女たちの方へ向けた。彼女たちは固まったまま一言も発することができずにいる。

そして、次にこちらへ向ける。


「んで、こっちには作業をするお年寄りとあと謎のフードの人。

あれれー?おっかしーぞ。若い彼女たちはビールを飲んで、お年寄りが仕事してるんか?」

コ◯ンばりの芝居がかった咲希さんのセリフに思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えた。



鋭く隣の所長を睨んだ署長さん

「どういうことですか?それに確か四人一組だったはずですよね?あの、フードの方はここの作業員ですか?」


すると間髪をいれず愛莉ちゃんが否定した。

あわあわと慌てるだけで返事すらできない彼女たちと所長を置き去りに美弥さんの描いたシナリオは続いていく。


「そこのあなたフードをとりなさい」


署長さんの命令に従いフードをとった俺を見た三人と所長はさらに驚愕に目を見開いている。他のみんなも一応驚くが俺だとわかっているみんなの驚きはひどく芝居がかっていた。


うわっ、みんなにお芝居とか無理そうだなぁと内心苦笑した。


「この中継センターは男聖をコキ使って荷運びさせとるんかぁ。これはすっごいスキャンダルやなぁ。これ上に報告したらどないなるんやろなぁ?」


「…良くて無期懲役、悪質であると判断されれば死罪もあり得ますね」

少し考えた後、署長さんははっきりと言った。



「なっ!私は何も…!信じてください!私は何も知りませんでした!!」

署長さんの発言に我を取り戻した所長は慌てて弁解を始める。


「さすがにそれは通らないでしょう?だって、あなたはここの責任者なんですから」

後ろから追い打ちをかける美弥さん。


そんな美弥さんに続いて咲希さんが手に持ったVoltを操作し始めた。

そして、彼女は三人に向けて言った。


「あ〜、なんか指が勝手に動画共有サイトにアップしてしまいそうやわぁ。自分たちはビール飲んで男聖とお年寄りを働かせてるのを全国の人たちが見たらどう思うんやろか?聞いてみたいと思わへん?」


三人も我に返って口々に「ち、ちがっ…!所長の指示で…」と言い訳を始めた。


だが、クスクスと笑った美弥さんはやはり余裕たっぷりと彼女たちに向けて言った。


「そうなんですね。

けれど、今の動画を見たら全国のみなさんはあなた方がやらせていると思いますよ?仮に所長の指示ということで刑が軽くなったとしても刑務所を出たあなた方を待つのは私刑という名の地獄でしょうね。あ〜あ、まだ若いのに可哀想に…」



あっ、これはアレだ。敵に回してはいけない人だ。丁寧に対応した一週間前の俺偉いぞ!!褒めて遣わす。



自分たちの置かれている状況を理解した三人と所長はその場に崩れ大号泣していた。



「みなさん、もうこの辺にしましょう。この方たちも嫌というほど理解したでしょう」


あまりの悲惨さに見るに見かねた俺が声をかけた。甘いと言われるかもしれないが、やはり女性が泣くというのは気持ちの良いものではない。これで更生してくれればその方が良いと思うのだ。

ここまでして貰ったのに幻滅されてしまったかな?と恐る恐るみんなの反応を伺った。



「そんな、、こんな人たちにまで優しいだなんて……そんなところも素敵すぎます。好き♡」

「かーくんやっぱり優しい」

「慈愛の神 片岡様、一生ついていきます!」

「甘いけどしゃあないなコレがうちの旦那様やから」

「絵本の男聖より素晴らしい方が居られるなど誰が想像できたでしょう?片岡様にお仕えできればこれ以上の喜びはありません」



えぇっ!?なんか逆に俺の評価爆上がりしてるんだけど?あの、、、署長さん膝をついて拝むのはやめてもらっていいですかね?



未だ状況がわからずに呆けている四人に向かって俺は娘の頭を撫でながら笑顔で言った。


「今後、娘を…いえ、誰であろうとも虐めるのはやめてくださいね?」



こうしてこの一件は幕を下ろしたのだった。




※みなさんの温かい応援コメントは全て読まさせていただいており、執筆意欲向上に大きく貢献しております。個別に返信できておりませんが、この場を借りて御礼申し上げます。

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