第7話
2083年 7月16日
夏特有の強い日差しの中、病院を出た俺はアーチを作った医師やナースそれに入院患者と思われる人たちに盛大な拍手で見送られていた。
その中を俺を先頭にその後ろを署長さん・美弥さん・優子ちゃん・咲希さんがまるで付き従うように歩いていく。
後ろを振り向くと、彼女らはまるで王様に付き従う妃のようにお淑やかに目を伏せ、それでいながら堂々とした歩みで進んでいる。
そんな彼女らを見送りの人たちは羨望の眼差しで見つめていた。
えっ?なんかこれよくハーレムものに出てくるやつじゃない?第一夫人、第二夫人…それに憧れる人たちみたいなさぁ。
いや、違うんです。そんなんじゃないんです。だからギンギン先生、わしも!みたいな目で見るのやめてもらっていいですか?
そんなギンギン先生から高速で目を逸らすと昨日ジュースをあげたナースさんが目に映ったので軽く手を振っておく。
すると、次の瞬間、首が取れるんじゃないかと思えるほどのスピードで全員の視線が彼女に集まった。
後にこれがキッカケで彼女は同僚全員からシメられ、後世に語り継がれるほどのあの烈しい争いに発展することになるのだが…
そして、ようやくアーチの先頭に辿り着いた。そこにいたのは国分さんと桜さんだ。彼女たちには本当にお世話になった。
まずは桜さんの手を取った。
「本当にお世話になりました。また時間ができたら顔を出しますね。
……それと、例の件は二人の秘密ですよ?」
最後に彼女にだけ聞こえる小さな声で付け加えておく。
彼女は「はい!もちろんです!」と元気よく言ったあと小さな声で「この手一生洗わないようにしよう…」などと非現実的なことを真剣な眼差しで呟いていた。
次に国分さんの手を取る。
「本当にお世話になりました。
それで昨日の結果なんですけど、あれは本当なんですよね?何度も確認してしまってすみません」
「はい、全て本当ですよ」
「そうですか。わかりました、それでは…」
そうして車に乗り込もうとしたところで近寄ってきた彼女が耳元で「また近いうちにお会いすることになると思います」と囁いた。なんのことかわからず首を傾げている俺に彼女はただ意味深に微笑むだけだった。
「片岡様、先方には既に手配済です。目的地は例の場所でよろしいでしょうか?」
署長さんの言葉を聞いた美弥さんや咲希さんは例の場所?と首を傾げた。
「はい、お願いします。
でも、他のみなさんは私に付き合って大丈夫なんですか?かなり遠いですけど…」
署長さんが目的地をセットしている間に三人に訊ねる。
「「「絶対着いて行くッ(行きますッ)!!」」」
「あっ、はい」
覇王色がこんなにも…優子ちゃんまだ小さいのに…三人の覇気に気圧された俺は苦笑しながらそう答えるしかなかった。
「ところで例の場所とはどこなんですか?」
「熊本です」
訊ねてきた美弥さんに真剣な表情で答えた。
⭐︎
大阪府警警察本部本部長室
「ずいぶんとご機嫌斜めですね?本部長」
無遠慮に声をかけられた彼女は椅子の背もたれに体を預けたまま兵藤の方を見ることなく目を閉じて言った。
「そらそやろ。首相について笑顔で要人の出迎えしてお堅い会議で置物になるだけやったからな。
ってか早苗ちゃん二人のときはその口調やめーやっていつも言うてるやん」
「それで、あちらさんは何て?」
「いつもとおんなじ。男子の精子と日本の持つ人工授精技術の提供。馬鹿のひとつ覚えみたいに。こっちもそんな余裕あるわけないのわかっとるはずやのに」
三条は答えてからハァと大きくため息をついた。
「それで首相の返答は?」
「これもいつもとおんなじや。たまにはガツンと言ったったらええのに」
「三村首相は弱腰だからなあ…」
今度はわかりやすく兵藤がため息をついた。
三条と兵藤は幼馴染であり親友である。三条がメインで兵藤がそのサポートをすることでここまで上りつめたのだ。この先どんな困難があろうとも二人なら乗り越えられる、、、と思っていた。そう、このときまでは…
「それはそうと、報告書がたまってますよ?本部長殿」
現在、現場で重要だと思われる報告には本部長自らが目を通す仕組みとなっている。これは大阪府警だけでなく全ての警察本部で行われていることだ。
三条は会議前にも報告書があるのは知っていたのだが、見る気が起きずどうせ大した報告でも無いだろうし終わってからということで後回しにしていたのだった。
報告書の山を見てうんざりした三条は適当にパラパラとめくっていく。思った通り三条からすれば大した報告ではないものばかりだ。
そんな中に【至急】という字で埋め尽くされた報告書を見つけた。その【至急】という文字は軽く10個を超えている。
「コレどこの報告書や?こんなふざけたん出したんは」
兵藤に見せながら三条が出所を探すとあびこ区警察署署長とあった。
「ん?あびこの署長はこんなふざけた報告書出すようなヤツやったっけ?」
そして、訝しげに中身を確認した三条の顔はみるみるうちに青くなっていく。
そして、ギギギっと兵藤の方を向いた三条。そんな三条を見て首を傾げた兵藤に死の宣告のような言葉がかけられる。
「早苗ちゃん…あかん。うちら終わったかもしれへん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます