第5話
「あの、、、どうかされましたか?ご気分がすぐれないようでしたら今すぐドクターを呼びますが?」
下を向きわなわなと青ざめている俺を心配して署長さんが優しく声をかけてくれた。
2083年?60年も未来じゃないか…そんな…知り合いだって、、、知り合い??
ふと一筋の希望が見えた気がした。絶望に打ちひしがれるのはまだ早いと前を向いた。
「あの、片岡 しのぶと片岡 結月っていう人を探してもらえませんか?妻と娘なんです。お願いします」
俺は必死に頭を下げた。
一切こちらの事情を聞いていないのに何かを察してくれた署長さんは新野さんに頷く。
新野さんが検索する僅かの間、ひたすら神仏に祈って待った。
やがて、顔をあげた新野さんが署長さんの方を向き首を横に振った。そして、ダメです。両名ともE区特別データベースにありませんと答えたのだった。
「あの、、、E区には女性だと名家の方しか住めないんですよね?
でしたら、2人はE区には住んでないと思います」
「では、新野特別官、全国データベースの方で検索をかけてください」
署長さんがすぐに指示を出してくれ、それとともに新野さんが再び検索を開始
数分間の沈黙後、返ってきたのは「やはりありません」という無情な言葉だった。
絶望で打ちひしがれるとはこのことだ。非情な現実に目の前が真っ暗になり体が倒れる感覚がスロー再生のように感じられた。
「………救……!!……早くッ!!」
署長さんが何か言ってる。ああ…倒れたのか。起きたらまた妻と娘に………薄れゆく意識の中、そう願いながら俺は意識を手放した。
⭐︎
秋風の吹く近所の公園すっかり色づいた銀杏の木の下、隣から声が聞こえる。
「……パパ?どうしたの?いつもの言ってよ」心配そうに見上げる娘がいた。
「ああ、ごめんごめん。少しぼうっとしてた」
微笑んだ俺は娘が大好きなあの言葉をかけた。すると、途端に満面の笑みになる娘。
けど、あれ?娘ってこんな小さかったっけ?
今満面の笑みで隣を歩いているのは確かに娘ではあるのだが、どうみても4、5歳だ。
娘が大好きでよくねだっていたあの言葉も恥ずかしさで去年ぐらいからねだらなくなったんじゃなかったっけ?
でもまあいいか、妻や娘がいるんだから…
そう思ったとき、急に繋いでいた手を離し駆け出した娘。
そしてくるりとこちらを向き笑顔で言った。
「あのね、、、パパ、私はいるよ。絶対に見つけていつものやつ言ってね?約束だよ!」
その途端に視界がぐらつく。
「待っ…」
手を伸ばすがその手は空を切るばかりで娘には届かない。
渾身の力を振り絞って意識を保とうとするがそんな努力も虚しく再び意識は薄れ闇に落ちていった。
⭐︎
目を覚ますと目の前には真っ白な天井。ゆっくりと左右を確認するとこれも真っ白な部屋。その中央にベッドが置かれていて、そこに寝かされており、右腕には点滴のようなチューブが繋がれていた。
とりあえず体を起こして現状を確認しようとしたところで扉が開いた。
体を起こした俺の姿を見て慌てて駆け寄ってきたのは20代のナースさん。よほど慌てたとみえて途中で転びそうになっていた。
「片岡様!お目覚めになられたのですね!」
早口でまくしたてたナースさんに苦笑した俺はゆっくりと返事を返した。
「はい。あの、、ここは?私はどうなったんでしょうか?」
「ここは市立大阪病院です。警察署で倒れられた片岡様は救急車でこちらに運びこまれたのです。
担当医の診察によれば瞬間的に極度のストレスに陥られてしまったのではないかとのことで、こちらでお休みいただいておりました」
ああ、そうか…あれは夢だったんだ…
落ち込む俺の姿を見てそっと手を重ね「大丈夫ですよ」と微笑んでくれたナースさん。
そんなナースさんの優しさと無情な現実に挟まれ涙が止まらなかった。
ひとしきり泣いた俺はもう大丈夫ですと言ってナースさんに現状を訊ねた。
ナースさんは
桜さんの話では俺が倒れてから5日が経過しており、その間署長さんをはじめ坂本さんや倒れたことを聞かされた美弥さん、優子ちゃん、咲希さんも毎日お見舞いに来て心配してくれていたようだ。
みんなに心配と迷惑かけたんだなぁと実感する。
そんなとき再び扉が開き白衣を羽織りメガネをかけた女医さんが入ってきた。
そして、これまたわかりやすく口を大きく開き驚いたかと思うと厳しい表情になった。
「堂本さんッ!!あなたは弱った男聖につけ込んで何をしているのかしら!?通報しますよ!!」
そこまで言われはじめてまだ手を重ねたままだったことを思い出した桜さんは跳ねるように手を離したのだった。
「あっ、、私は全然気にしてませんので。というかむしろ慰めていただいたというか…
なので、叱るとか通報とか無しでお願いします」
俺は女医さんに向かって頭を下げた。
あわあわと慌てた女医さん
「片岡様がそう仰られるのでしたら。ほん…うらや……私も…」
最後の方は小さく何を言ってるのかわからなかったがとりあえず桜さんが大丈夫そうで胸を撫で下ろした。
このメガネをかけた女医さんは
その後、国分さんから今後の予定を聞かされた。
体に異常がないのは確認済みのためいくつかの検査の後、念の為一日入院してから退院できるそうだ。
国分さんは腕に繋がれたチューブを外しながら検査内容を聞かせてくれた。
「ーーーーあとは精液検査ですね。こちらはご自身のみで行うこともできますしどなたかのサポートを借りることもできます。どうされますか?」
隣を見ると期待に目を輝かせた桜さんが見えた。心なしかハァハァと息まで荒い気がする。
しかし、俺は既婚なので流石に誰かに手伝ってもらうわけにはいかない。それに、手伝ってもらうことにすると修羅場になりそうな予感がする。
「あの、私は既婚者なので一人で…」
それを聞いた桜さんはわかりやすく落ち込み、国分さんはそれを見てざまぁと言わんばかりに嬉しそうにしていた。
その後2時間ばかり経ってから検査が始まったのはいい。検査してもらってる立場だから良いんだよ?良いんだけど…
「なんでこんな人数が!?」
そんなに広くない検査室の中、10人の女医さんと15人のナースさんがいた。その中には桜さんや国分さんも含まれている。
そして、女医さんの中には立ってるのがやっとぐらいのおばあちゃん先生までいる。
しかも、このおばあちゃん先生目がギンギンでどこか狂気じみている。
「え〜とですね、、男聖の検査をすると言ったら『ずるい!!私がやる!』と勤務中の医師が全て立候補してしまい、それを聞いていたナースの何人かが大声で『男聖の検査ですか!?お手伝いは私が!!』と立候補したことによって周囲のナースに知られてしまい、それが伝播していき全ナースに知られることとなってしまいまして。
それで私と堂本さんは担当なので確定していたんですが、その他の者は厳正な抽選の結果入れるだけ人数を詰めこんだという次第です…はい…ほんと申し訳ございません」
最初、あははと苦笑しながら答えてくれた国分さんの声は最後消え入りそうになってい
た。
「いえ、別に構わないですよ?ただ人数に驚いただけなので…」と答えながら検査のために服を脱ぎ上半身裸になった。
すると、ギンギン先生が「さ、鎖骨じゃ…ペロペロしたいのぉ」と呟いたのが耳に入った。「いや、さすがにそれはやめて」と心の中で呟く。
周りを見渡すとギンギン先生だけでなく他の女医さんやナースさんも目が真剣だ。なんかちょっとこわい…
その後、最初の検査自体は順調?に進んでいき15分ほどで終わった。
そして、検査室を出たところで厳正な抽選に漏れたであろうナースさんが「お見舞いに来られている方がいらっしゃるのですがどうされますか?」と声をかけてきた。
きっと署長さんや美弥さんたちだろう。
俺は国分さんに許可を取ってから彼女らに会いに行った。
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