第3話

再起動をしても圏外だった為、美弥さんが警察に連絡してくれることに。


スマホが使えないのはいい。本当は全く良くはないのだが、ひとまず置いておいておこう。

原因はナックの自動ドアをくぐったことか?でも、どうして若返った…?頭をフル回転させて考えるが答えは見つからなかった。

とにかくもう一度あのナックに行く必要があるな。

そのとき、美弥さんの声が聞こえてきたため、考えを中断する。


「…………はい、男聖の方です。………それがよくわかなくて……はい、わかりました」


通話を終えた美弥さんは、すぐに来てくれるそうですと言った。

俺はカバンへ戻そうとする美弥さんの手を光の速度で掴んでしまった。


「きゃっ♡ここじゃダメ…娘が見てる♡私のお部屋で♡」


そんな美弥さんの言葉は今の俺の耳には入ってこない。

興奮している俺は素の言葉で一気に捲し立てた。


「なに今の!!今ホログラム映像みたいなん出てなかった!?すげぇ〜これ!これ欲しい!どこで売ってんの?」


「あ、、そっちですか…

これはVolt type5で家電量販店に行けばどこでも売ってるかと。

でも、これで片岡様が買えばお揃いってことに……」


最初は残念そうにしていた美弥さんだが途中から自己の世界に入ったらしくなにやらくねくねと身をよじらせていた。

そこへ咲希さんが割って入る。


「なんや、そんなんやったらアタシも持ってるで。見て!Volt type6!!最新機種や」


2人の持っているVoltと呼ばれる機械は見た目がまるで手鏡のよう。

だが、開くとホログラム映像が出てきて通話時には相手の姿を見ながら話せるようだ。

元来新しいモノ好きの俺はさっきまで悩んでいたことなどすっかり忘れて羨望の眼差しでその機械を見つめたのだった。



そうこうしているうちに、けたたましいサイレンがこちらへと近づいてくるのが聞こえた。

けれど、絶対に一台ではない。まるでパトカーの軍勢のような音がしているのだ。

そして、ものの2、3分で階段から大勢が全力疾走で駆け上ってくる足音が聞こえる。



えっ!?なに?まるで脱走した死刑囚を捕らえるみたいな…

どうしよ…やばいんじゃ?と不安になっていると瞬く間に通路いっぱいの警察官に囲まれてしまった。

奥の方まではわからないが見える範囲では全員女性だ。



どこからともなく「超朗報 私の人生今報われる」という某掲示板の書き込みのような言葉が聞こえてくる。

そして、一人のスーツを着た警官?刑事?が前へと出てきた。歳のころは40過ぎだろうか。髪をキッチリと纏めており神経質そうな感じがする。

今後は刑事さんと呼ぶことにしよう。

その刑事さんは笑顔を作ろうと頑張っているのだがどこかぎこちない。


「貴方様が通報のあった男聖ですね?こちらでは騒ぎになってしまいますので、大変申し訳ありませんが署までご同行いただけないでしょうか?」

そう言って深々と頭を下げた。


通路から下を覗くと大勢の警官がマンションに入っていったためエントランス付近に結構な数の野次馬が集まっていた。

上を見上げて不安げに周りの人と話しているようだ。



これってあんたらのせいじゃね?こんな大勢で来るから…と思ったのだがもちろん口には出さない。


「はい、もちろん大丈夫です。私の為にお手数おかけしてしまい申し訳ありません」

こちらも深々と頭を下げた。



目の前の刑事さんは目をぱちくりさせわかりやすく驚く。

するとまたどこからか「えっ、こんな男聖存在するの?絵本から飛び出してきたんじゃ…」と聞こえてきた。



その後、俺だけが「顔を見られると大騒ぎになりますので…」という奇妙な理由で犯人が乗せられるときのような格好でパトカーに乗り込んだ。だが、もちろん手錠はついていない。

ちなみに俺以外の3人は参考に話を聞きたいとのことで同行を頼まれていた。パトカーに乗り込む際にも顔は隠していなかった。



おおっ!?マジで浮いてる!すげぇ〜!しかも自動運転か。

パトカーで移動している間、俺は興奮しっぱなしだった。

一度下がどうなっているのか身を乗り出して見ようとしたらさすがに止められた。残念だ。



やがて警察署についたがなぜか俺の乗ったパトカーだけが正面ではなく裏へと回って止まった。

そして、裏口から警察署へと入った。裏口だからだろう。全く人の気配がない。先程の刑事さんの誘導で通路を進んでいく。



物珍しさにキョロキョロと周りを見回しながら進んだため足元の注意が足りなかったらしい。何かにつまづいて前のめりに倒れそうになった。


おっと、危ない危ない。

俺がそう思っていると刑事さんの目が鋭くなった。と、壁にかけてあったインターホンのようなものに向かって何事か指示している。

そのまま進みある一室に着いたところでこちらを振り返った刑事さんがおもむろに口を開いた。


「ここは特別室でして、、、あの、、、その、、、」


何かとても言いづらそうにしている。

俺が首を傾げていると意を決したのか続きを話始めた。


「男聖に非常に失礼だとは思うのですが、所持品の持ち込みが禁止されておりまして…」


ああ、なるほど。置いていけってことね。

まぁ持ってるものなんか財布とスマホ、それにナックだけだ。財布やスマホも警察署なら置いておいても安心だろう。


「あの、他の物は置いていくの全然大丈夫なんですけどコレだけ大切なものなので持って入っても大丈夫ですか?」

俺が取り出したのはハッピーセットのおもちゃが入った小さな袋だ。


「えぇ、それぐらいなら大丈夫ですけど。それって何ですか?」


おまけのおもちゃ見たことないんだろうか?日本人の80%以上は知ってるものだと思うんだけど。

俺は素直におもちゃですと答えた。



室内に入ると、まるで応接室のような立派な造り。絨毯が敷かれており、値段はわからないが高そうなソファや高級そうなテーブルが置かれている。

ベッドはないけどまるで高級ホテルの一室みたい。



そんなことを考えていると扉がノックされた。刑事さんが入って良いと許可を出す。俺はてっきり別の刑事か警官が入ってくるものだと思っていた。

だが、そんな俺の考えは外れて入ってきたのは青い作業着を着た50代ぐらいのおばちゃんだった。

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