第1話

2023年 7月9日



「えと、ハッピーセットのナゲットセットとソーセージマフィンセットを1つずつでお願いします」


若い店員さんはテキパキとサイドメニューや飲み物を聞いてくれた。

ちょうどその時、スマホからLIMEが来たことを告げる音が流れる。確認すると娘からで『おもちゃは4番ね!絶対ペンギンさん当ててきて!!』とのことだ。


俺は苦笑いしながらも「おもちゃは4番でお願いします」と店員さんに告げた。

当たらなかったらまた文句の嵐なんだろうなぁと考えたが、こればかりは仕方ない。


待ち時間の間、最近ハマっているスマホゲームで時間を潰そうとアプリを起動させる。

そういえば、何度挑戦してもクリアできないステージがあったのを思い出したので再度挑戦することにした。



だけど、ナックの待ち時間などほんの僅かだ。番号が呼ばれて品物を受け取り、スマホを操作していない右手首にかけた。

このナックには出入り口が2箇所あって、メインの方は人の出入りがひっきりなしにある。しかし、もう一つの方は人の出入りが極端に少ない。


普段なら絶対にしないが、このときはクリアできそうだったためゲームに熱中したまま出入りの少ない方へと向かってしまった。



自動ドアの開く音が聞こえた。

そして、視線をスマホに落としたまま足を踏み出した瞬間、耳元でバチバチと何かが弾ける音がしたかと思うと一瞬ゲーム画面にノイズが入り電源が落ちた。



は?え?何…?


慌てた俺が顔をあげて前方を見ると、そこは俺の知ってるのとは程遠い光景が広がっていたのだった。



⭐︎


????年7月9日


ナックを出ると歩道の先はすぐに車道だったはずなのだ。

いや、眼前に映っているのも車道は車道なのだが、走っている車の全てが宙に浮いている。まるでSFファンタジーの世界だった。

そして、道路を挟んだ向かい。ついさっきまでドラッグストアだった。それがオシャレなオープンテラスのナニかになっていた。


慌てて自分の右も確認してみる。

某有名チェーン店の牛丼屋だったはず!!

だが、目に映ったのは煌びやかな爪の描かれたネイルサロンの看板だった。



訳がわからず、しばらくの間立ち尽くしてしまう。時間にして数分、いや数十秒だったかもしれない。



ハッと我に返った俺は周りの人がこちらを見てヒソヒソ話していることに気づいた。

きっと不審に思われたのだと思った俺は一刻も早くこの場から去るために自宅マンションの方だと思われる歩道を歩くことにした。



その道中もやはり知っている店など何一つない。そして、なによりもおかしいのが歩いているのが全て女性だということだ。


日曜なのだから少なからず男性がいなければおかしい。現にさっきのナックで隣で注文していたのは50代くらいの男性だったし、店内で食べているのも半数に近い人数が男性だったのだ。



すれ違う2人以上の女性たちはこちらを見ながらヒソヒソと何かを話しているし、1人の場合は口をぽかんと開けて一瞬立ち止まり、こちらを目で追っていた。



居た堪れなくなった俺は視線をなるべく下へと落として早足で帰宅しようと急いだ正にそのとき声をかけられた。


「あの〜すみません。どうかされましたか?もしかして、護衛官の方たちとはぐれられたとか…」



声のした方を見ると4、5歳ぐらいの女の子の手を繋いだ優しそうな若いお母さんらしい人が心配そうに俺を見ていた。女の子もこちらを見上げている。


「あっ、いえ、、、」


一瞬、大丈夫ですと答えようか迷ったが思い切って聞いてみることにした。


「お恥ずかしい話なのですが、実は家に帰ろうとしたのですが道に迷ってしまったみたいでして…

ここはあびこで合ってますよね?すみません、変なこと聞いちゃって…」


ぺこぺこ頭を下げながら訊ねた。

ナックから出てきたら全く知らないところでした( ͡° ͜ʖ ͡°)とはさすがに言えない。



女性は一瞬驚いたかと思うと恐る恐る口を開いた。


「えと、確かにここはあびこ区ですが、、、あの〜E区にお帰りになるのでしたら歩いてはかなり遠いですよ?E区専用車両でお越しになったと思いますのでそちらでお帰りになった方が…それに護衛官の方たちとも連絡を取られた方が…」



E区ってなに?護衛官ってなに?総理大臣とかじゃないんだけど!?ってかいつからあびこは区になったの!?住吉区だったはずなんだけど!?

頭はパニック状態だったがとにかくわからないことは置いといてわかる範囲で返事を返すことにした。


「いや〜、私あびこに住んでるんですよ。ちょっといつもと光景が違うなぁって思ってて…あびこなら良かったです。

多分すぐマンションに着くと思いますので…

すみません、お手数おかけしてしまって…」



そう言った俺が女性を見ると目を見開いて口をポカンと開けていた。視線を女の子にうつすと女の子もまた同様の表情をしていた。

この表情流行ってるのかな?



「ありがとうございました。では…」

立ち去ろうとした俺を我に返った女性が慌てて呼び止めた。


「あの、、、一緒に行っていいですか?」


「えっ、、いや、なんで、、、?」

あまりのことに素が出てしまった。


「男聖の一人歩きは危険ですので、、、それに私たちも同じ方向ですから…」


男性の一人歩きが危険って聞いたことないんだけど!?他にも小さな声で何か言っていたが聞き取れなかった。

あと5分ほどで着くはずだがまぁ良いかと思った俺は「すぐそこですけど、、良いですか?」と確認を取った。


すると、女性と女の子はものすごい笑顔で、これまたものすごい勢いで首を縦にふっていた。


女の子があいている右手を俺の方に差し出してきたので女性に『良いですか?』と許可を取ると食い気味で『ぜひっ!!!』とのことだったので手を繋いでから3人で自宅マンションを目指すことに。

少し冷静になってみると、周りの店舗こそ知らないものばかりだったが、道自体は似ていることに気づく。

少しホッとした。



道中、すれ違う女性たちは俺たち3人を見てポカンとしていたっけ。

それにしても、この2人はものすごい幸せそうだったけどなんだったんだろ?

そんなことを考えているとマンションに着いた。着いたには着いたが、今度は俺が口をポカンとあけるハメになってしまった。



マンションの外観は茶色だったはず。それが見事に白!某洗濯洗剤のCMもびっくりの驚きの白さへと変貌を遂げていた。



だが、道の形状から考えてここが自宅マンションであることは間違いなかった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る