2話 ズッ友とプリクラに書いて良いのは、中学生までです。
(神田麻里視点)
「え、なに…これ」
私の目の前には、無残に首が引き裂かれた温井颯が床に転がっていた。さっき目覚めたばかりで、何も状況が把握できなくて、いきなりテレビが動き出して…
「り…、麻里!」
頭を抱えていた私に、乃々香が肩を揺すって呼んだ。
「しっかりして。私は麻里がいないと無理なんだから」
「うん、ごめん乃々香。まずは状況を把握しないとだよね」
――試験では、こんなふうに、人が死ぬ。1週間後生き残ったペアのみを、ここから出す。
温井君が死んだ今も尚、テレビにはこの文章が移されていた。バスで隣になった人、つまり私と乃々香はペアであり、ペアがいなくなったら即座に死ぬということは理解できた。
「ねえ麻里、これってつまり私達はお互いにお互いを守らないといけないってことだよね?」
「うん。じゃないと死ぬみたいね」
「これが選抜戦とでもいうの!?うう、私達は一体何のために死ぬ気で勉強してこの学校に入ったのよ」
乃々香は今にも泣き崩れそうな声で私に投げかけた。
私達は小中一緒で、いつも一緒に過ごしてきた。初めてメイクをしたときも、お互いの下手さに笑ったっけ。試験が終わると、毎回近くのゲームセンターまでいってプリクラを撮ってた。この学園の存在を知ったのは中2の夏休み。世界的に有名だったこの学校は、誰しもが憧れ、入学した暁には将来を約束されるとも言われていた。だからこそ、必死に勉強して二人で合格を勝ち取ったときには互いに笑いあった。
「麻里、麻里。やった!やったよ!入学できるんだよ、私達」
「うん!これからもずっと一緒にいようね」
やっとの思いで入学できた私達は今まで順風満帆な学園生活を送っていたはずだった、はずだったのに…
――では、各自自分の部屋に向かって下さい。
突然、画面が変わったかと思ったら、暗かった部屋が明るくなり、テレビの前に一人一人の名前が書かれた箱が現れた。
「麻里、取りにいこう」
「うん」
乃々香に連れられて、タイプされたものらしい文字で書かれた、自分の名前の紙が付いている箱を開けた。
「これは、鍵?」
「たぶんテレビにある、自分の部屋の鍵なんじゃないかな。麻里は何号室だったの?」
何号室?番号が書かれていたのかと知った私は、持っていた鍵を裏返した。するとそこには「104」と彫られたものが見えた。
「えー、私と違う階だ…。私は204号室だよ、怖いよ。一人でいたくない」
「大丈夫、会いにいくから」
私と乃々香が話していると、部屋の隅にあった扉から鍵の開く音がした。すると、続々とクラスメートが自分の部屋に向かっていた。
「乃々香、私達も行こうか」
「うん」
部屋から出ると、隣には別の部屋につながる扉があり、そこから見当たらなかった人たちが部屋からでていた。つまり、私達はクラスを2分割され、そこで分けられてしまった温井颯ともう一人のペアは死んでしまったということになる。
「麻里、見る感じ朱理がいないよ…。そんなぁ、そんなあああああ!」
乃々香はその場に崩れ落ちた。
部屋が違う階にある私達は途中で別れ、私は104号室に向かった。鍵を開けようと扉の前に立つと、そこには張り紙があった。
――これを破った場合、死亡する――
・24時を過ぎた場合、絶対に自分の部屋で眠ること。
・食堂で朝食、昼食、夕飯を食べること。
・部屋は全員一人部屋で、インターネットはない。
「こんなことまで制限されるの!?」
私はひどく動揺した。あんなに怯えた乃々香を夜中一人にさせるわけにはいかない。
「あれ!?麻里ちゃん…!」
聞き覚えのある声がする方へ振り向くと、そこには涼宮なきりちゃんがいた。
「なきりちゃん!なんでここに…?もしかしてその部屋なの?」
なきりちゃんが立っている場所は、私の向こう側の部屋、110号室の扉だった。
「うん、私はここ。麻里ちゃんはそこ?」
「うん」
「はああああ、よかった…。怖くて、一人じゃ心細くて。麻里ちゃんがいてよかった」
なきりちゃんはひどく安堵した様子だった。正直私も何が起こるか分からない不安と、心細さに耐えきれなかったので、なきりの存在にはとても助けられた。
なきりちゃんと別れた後、私は自分の部屋に入った。そこにはシングルベットと勉強机、トイレとお風呂などがあった。
「まるでビジネスホテルみたいね」
あたりを見回すと、ベッドの前にはさっきの部屋で見たのと同じ形のテレビ、そして壁に書けられた時計があった。
「これは…」
勉強机の上には時刻表が書かれた紙とこの建物のマップが書かれた紙がおいてあった。
――時刻表――
朝食→7:00
昼食→12:00
夕食→18:00
就寝→11:00
※24:00を回ってからの外出は一切禁止。
私は時計を見て時間を確認した。
「もう18:00になるわ。食堂にいかないといけないのよね」
そう呟くと、私は食堂へ向かった。
「あ、麻里!」
食堂に入ると、席に座った乃々香が手を振っていた。
「ここは随分広いんだね、相変わらず窓はまったくないけど」
「だねー、気味が悪い。さっきも死ぬ瞬間を見ちゃったわけだし…食欲沸かない」
「だめだよ、こんな状況だからこそ食べないと。生き残るんでしょ?私達」
乃々香は不安そうな表情を浮かべていたが、私の言葉を聞いて小さく頷いた。
「麻里ちゃん!あ、乃々香ちゃんも…!ここに座ってもいい?今一人なんだ」
私と乃々香が話していると、なきりちゃんが震えた様子で私達の前に現れた。
「あ!なきりちゃん!あれ?ペアの人は?」
乃々香がそう言って辺りを見回すと、なきりちゃんは頭を振った。
「柳瀬君なんだけど、先に食べたみたい。私は食欲が無くて食べれなかったの」
なきりちゃんの言葉を聞いた乃々香は不思議そうに首を傾げると、私に耳打ちをした。
「確かに一人じゃ不安だけど、なんでこの状況でペアでいないの?おかしいよ。私はペアで生き残る以上、麻里しか信用できないよ。場所移ろう?」
ペアで生き残るのは重要だが、それよりも一人で怯えているなきりちゃんを見過ごすことはできない。私は乃々香の提案を振り切った。
「なきりちゃん、いいよ。一緒に話そう、お腹がすくまで」
「いいの?ありがとう!」
乃々香は驚くと、少し怒った様子で私を見つめた。そして私達(主に私となきりちゃんだが)就寝時間が近くなるまで話していた。
部屋に戻る途中、乃々香は私を呼び止めた。
「なきりちゃんと親しくなるのは止めて。ペアじゃないんだから。言うなら敵なんだよ?警戒心が無さすぎるよ」
「なんで?乃々香だって始めは怯えてたじゃん。誰だってこんな状況だったら混乱するのは当たり前。クラスメートなんだから助けたいと思うのは当たり前だよ」
乃々香は、『はっ』と鼻で笑うとぼそっと呟いた。
「偽善者」
「は?今なんて言ったの」
耳を疑った。私は思わず聞き返した。すると乃々香は段々キレ始める。
「麻里は結局は自分のことしか考えてない。いつもそう。周りのためとかいって、自分の評価しか気にしてないじゃん。中学のときだってそうだった。先生からご機嫌を取ることだけしか考えてない。それを治そうとも思わないの?あ、そっか、気づいてないんだもんね」
「なんであんたにそんなこと言われなきゃならないの!乃々香だって私にひっついてばかりで何にもできないじゃん。そんなことをいう暇があったら、必死に生き残る方法を探してよ!」
私は怒りを抑えるために、走って自分の部屋に戻った。なんであんなこと言われなきゃなんないの。確かに私は先生に媚売ってた時もあったかも…あったかもしれないけど全部が評価のためなわけないよ!
私は頭を冷やすためにシャワーを浴びた。濡れた髪が物理的に頭を冷やすと、私は乃々香にひどいことを言ってしまったと、少し自省した。
「まだ23:30前だ。まだ間に合う」
外出が禁止になる24時になる前に乃々香の部屋までいって、謝ろう。そしたら乃々香は笑って許してくれる。そう信じて。なきりのこともちゃんと話せば、きっとわかってもらえる。今は協力し合うことが生き残る唯一の道なんだ。私は髪を乾かすのを後回しにして、乃々香の部屋へ向かった。
「乃々香!話そ!」
私はドアを叩いて何度も乃々香を呼んだ。…寝てるのかな?いや、さっき喧嘩したばかりだし、それに乃々香はいつも深夜を回って寝るタイプだからこの時間はまだ起きてるはずだ。
「シャワーにでも入っているのかな」
開いていないとは思ったが、何となく部屋のドアノブを回すと扉が開いた。
「あれ…、え、どういうこと」
こんな時に不用心にも部屋のドアを開けっぱなしにすることがあるだろうか。何だか嫌な予感がして、それでも私はずいっと部屋の中に入った。すると私の目の前で血しぶきが飛んだ。
「は…、え?」
ピーーーー
「あ、ごめんね?殺す前に伝えておけばよかったね…。乃々香ちゃんが殺したい人に選んだ人の名前を」
霞んでいく意識の中で、誰かがこちらを見て微笑んでいる様子がみえ…た。
本日の死亡者)))
神田 麻里:大人しい性格。みんなのお母さん的ポジション。包容力のある言葉と、優しい性格は私たちをいつも安心させてくれる。
桐生 乃々香:真面目で勉強熱心だが、たまにおかしな発言が目立つため天然だと言われている。麻里と仲良しで、彼女のことになると少し依存するような側面を出す。
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