2nd
緋盧
1話 アンケートなんて適当に書くから、集計しても意味ない。
(〇〇視点)
高校3年生、卒業。
嘉一橋学園という世界的にも有名な規格外学校は、Ideal Virtual、訳、事実上の理想、略、IV、という特異的な教育システムを採用している。特にこのクラスは、特進と呼ばれる一方利己的であり、常軌を逸していると批判も受けている。私はそんな特殊で、異質なクラスの一人として高校3年間過ごしてきたというわけだ。
IVが特別と言われてしまう一番大きな理由、それは高校3年生の最後に行われる選別戦の存在だ。大人はみなこの選別戦のことを内密にする。関係者以外で知られると厄介なことがあるかららしい。もちろん、私達も入学するまでは試験の存在を知らされていなかった。
選別戦にはどうやら、現代社会で生き残っていくために学ぶべきものは教育ではなく、表現力や独裁力など、社会を支えるための新たな能力だという、強い思想が関与しているらしい。それが少々社会批判的意味も含んでいることが原因なのだろう。
ただ、この学校に通う生徒、及びその両親はもちろんこの選別戦には賛成している。両親は入試の際に、生徒は入学式でそれに同意する意味での契約にサインをしているからだ。ただし、試験の詳しい内容は知らされてはいなかった。そんな曖昧なものに同意してしまうのだから、彼らの両親は社会を救う子供を育てる、これがどれほど名誉なことかと考えていて、子供を自らのファッションとしか見ていないのかもしれない。
とにかく選別戦はそういう名目で行われる卒業儀式だ。
参加のためには事前にアンケートに答えなければならない。とても簡単な質問がいくつか並んだアンケートだ。勉強は好きですか?、朝ごはんは食べていますか?といった即答できるものや、将来の夢はありますか?、進学しますか?などといった学生ならではの質問。そして最後に自らの「選別戦」に参加するという意思表示のためのサイン(入学式の時の再確認だろうか)と、この質問。
「今あなたには殺したい人はいますか?例えばそれは誰ですか?」
今思ってみれば、私はなぜこんな質問に対して本音をぶちまけてしまったのだろう。建前でも良かったはずだ。こんな所で正直になる必要なんてなかったはずだ。荒んだ心を持ってさえいなければ。
こんな事件は起こらなかった、かも知れない。
(東條梓視点)
『おはようございます。地球は今日も平和な朝を迎えました。時刻は現在午前7時13分、今から学校に向かいます。実は今日から修学旅行なので、少しだけテンションが上がっております。以上、私、東條梓(とうじょう あずさ)からでした。』
高校3年生、卒業式を間近に5組生徒はIVとして最後の時間を過ごすために総勢26人で楽しい楽しい修学旅行に行くことになった。
最後に絆を深めたいというのが目的らしく、この先にあるであろう選別戦への控えでもあるらしい。
選別戦で一体何を行うのかはわからないが、日頃の行いをチェックされるような内容という話だけは聞いている。
「特別な勉強とかはいらないだろうし、今は修学旅行を楽しむとするかな!!!」
猶予をたっぷりもって1週間も旅行に行けるのは、切実に楽しみだった。
教室内はすでににぎやかで、普段は遅れてくる生徒たちも、この日だけは5分前行動をこなしている。
「露〜!おはよ!」
彼女は佐々木 露(ささき あき)、私の3年間での友人だ。
趣味や話があったり、お互いに恋歴があったりと、言葉を交わすうちに知らぬ間に仲良くなっていた。
「時間まだあるよね〜?」
「まぁ、でももうすぐ先生くるくない??」
そんな話をしているうちに、先生が教室に入ってくる。
修学旅行とは言いつつ、集合場所が教室なのはやはりお決まりと言ったところか、それでもこの教室はいつもとは空気感が違うように感じる。
「先生全然来ないじゃん。」
時間になっても一向に教室に現れないことを心配して、二階堂麗は生徒を代表して先生を呼びに行く。
男女の壁を気にせず仲良くできるそんなアグレッシブさがある彼女だからこそ、今ここですぐに職員室に行くことができたのだろう。
「バス移動する時間だよ〜!」
どうやら先生はバスでなにか準備があったらしく、すでに下でスタンバイしているらしい。
私達はそのまま麗に連れられて、バスの停まる外まで降りた。
「バスだああ!!!」
これもお決まりだ。
クラスメイト全員が一台に入るほどの大きなバスが学校の前に止まっている。乗車し、座席につこうとすると、先生から座席指定のシートが配られた。
「指定席なん!?」
「このご時世(当時コロナ化)なんで、生徒の管理のために座席は指定してます。」
配られた座席表にはこう書かれていた。
安室 華絵 伊波音羽
工藤 真子 若狭 知晃
清水 宏介 紅井 理沙
神田 麻里 桐生 乃々香
高嶺 朱里 温井 颯
小杉 桃花 椎名 日向
中井 桜 田辺光輝
大原 陸斗 二階堂 麗
向田 悠仁 与那城 琴葉
涼宮 百鬼 柳瀬 大雅
瀬川 葵 吹野 啓吾
江口 美波 佐々木 露
東條 梓 菱田 鈴
私は幸いにも菱田鈴の隣だったので、バス内は楽しく過ごせそうだった。
鈴とは入学式の頃から深くはないが、長くずっと続く縁がある。
普段おっとりしている彼女は、私の弾丸トークも「うんうん」と頷きながら聞いてくれる。私の大切な友人の一人だ。
他の座席だと色々因縁のありそうな相手にあたってしまっている人もいるが、今更何を言っても仕方がない。
「それじゃあ、出発します。」
先生の合図でそのままバスが発車したかと思うと、そこからの記憶はなくなっていた。
「起きて!!梓!!」
体を強くゆすられて私は目を覚ます。そこには涼宮なきりがいた。
受験期に志望する大学が同じ国立ということで最近話す機会が何かと増えた生徒だ。なきりはどこか掴みどころの分からない雰囲気を持っているが、根はとても優しい。今だって、心配そうに倒れている私を起こしている。
どうやらここは部屋の中のようで、そこには他にも数名生徒がいる。全員ではないらしい。
「ここは?」
「わかんない。私が一番最初に起きたみたいなんだけど、気づいたら扉の開かない部屋の中にいるみたいで、ここにはクラスの半分しかいないみたいなの。」
数えてみると、本当に半分の生徒しかここにはいなかった。開かない扉と、大きめのテレビしかないなんの変哲もない部屋。窓すらない。そのせいか、電気がついているにも関わらず薄暗く感じるし、なんだか気味が悪い。
「地下?」
「かなぁ。光とかもささないし…。」
ブツッ
突然テレビの電源が入った。画面が砂嵐になり、生徒の視線は一度にテレビに集中する。
――生徒諸君。こんにちは。これから、選別戦を、行ってもらう。
短くぶつぎりの音声が変声されて聞こえてくる。
「今日は修学旅行じゃないのかよ!!」
温井颯が身を乗り出してテレビに向かって怒鳴った。もちろんテレビの画面は喋らないのだから、返事はない。彼はこういう時すぐ突っかかる節がある。
「選別戦ってこんな唐突だったんだ…。」
みんなの中に不安がる空気が流れ始める。
――生徒にはこれから、バスの時隣に座っていた人と、ペア、になってもらう。
バス。つまり、私の場合は鈴とペアということだろうか。鈴のいる方へ視線を向けると、彼女と目があい、お互いに確かめ合うように短いアイコンタクトをとった。
「おい!!」
また颯がわめき出した。
「俺のペア、今この部屋にいないぞ。」
――尚、現在ペアのいないものはその時点で運が無いということ。失格とする。
ペアは片方が死ねば、もう片方も、死ぬ。見せしめのようで申し訳ないが、この選別戦の厳しさをここで、知ってもらう上でも名誉に思ってくれ。
失格という言葉が流れた瞬間、耳をつんざくようなサイレン音が流れた。
「うるさっ!!!」
みんなしゃがみこんで耳を塞ぐ。
「…もう大丈夫かな?」
耳から手を離しても、不愉快な音が聞こえないことを確認して、私はそっと立った。そこで視界に一番最初に入ったのは、真っ赤な液体だった。颯の首のあたりから勢いよく血が吹き出した跡がある。全員は声も出ないまま、ただただ颯の死体を青ざめた顔で見つめた。
「いやああああ!!!」
なきりは颯の死体をみて叫び声を上げる。その声でみんな我に返る。
「そ、即死だ…。頸動脈が切れてるんだよ…」
そのまま口を開いたのは安室華絵だった。医学部志望だった彼女は、人体のことに詳しかった。私は思わず自分の首元に触れる。前まではなかったぼっこりとした感覚が手に触れる。
「な、なにこれ…。」
その何かは少しだけ体温よりも高い熱を帯びていて、金属のような硬さだ。これが何を暗示しているのか、私にはすぐに察しが付いた。
「な、なんなのよこれ!!!!」
小杉桃花が金切り声を上げる。人の命が身近で散ったのだ、動揺しないわけがない。クラスの女子をいつもまとめる女王様的な彼女でも、驚きを隠せないでいた。実際私も手の震えが止まらず、片腕でしきりに自分の腕をつねっている。
――試験では、こんなふうに、人が死ぬ。1週間後生き残ったペアのみを、ここから出す。
死ぬ、生き残る、その言葉の重みをこれほどまでに重たく感じたことはない。
本当に人が死ぬ。冗談なんかでは済まされない。目の前で頸動脈の破裂した颯をみて、現実を全員が突きつけられていたのは間違いなかった。
「颯のペアって誰だっけ…。」
(瀬川葵視点)
僕はどうやら眠ってしまっていたらしい。部屋の中だ。よくわからない部屋の中にいた。隣には座席が隣だった吹野啓吾もいる。ただこの部屋に全員が集まっているにしては、人数が少ない気がする。
「啓吾…。」
と声にだしかけて、話しかけるのをやめた。
以前までの僕なら、啓吾にこの状況について気軽に聞くことができただろう。
それでも、今の啓吾に話しかけられるほど僕は大人じゃない。
「葵!!!大丈夫…?おきた??」
そんな事を考えながらウジウジ下を見ていると、啓吾が心配そうな顔をしてこちらを振り返ってきた。
「え…あ、うん!だ、大丈夫だよ大丈夫!」
案外普通に話せるもんだなぁ。啓吾とはもう二度とまともに会話できないと思っていたけど、少し心が軽くなった。
「葵が全然目、覚まさないから。本当に心配したよ??」
「ど、どうしてそんな…。」
なんで僕のことを心配するなんて言うんだ、そう言おうとして突然の砂嵐に口をつぐむ。
ザーーー
――生徒諸君。こんにちは。これから、選別戦を、行ってもらう。
砂嵐の跡に流れてきたのは途切れ途切れの誰かの声だった。誰のものかはわからないように声が変えられているようだけど。
――生徒にはこれから、バスの時隣に座っていた人と、ペア、になってもらう。
バスの時、隣…。つまり僕のペアは啓吾ということだろうか!?ペア…。さっきは普通に話すことができたけど、試験の場だし、きっとペアで協力することが大切になってくるはず。
「葵がペアで良かったよ〜!」
「え…。」
ニッコリと笑ってよろしくねと手を差し出してくる啓吾を見て、僕は思わず赤面してしまった。啓吾はやっぱり、啓吾だ…。
――尚、現在ペアのいないものはその時点で運が無いということ。失格とする。
「それってどういう…」
そう言いかけた高嶺朱里の言葉を遮るように、大きなサイレン音がなった。
「耳、ふさいで!!!」
啓吾の声でみんなは地面にしゃがむようにして耳を塞ぐ。そしてサイレンがやんだ頃、顔を上げると目に映ったのは、首元から血が吹き出した状態になった朱里の屍だった。
「あああ…ああああああ!!!」
伊波音羽が膝を地面について声を上げる。無残なその死をみて、動揺しないものはいなかった。特に音羽は朱里とよく話していたし、当然であろう。
「これ、首になんか入ってるよ…。」
死体の近くに落ちていた小さな機械を紅井理沙が指差す。
理沙は少し不思議な女の子だ。着眼点がいつも他の人とずれているというか、今だって死体を見たくない僕たちを差し置いて、それを見ているというわけなのだから。
しかし、おそらくあれがこの死の原因ということなのだろう…。
――試験では、こんなふうに、人が死ぬ。1週間後生き残ったペアのみを、ここから出す。
目の前で、朱里が死んだ。唖然として、さっきまでのふわふわとした気持ちは飛んでいってしまう。
「大丈夫。ペアだし、俺たちで協力すれば、きっと二人で生き残れるから…」
そう言って手に触れられた時、僕の頭の中をぐるぐると回っていた何かはすべて付近飛んで、二人で生き残る、この言葉だけが耳に残った。
(葵は僕っ子の女の子です。BL展開は起こりません。)
死亡者リスト))
高嶺 朱里:ヒマワリのような笑顔をする明るい女の子。漫画やアニメが好きで、そういう話で盛り上がっている様子が見受けられる。
温井 颯:クラスのムードメーカー的な存在に憧れ、自分のことを棚に上げて人を馬鹿にするところがある。しかしそれはいつもから回る。
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