第20話 最終回
「何か気配がする。タウロスボアとは違う……人間のような気配だ」
俺の直感にコメントもざわつき始める。
『まさか、また
『三連続? そんな事あるの?』
『いや、まさか……そんな、馬鹿な』
視界の隅。俺の目は何かを捉える。
二足歩行……人型だ。 まさか、本当に殺人鬼か?
殺人鬼の出現率を上げる兜を装備していない。 なら――――
影が見えた。 その正体は
「あれは……ミノタウロスか」
牛頭人身の魔物。 二足歩行の怪物……間違いなく強敵のモンスターだ。
『なんだ……ただのミノタウロスか』
『いやいや、ミノタウロスって強敵だろ?』
『確かにw 俺ら感覚狂ってるぜw』
『……なんか、あの牛。デカくねぇ?』
コメントの言う通りだと俺も思う。 ミノタウロスは魔物の中でも強い部類……それに、明らかに大きい個体だ。
そんな中、1つのコメントが目に止まる。
『あれ、特別な個体……ボスじゃないか?』
ボスモンスター。
確かに、この階層のボスはミノタウロスだったはず。
しかし……と俺の考察はそこで止まる。 どうやら、こちらの様子を窺ってたいミノタウロスが俺を敵と認識したようだ。
「ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」と威圧するためだけの咆哮。
その手には武器。いや、武器とも言えない木の枝。
ミノタウロスは強い。
その理由は猛牛型魔物が持つ規格外のパワー。そう言われているが、それ以上に厄介なのは手だ。
人間のように物が持てる進化した5本指。つまり、武器を持ってるという事だ。
その手には武器として木の枝。
子供がチャンバラ遊びで使うために木を折る。それと同等の知識と好奇心はあるのだろう。
しかし、巨大なミノタウロスの手に収まる木の枝は、俺にしてみたら丸太のサイズ。
そして、それは俺に向けられ振るわれた。
「――――速い!」
ミノタウロスの攻撃を避けた。 それが苛立たせたのだろう。連続で木の枝が振るわれる。
「避ける……防御はできない」
おそらく、ミノタウロスの攻撃を防御するだけで吹き飛ばされるはずだ。
周囲には壁はない。 壁に衝突するという事はないだろうが……それでも……
俺は足を止める。 振り落とされる巨大な木————防御はできない。
だが――――それでも、あえて戦斧で迎え撃つ。
「防御はできない。だが、攻撃を弾くことはできる」
軌道が逸れたミノタウロスの攻撃は、俺の横に大穴を開けた。
「その隙————逃がさない!」と戦斧の一撃。
確かに届いた攻撃。 大きな反動に手に痺れが走る。
しかし、致命傷には程遠い。 横腹に傷が入るが僅かなダメージでしかない。
「ダメージが通らない? 筋肉が分厚く、とにかく硬い」
俺は距離を取る。 どうやら、俺に一撃で倒し切る攻撃力はないようだ。
(それじゃ、持久戦か? 今までの戦いで、疲労が溜まっている。よくない傾向ってやつだ)
戦斧を低めに構え直す。下段の構えって言うやつだ。
長期戦なら、大きくて重い斧を高く掲げながら戦うのは賢くない。
スタミナのロスを少しでも減らす。 すると――――
ミノタウロスも構えを変えた。 木の枝を低く――――
「真似をしているのか? 俺の構えの真似を?」
魔物が戦いを学習している。 それは知能の高さを意味している。
(このまま長期戦もよくないか? 長引けば長引くだけ、戦い方が洗練されていきそうだ)
ミノタウロスの攻撃。 今度は地を這うような低くく攻撃を走らせる。
(――――っ! ジャンプして回避を!)
考えるよりも早く体が動いていた。 既に、その場から飛び上がり回避運動を――――
だが、どうやらそれは罠だったらしい。 武器である木の枝を振り回した直後、ミノタウロスは手を離して枝を投げ捨てた。
そのまま空中にいる俺に両手で掴みかかってきた。
(巨大な腕。想像される馬鹿げた握力。掴まれると掴まれた部分は――――潰される!)
「ならば」と俺は戦斧を小さく振う。
狙いは迫り来る指だ! 小さく、細かく、なにより精密な動きで戦斧で切り付ける。
指が発達している。ならば、物を掴んだり、細かな動作ができるほどに神経も発達しているはず。
神経が発達していればいるほどに、斬られた時の痛みは激しい。
鮮血が飛び交う中、その手が俺に触れる。しかし、俺を握り潰すほどの力は残っていなかった。
その指からの脱出と同時に反撃を狙う。 既にミノタウロスの指から白い煙が上がっている。 これは回復の前兆だ。
一部のボスは、強い回復力を有している。
「なら! 回復するよりも速く! 生命力を削り取る!」
最終的に俺が決めた戦略。それは短期決戦。
細かいダメージで削り殺す!
激しく抵抗をするミノタウロスの攻撃を見切り、反撃に戦斧で何度も切り刻む。
僅か1合の攻防で、複数の傷をつける。 それをミノタウロスが完全に動けなくなるまで繰り返す!
そして、やがて――――限界を迎えたのは、その巨体を支え続けていた両足。
ミノタウロスは膝を地面についた。
「そこだ! このタイミング!」
俺はとどめの一撃を放った。
確かな手ごたえと同時に、白い煙に包まれミノタウロスは消えていった。
しばらく、その様子を確認していると――――
『すげぇ、1人で巨大ミノタウロスを討伐した』
称賛のコメント。絶賛のコメントが滝のように流れる。
「俺……」と覚悟を決めた。
「俺、1年以内にトップ配信者を目指します」
そう宣言した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
――――1年後————
「それでは皆さん、準備はいいですか?」
ダンジョンの最深部。先頭に立つのは完全武装したムラサキさんだ。
俺は頷いて、配信用のドローンを飛ばして撮影を開始する。
「それじゃ、今日は――――ダンジョン内ダンジョン。未踏の地を探索していきたいと思います」
俺は、周囲のトップ配信者たちに混ざって、未踏のダンジョンに向かって駆け出した。
底辺ダンジョン配信者 呪いの装備で美少女になる~リ美肉おじさんの快進撃~ チョーカー @0213oh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます