第15話 憧憬との再会

 早朝のファミレス。


「……っていうわけなの、デヘヘヘ」とニヤケ顔のガチ恋————玉露タマはナイフを見せつけていた。


「……」と皆は無言でナイフを見つめていた。 


 内心————


「おいおい、こんな所で武器を取り出す奴がいるか。捕まるぞ」


 そう言いたい。 しかし、彼女が手にしている武器はフランベルジュのナイフ。


 殺人鬼マーダーと言われる謎の存在からのドロップアイテム。


 おそらく、同じナイフを持っている者はヒカリだけだろう。


 その魔性性に目を奪われる。 法とか、モラルとか、口にするよりも手に取って調べて見たい。そんな衝動に駆られるほどに、彼等の本質は配信者だった。


 しばらく、それを眺めながらも、途中で


「でも、ヤバい事になりそうじゃないですか?」


『杞憂民』が杞憂民らしい事を言い始めた。


「なによ、ヤバい事って? このヒカリくんとの思い出ナイフを持ち歩いて見せびらかしらいけないの?」


 当然、路上でナイフを持ち歩いて、見せびらかすのはいけない事だが……


「違いますよ、2回も連続で殺人鬼と遭遇してドロップアイテムを手にいた……彼を襲ってでも、アイテムを奪い去ろうとする輩が出てきてもおかしくはないでしょう。それに――――」


「それに? なによ?」


「わかるだろ……」と口を挟んだのは『指示厨』だった。


「これはダンジョン配信者にとって異常事態だ。異常事態には――――ギルドが出て来る」


『ギルド』 その名称に彼等は深刻そうな顔に変わった。


 それは通称である。本当の組織名は、もっと厳格で覚えにくい。


 いつだって冒険者は暴走する可能性を秘めている。 個人が個人で制御できない大いなる力を有しているのだから……


 ならば、それを制止する組織が必要だ。 ダンジョン配信者を運営するような組織だ。


 しかし、例によって高度に政治的事情によって、国家にはダンジョン配信者を制御する権限が許されない。


 だから、作られたのだ。 第三者委員会のような暴力装置————『冒険者ギルド』


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「ここね」とメモを片手に女性が立っていた。


「懐かしいわ。……いえ、10年前に来た時の面影はない。あの火事は酷かったものね」


 そんな独り言を言いながら、到着したのは普通のマンション


 緋炎ヒカリの家だった。 インターフォンを鳴らして、しばし待つ。


 彼が在宅中なのは知っている。 だから――――


「はい、どなたでしょうか?」と見知らぬ女性が出てきたのは、彼女にとって少しだけ想定外だった。


「私は、ダンジョン安心保全委員会————『ギルド』の職員です。 緋炎ヒカリさんはご在宅でしょうか?」


「ギルド……ですか? 少々、お待ちください」と彼女は部屋の奥に行った。


 漏れてくる声から「兄さん!」と聞こえる。 


(彼女が、緋炎ヒカリの妹である緋炎アオイ? 私が知っている彼女とは、随分と姿が違うのだけど……)


『ギルド』の職員でしかないはずの彼女は、なぜか緋炎家の事情に詳しいようだ。


 不自然なほどに……


 すぐに緋炎ヒカリ――――当然ながら、今は男性の姿だ。 


 平凡な高校生に見える彼。 しかし、世間は彼の一挙一動に注目している。


 短い時間……それも2~3日で英雄になってしまった少年。


「はい、緋炎ヒカリは俺ですが……どちらでしょうか?」 


そんな彼にギルドの職員は――――


「久しぶりね。覚えてないかしら? ほら……10年前に」


 しかし、ヒカリは彼女に見覚えはなかった。


「えっと……すいません。一体……」


「火事の時に助けてあげたでしょ? あの時の君は、私の事をおじさん! おじさん!って男と間違えていたのよ」 


「――――え?」とヒカリは、彼女の言葉が理解できなかった。


 彼が憧れたダンジョン配信者のおじさん。 


 その10年後の再会には情緒的な要素はなく、混乱に襲われるようなものだった。


     


  

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る