第16話 再会 紫影ムラサキ

 俺、緋炎ヒカリは夢を見ていた。


 どうして夢ってわかるか……だって? それは、今まで何度も見てきた夢————いや、過去の記憶が夢として再現される。そう言った方が正確かな?


 まだ子供だった俺。 10年以上前かな?


 周囲は真っ白な煙に包まれ、大きく体は左右に揺れていた。


(あれ? 地震だったか? 火事だったような……) 


「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」と妹が泣いている。


(うん、どうやら俺の記憶に間違いないようだ) 


 俺は妹を庇うように抱き寄せ、


「大丈夫だから、絶対に助けが来るからな」


 しかし、妹のアオイは――――


「兄さん! 早く起きてくださいよ、お客さんです!」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「はっ!」と俺は目を覚ました。


「やっと起きましたか兄さん! 大変です! お客さんですよ!」


 いつも冷静な妹が混乱しているのがわかる。 そんな慌てるほどの客って誰だろう?


「わかった、わかった」と手櫛で髪を整えると、着替えた。


 玄関に向かうと……


「?」


 誰だろうか? 見たことのない女性が立っている。


 その見た目から、訪問販売の女性? でも、妹が慌てている理由がわからない。    


「はい、緋炎ヒカリは俺ですが……どちらでしょうか?」 


「久しぶりね。覚えてないかしら? ほら……10年前に」


 俺には心当たりがなかった。 そもそも10年前なら7才くらいの頃だ。


「えっと……すいません。一体……」


「火事の時に助けてあげたでしょ? あの時の君は、私の事をおじさん! おじさん!って男と間違えていたのよ」 


「――――え?」


 その意味を俺は反芻した。 俺が憧れたダンジョン配信者のおじさん――――その人が目の前に――――


「いや、女性だったのですか!」


「ん~ 相変らず、失礼ね」


「ほら」と彼女が取り出したの名刺だった。


「どうも」と片手に受け取った。 


「兄さん!」と後ろから様子を見ていた妹に起こられた。 どうやら、名刺には受け取り方ってのがあるらしい。


 どうして、俺より歳下の妹がビジネスマナーに詳しいのだろう?


 そんなやり取りがありながら、名刺を確認した。


『ダンジョン安心保全委員会 特別対策室室長 紫影ムラサキ』 


 ……わからない。 


 なんだ、ダンジョン安心保全委員会? なんだ、特別対策室室長って?  

 

 その10年後の再会には情緒的な要素はなく、混乱に襲われるようなものだった。


「お……お姉さん、偉い人だったのですね。えっと名字はなんて読むのですか?」


「シエイよ。 紫の影と書いて、シエイね。……ところで、今、おじさんって言いかけた?」


「ドキッ! そ、そんな事はないですよ」


「本当に?」とおじさん……いや、ムラサキさんは、ズイを顔を寄せて来る。


 今となっては、どうして俺は彼女をおじさんだと思い込んでいたのだろうか?


 ただでさえ、年上の女性に顔を近づけられる経験は少な――――いや、皆無だ。


 しかも、彼女は整っている顔をしていた。 思春期の男子高校生には刺激が強すぎる。  


 そんなドギマギする俺をどう思ったのだろうか?


「冗談はさておき……さて、長話になるけど、いつまでお客さんを玄関に留ませるのかしら?」


「あっ……すいません。こっちがリビングになります」


「さて……本題に入りましょう。 あなたが手に入れた殺人鬼マーダーのドロップアイテムを見せてくれないかしら?」


「あっ、はい」と俺は自室に保管している装備から、例の兜を取り出した。


「なるほど、兜の内側に文字が刻まれているわね。説明書付きって、なかなか親切じゃない」


「あの……読めるんですか?」


「当然、年期が違うわよ。年期が」


「たしか、古代エルフ文字でしたかね? 妹に読んでもらったのですが、最後の一文だけはわからないそうなので……」


「それって、本当に読めなかったのかしら?」


「それ、どういう意味ですか?」


「最後の文……この兜を装備した者は殺人鬼との遭遇率が大幅に上昇する」


「え?」


 どういう事だ? それじゃ、最初の口裂け女はともかく、次の鮫男との戦いは偶然ではなかった?


「兄さん……私は、ただ兄さんが心配で……それに、まさか連続で殺人鬼と遭遇するなんて……」


「アオイ……落ち着け!」


 俺は反射的にアオイを抱きしめた。 


「大丈夫だ。俺は大丈夫だから、安心しろ」


「……兄さん。ごめんなさい」とアオイは落ち着いたようだ。


「要するに……この兜を装備すると身体能力が大幅に上昇する。殺人鬼なんて、滅多に遭遇するわけではない。じゃ、兜を有効活用した方がヒカリくんの生存率は遥かにに上昇するってことよね?」


「はい……まさか、こんなにも危険なアイテムだったなんて想像にもしてませんでした。ごめんなさい兄さん」


「なるほど、なるほど……気になっていたことが1つ解決したわ」   


 それから、彼女————ムラサキさんは、


「殺人鬼のことなんて、どうでもよかったんだけどね」


 そんな信じられない事を言い出した。

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