第14話 鮫男討伐成功 アイテムドロップの行方
奪ったナイフでの一撃。 明らかに今までとは違う。
突き立てられた箇所から光が漏れている。 それはダメージを受けたエフェクト……だろうか?
半信半疑のコメントも流れて来る。
『やった……のか?』
『2日連続の殺人鬼討伐……になるのか?』
『でも……本当に?』
コメント通りだった。
確かに鮫男は深刻なダメージを受けたのだろう。それは間違いない。
しかし、反撃をする力は残っていた。
大きく変形した鮫男の頭部。それは俺を飲み込むように顎を開いた。
「ヒカリくん、気をつけて!」
その声はタマさんのものだった。 そして、鮫男の牙は俺に届かなかった。
魔法攻撃に徹して、後衛から隙を狙っていた彼女がついに前衛に飛び込んでいたのだ。
彼女は片手剣による突きを放っていた。 もしかしたら、このタイミングを狙っていたのかもしれない。
精密な突きだった。
その剣先は鮫男の目を正確に捉えていた。
目……弱点と言うなら、それ以上の弱点は思いつかないだろう。
よろめく鮫男。 だが、それでは終わらなかった。
「斬撃も、魔法も通じない? それじゃ……これはどうかしら?」
さらにタマさんは接近。 目に入った斬撃の痕————そこに手の平を突く付けると――――零距離による魔法攻撃。
「炎よ!」
爆発が起こる。 至近距離で自ら魔法の衝撃を受けたタマさんも無傷ではいかないだろう。
しかし――――
「タマさん、ありがとうございました。これで本当に……アイツを討伐できます」
爆発の衝撃。 鮫男は打ち上げられている。
完全に無防備になっている鮫男。 タマさんの魔法攻撃によるダメージが大きいのだろう。
「落下する勢い。これを利用しての――――刺突だ!」
既に奪い取っていた鮫男のナイフ。 その先を向けながら、俺も飛び上がった。
俺の放った一撃。 ナイフは深々と突き刺さった。
今度こそ、鮫男は反撃する力も残っていないようだ。
地面に落下。俺は受け身も取れず、水面に叩きつけられた。
「危ない……体を起こす力も失っていて、溺れる所だった」
顔だけ水上に出して、呟きながら何とか立ち上がる。
「勝った……ぜ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
わいわいとお祭り騒ぎのコメント欄。 いや、コメント欄だけではなく、外部のSNSや掲示板、まとめサイトでも大騒ぎだった。
『すげぇ、はじめて殺人鬼討伐をリアタイで見た』
『そりゃ、そうだ。前例が2回しかない』
『いいもの見れたで』
『でも……』
『あぁ、おかしいな。こんなにも出現記録が少ないはずなのになぁ……』
一方、当事者は――――
「怪我はないですか、タマさん」
「ん~ 軽い火傷くらいね。ここが水場だから助かったわ」と玉露タマは、自身のダメージを確認するようにクルクルと回った。
「大丈夫。……けど、すぐに帰ってお風呂に入りたいわ」
「そうですね。取れ高ってのは確保できたので」
「あら、配信者らしくなってきたじゃない」
2人は笑った。
「そう言えば、今回はアイテムドロップありませんでしたね。流石に2回連続で、簡単にアイテムは考えが甘すぎますか」
「……?」とタマさんは怪訝そうな顔で見てきた。
「え? 俺、変な事を言いましたか?」
彼女は「……」と無言で俺の手を指した。
「それ、ドロップアイテムじゃない?」
「え?」って言われて気がついた。 俺の手には、鮫男から奪い取ってナイフが2本、残っていた。
「あ、あれ? 気づかなかった……これ、凄いレアなアイテムですよね?」
「そうだね。殺人鬼のドロップアイテムなんて、基本的には前例もない……これ、売ればビル・ゲイツの月給くらいになると思うけど」
「誰ですか、ビルゲイツって? お金持ちなんですか?」
「ん~ パソコンのソフトを売ってる人だね。ちなみに月給は300億円以上だよ」
「さ、300億!? 一生、遊んで暮らせるじゃないか!」
「1度の人生で300億を使い切ろうと考える君も、なかなかの傑物だね」
300億の価値。 ピカソの絵でも余裕で買える金額だ。
ド田舎を都市開発できたりしない? ビルを建てたり――――ビル・ゲイツだけに――――
「そ、それじゃ……2本の内、1本はタマさんに差し上げますよ」
「え? いや、それは悪いよ。所持権はヒカリくんにあるのだからね」
「まぁ、2人で討伐した記念に――――」
「え? 本当に良いのかい、ヒカリくん!」とタマさんは声を弾ませた。
正直に言うと、いきなり個人資産が300億以上になるのは怖かったのだ。
そんな俺に対して、タマさんは――――
「ありがとうね。一生大切に使うね!」
なんて言うべきか……こう、300億の資産を受け取って喜んでいる様子とは、何か違う感じがした。
それが、どういう感情なのか、俺には読み解けなかったのだが……
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