第13話 殺人鬼 鮫男

『おいおい、あり得るか?』


『こんなに頻繁に殺人鬼が出現するのか?』


『そんな事より、鳩を飛ばせ! 他にも配信中の奴が近くにいるだろ』


 視聴者も混乱している。 緊迫感が高まり――――


『また倒せるのか? 殺人鬼を?』


 そのコメントの直後だった。 浅瀬を旋回するように、動いていた殺人鬼が、再び二足歩行に戻ったのは――――


 その姿は、まるで……鮫。 顔だけが狂暴な鮫のよう男が立っていた。


「鮫男かよ……その顎の広さは、口裂け女に申し訳ないと思わないのか?」


 挑発。 言葉が通じるとは限らないが、その効果はあったらしい。


 ギロリと狂暴性を秘めた目が俺に向かう。


(再び、あの体当たりからの噛み付き攻撃か? 打撃の効果は薄いなら避けるしかないのか?)


 その思惑は外れる。 鮫男は普通に駆けだしてきた。


 水の抵抗を受けずに走って来る。 速い――――


 当然、その速度感を前に俺は逃げる事はできない。


「けど、前衛くらいは努めて見せるぜ!」


 戦斧の一撃。 振り下ろした大型の武器であったが――――


「なに!」と驚く。 鮫男は二本のナイフを重ねて俺の一撃を受け切ってきた。


 脅威的な剛腕。 戦斧を跳ね上げて、俺に牙を向けて――――


「伏せて、ヒカリくん!」


 タマさんの声。反射的に身を低くする。


 俺の頭があった場所に、炎の塊が通過していく。


「炎よ!」とタマさんの魔法が連続で通過して、顎を開いた鮫男の頭部で何発も直撃していった。


 それを間近で見届けながらも、身を低くしながら離れる。


「これが魔法……なんて言うか、次々に爆弾が投げ込まれていくような威力」


 距離を取っても、衝撃波を受ける。 鼓膜は……どうやら無事らしい。


「でも、この威力だったら――――」


 倒せただろう。そんな希望は無駄だった。


 今も爆発し続ける爆心地。その中心から鮫男が飛び出してきた。


「――――なんで、服まで無事なんだよ!」


 鮫男の攻撃は速い。 歪なナイフから繰り出される高速の突き。


 それに怯んで下がれば、巨大化した頭部から噛み付きが繰り出される。


 一撃でも当たれば即死の連続攻撃。 それを前に俺の集中力は極限まで高まっていく。


 避ける。避ける。避ける……


 自分の体じゃないように軽い。 ……そもそも、小柄な女性の体に変身しているからか? それにしては――――


「それにしては、腕力も大幅に向上してるんだよな」


 そんな事を言いながら、俺がした事————


 それは、武器である戦斧を投げた。 鮫男に投げ渡すように軽く――――


 虚を突く事が成功したのだろう。 鮫男の動作が止まった。


「一瞬の判断だ。お前は、それを罠だと判断するだろう……しかし、それに意味などはない!」


 あるとすれば、俺が自身の使い慣れた武器を取り出し、構えて、攻撃を行うまでの時間稼ぎだ。


 既に俺は、愛用の武器————ナイフを取り出した。


「奇しくも同じ武器ってやつだ。攻撃速度……手数で劣っても、武器の技術じゃ負ける気は――――ない!」


 リーチの極端に短い武器での打ち合い。 だが、この戦いなら俺は慣れている。


 ナイフを使いながら、足を止めてカウンターを狙うスタイルを続けてきた。


 だから――――


「俺の一撃は、お前に届き得る!」


 一線————深紅の線が鮫男の体を走った。


 手ごたえはある。しかし、コイツは殺人鬼マーダーだ。 


 通常攻撃すら無効化しかねない無敵の存在。


「……いや、完全に殺せない無敵の存在なんているものか!」


 連続で斬撃を放っていく。しかし、その効果は――――やはり薄い。


「コイツ……やっぱり、普通の攻撃じゃ殺しきれ……いや、まてよ?」


 あるじゃないか。 普通の攻撃じゃない攻撃を行える武器が……


「おい……まさか、コイツの倒し方って?」


 それは直感だった。 ただ、なんとなく――――こう思ったのだ。


「もしかして――――殺人鬼を殺せる武器があるとしたら――――それは殺人鬼の武器ってことか?」


 その思考にたどり着いた瞬間、俺は動きを止めていた。


 それが隙に見えたのだろう。鮫男はナイフによる刺突を繰り出してきた。 


 だが、それは誘い。 狙うのは近代格闘技にはない技。  


 武器を使う相手の手首を掴む。それと同時に関節を極める。


「――――やっぱり、武器を使うからには、手首の構造が人間と同じなんだな」


 鮫男は関節技を極められ、手にした武器————歪なナイフを落とした。


「それだ!」と俺は、落下していくナイフを掴み取る。それと同時に奪ったナイフを鮫男に叩き込んだ。


「通常の武器が効かないなら、お前が使ってる特殊な武器なら、どうだ!」  


      

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