第12話 新たな殺人鬼出現

 ウォータードラゴン。 水面で活動する青いドラゴンだ。


 もしかしたら、浮力が関係しているのだろうか? 通常のドラゴンよりもサイズがデカい。


 ……しかし、その大きな大きなウォータードラゴンは絶命していた。


「体が消滅していない。倒されたばかりなのに……どうして放置を?」


 玉露タマは、自身の疑問を口にしている。


「ボスモンスターを倒して、ドロップアイテムの確認もせずに……どうして? 倒して人は、どこにいったの?」


 ボスモンスターは、当然ながら強い。 ドロップアイテムは希少価値の高い物になる。 


 横たわるウォータードラゴンの亡骸。いずれ、黒い煙に包まれて消滅するだろう。


 消滅が始まる前に、俺もウォータードラゴンを確認する。


 すると、すぐに異常が見つかった。


「タマさん、ここを見てください。この攻撃の傷跡を――――」


「――――武器による攻撃じゃないわね。まるで、生物に噛み切られたようなダメージ」


「それじゃ、ボスを攻撃した魔物が近くにいる?」


「聞いた事ないわよ。魔物同士の共食いなんて……」


「……魔物じゃないとしたら?」


 ダンジョンには魔物がいる。


 その魔物を倒して、素材を採取……あるいは撮影目的のダンジョン配信者がいる。


 それ以外の存在————俺は数日前に、ソレと戦ったばかりだった。


「ヒカリくん。君は、これを殺人鬼マーダーの仕業だと推測

するんだね」


 タマさんは考え込んでいる。 それもそうだ。


 殺人鬼マーダー


 ダンジョンに出現するソイツは、通常の魔物とは異なる存在だ。


 発見され、その存在が撮影された例ですら少ない。 討伐された例も――――


「タマさん! そっちに――――います!」


――――だが、ソイツは立っていた。 


 虚ろな気配。 薄い存在感。 それでありながら、溢れんばかりの殺意を振る撒いている。  

 

ロングコート……いや、黒い雨具なのかもしれない。


 両手には歪な形のナイフを持っている。


 例えば、フランベルジュと言われる種類の剣は刃が波打っている。 それによく似ている。


 顔は見えない。 雨具のフードで素顔を隠しているようだが、人間離れしたギザギザの歯……牙が異常に白く輝いていた。


「おそらく、人間じゃないわね。暗闇では撮影できるカメラを通しても顔が映っていないわ」とタマさんは、映像の分析もしているらしい。


「それじゃ、アイツは――――殺人鬼マーダーで間違いないのですね」


コメント欄も


『逃げろ!』 


『逃げろ!』


『逃げろ!』


 同じ文字が連投されている。


「逃げましょう……ヒカリくんが口裂き女を倒せたのは例外。あれは人間が倒せるような存在じゃないわ。完全に無敵の存在よ!」


 撤退の確認に俺も頷く。しかし――――

    

「すいません、タマさん。どうやら逃げるのは難しいみたいです」


 殺人鬼は歩いて近づいてくる。 その足取りは


 足元の水————水の抵抗を受けていないように普通に歩いている。


「どういう理屈なのかしら……簡単に逃げられないのなら、アイツに足を攻撃するわ。支援してね!」


 タマさんは、剣と杖を構える。 しかし、殺人鬼の恨みヘイトは俺に向かっているらしい。


「消えた!?」


 確かに、殺人鬼が消えたように見えた。 だが、殺人鬼は、この浅い水面に潜っていた。  


「まさか、コイツ……泳いだ方が速いのか!」


 その想像通りだった。 人間魚雷————昔のゲームの必殺技を連想させる速度で、俺に接近してくる。


 殺人鬼の顎は巨大化して――――その攻撃は、まるで鮫の噛み付き。


「だが――――そう来る事は知っていたさ!」


 俺は前に飛ぶように――――カウンターの膝蹴りを叩き込んだ。


 コイツに倒されたウォータードラゴンの傷跡……そこから、コイツの攻撃は、高速で接近してからの噛み付きだとわかっていた。


 わかっていたのだから、簡単に攻撃にカウンターを合わせれる! 


 だが――――


「うっ! 体が弾き飛ばされる!」 


 打撃を打ち込んだはずの俺の方が浮き上がる。それほどの衝撃————

 

 先の戦い、口裂き女と対戦から、対人格闘技の打撃が有効かと試してみたのだが……


「あぶない、あぶない。 地面が水じゃなかったら落下ダメージで終わりだった」


「大丈夫かい、ヒカリくん?」


「えぇ……いや、ちょっと膝にダメージが残っていますね。逆にアイツは無傷ぽい見たいですけど」


「全く、無茶をして……それじゃ困ったわね。アイツから逃げれないじゃない」


 その言葉とは裏腹にタマさんは戦闘狂の笑みを浮かべている。


 彼女もダンジョン配信者だ。 きっと、逃げずに戦う理由を求めていたに違いない。

  

   

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