第11話 ボスを狩りに行こう!

 水の精霊ウンディーネ


 まずは1匹目を撃破する。 けど――――「2匹目!」


 隠れていた新手を発見している。 ソイツは隠れて、こちらの隙をうかがっていたいたのだろう。


 奇襲に失敗した2匹目の水の精霊ウンディーネは逆に無防備な肉体を晒す。


 俺の戦斧を受けて、消滅を確認する。


 内心で胸が高鳴るのを感じつつ、落ち着いた表情を保っていたのだが……


 片手を軽く上げて、控えめながらも意気揚々としたガッツポーズを決める。それから、


「勝った!」と思わず声を上げた。


『うぉ! かっけぇ!』


『おめでとう!』


『小柄な体に、戦斧ってここまで見栄えがいいんだ!』


 コメントでも『おめでとう』の文字が大量に流れる。しかし、1つのコメントが、流れを変えた。


『やっぱり、可愛い!』


 僅かな時間、流れ続けているコメントが止まったような錯覚。 それと、嫌な予感。


 次の瞬間、コメントは『可愛い』に統一された。


「い、いや、可愛いって言われも……あの……タマさん?」と助けを求める。


 しかし、玉露タマは「うんうん!」と腕を組んでコメントに同意していた。


「これは……噂の後方彼氏面?」


 なんて言って、『可愛い』の流れを断ち切るか考え始めた頃―――― 俺は配信直前にタマさんと交わした会話を思い出した。


「いいこと? 配信者として目的があるなら、叶えたい夢があるなら――――


 可愛いを作りあげなさい!」


「可愛いを作り上げる!?」  


「そうよ、他ならぬヒカリくんなら! 男であるヒカリくんだからこそ! 男が可愛いと思う理想を可愛いを再現できるのよ!」


 確かに俺の目標————あの日、助けてくれたダンジョン配信者のようになる事。


 そして、妹である緋炎アオイを――――


「よし!」と俺は視聴者リスナーと向き合う覚悟を決めた。


「み、みんな! 誉めてくれてありがとう!」


 今度こそ、完全にコメントが止まった。 


 何か失敗したのか? タマさんのアドバイス通り、大きく手を振るのではなく胸の横に小さく振って見たのだが……


 しかし、俺の不安を塗り替えるように、


『うわあああああああぁ!!!! マジで推せる!』


 今度はコメントに視聴者の本気度が混じっている感じがした。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「初めての25層。初めての水中戦で中々の成果じゃない」と玉露タマはホクホク顔で討伐した魔物の種類と数を確認した。


「えっと……うん。水の精霊ウンディーネ25匹。セイレーン13匹。アビスウォーカー21匹。クラーケン が3匹……良いお寿司屋さんで食事ができる金額になるわよ」


「いや、俺に取ってみたら、半月分の食費になるのですが?」


「あら、もう少し良い物を食べなさい。視聴者に憧れを持たせるのものダンジョン配信者の仕事よ」


 それから、少しだけタマさんは「……」と無言で考え込んだのかと思うと――――


「それじゃ、ヒカリくんの食事をもう少しだけ豪華にするためにボス狩りに行きましょう!」


 ――― ボス狩り ―――


 それは各階層に1匹いる特別な魔物を討伐する事だ。


 ボスと呼ばれる魔物の個体。不思議な事に討伐しても、翌日には新たなボスが誕生する。 


 一説では、


 消滅した個体をダンジョンが24時間をかけて補強するような力が働いているのではないか?  


 そう言われている。 


 しかも、ボスと言われるだけあって、強すぎる戦力。


 その分、手に入るドロップアイテムは高額で取引される。


 ドロップアイテムの種類次第では、数十万————いや、数百万の利益も夢ではない。


「えっと、25層のボスって何の魔物ですか?」と俺の質問。


 タマさんは平然と、「ウォータードラゴンよ」と答える。


「ドラゴンですか……」


 ダンジョン内では、様々な魔物が出現する。 しかし、最強の魔物として人気が高いのは竜種————つまり、ドラゴンである。


 ドラゴン討伐成功は、ダンジョン配信者として1つの夢とすら言われる。


(一緒にいると、つい忘れてしまいそうになるけど、タマさんは上位のダンジョン配信者なんだよな。普通の配信者が夢で終わるドラゴン討伐を気分次第でやり遂げるほどに……)


 ふと、自分が場違いな所にいるような感覚におちいる。


 しかし、タマさんは、そんな不安を吹き飛ばすような笑顔で


「ん? ヒカリくん、どうしたの? ウォータードラゴンの出没地点はこっちよ!」


 そう言って駆け出して行った。


 その姿に何となく……


(彼女は本当にダンジョン配信者って職業が好きなんだろうなぁ)


 俺はそう思いながら、タマさんの後ろ姿を追いかけた。 それから、それから、


「ここが、ウォータードラゴンの巣……出没地点だよ! 油断しないようにね!」


 緊張が高まる。 


 ドラゴンと戦う。まさか、そんな機会が自分にも訪れるなんて……


 そして、ソイツは現れた。 水面から出現した巨大な影————間違いなくウォータードラゴン。


「でかい……」と思わず、見上げる巨体。 しかし――――


「ん? 何か様子がおかしい」とタマさんの言葉通り……


 出現したばかりのウォータードラゴンは、すぐに転倒した。


 しばらくして、周囲の水が赤く染まっていく。 


 どうやら、ウォータードラゴンは……この階層のボスは、何者かの手によって絶命に追い込まれていたようだ。 


 それも、俺たちが到着する直前に…… 

 

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