第10話 第25層 水の舞台
「そう言えば、紹介の時に言っていたリ美肉おじさんって何ですか?」
俺が訊ねると、コメント欄が、
『あっ……』
『あっ!』
『え?』
コメントが統一されていく。 どうやら、聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。
しかし、玉露タマは気にした風はなく、説明を始めた。
「そうね。ヒカリくんはVTuberってご存知ですか?」
「どうしました? 急に畏まって? わかりますよ。ライブ2Dとか使って配信する人たちでしょ?」
俺は詳しくないが、ダンジョン配信とは別ジャンルのエンタメとして認識している。
「そう、その人たちが女性のガワ……いえ、体を手に入れた男性の事をバーチャル美少女セルフ受肉って言うのよ」
「バーチャル美少女セルフ受肉?!?」
「略してバ美肉よ」
俺は察しの悪い方ではない。 それでは、『リ美肉』は何の略か説明される前に理解してしまった。
「……それじゃ、リ美肉の正式名称はリアル美少女セルフ受に……」
「さて、今回の目的地は第25層。地下ではなく上を目指して行きましょう!」
「お、おう……」と話しを遮られた。
ダンジョンには地下と地上に別れている。
ダンジョンの地下が何層まであるのかわかっていない。 最深部までたどり着いた者はまだいない。 地下100層までは確認されているが……
逆に地上何層まであるのか? それはハッキリとしている。外から数えれば良いのだ。
地上250層まである。 地上の階層は地下より難易度が低く、攻略が進んでいる。
それでも最上階まで攻略は100層を越えた所で止まっている。
ダンジョン配信者の上位である玉露タマも、その辺りが主戦場になっているのだが……
「今回は、緋炎ヒカリが新しい力を手に入れて、現在の実力未知数……という事で25層の攻略をする事にしました!」
俺たちは、転送用の魔方陣を使って最短で25層に到着した。
最短とっても時間にして1時間ほど。
道中は視聴者からの質問に答えることになった。
Xで使われるマシュマロと言われる機能。匿名性のメッセージでの質問だ。
『彼氏はいますか?』
「いません……え? 彼氏?」
『高校生ですよね? どうやって平日の朝に配信してるの?』
「高校生は義務教育ではないので……ダンジョン配信という仕事を優先させて貰ってます」
『女性に目覚めた気分はどうですか?』
「まだ、よくわかりません……いや、女性に目覚めた気分ってなんですか?」
『いきなり有名人になって変化はありましたか』
「何もありません。……と言いたいところですが、学校で知らない生徒に囲まれたり、説明を聞きたい教師たちによって職員室に呼び出されました。あと、町を歩くと女の子になった人と呼ばれました」
『ぶっちゃけ美少女に嬉しいですか? 悲しいですか?』
「ダンジョン配信者として能力が向上するアイテムの効果なので、それ自体は嬉しいです。一生、女性の姿で生活するわけではないので……」
そんな、やり取りを交えながら、
「それじゃ、まずいと思われる会話は
タマさんの言葉通りだ。第25層に到着————そこはダンジョンという建物の中でありながら、海が広がっているように見えた。
第25層は海を閉じ込めたような地形だ。
全体的に、足の脛辺りまでが水に浸かるほどの深さ。
以前の機動力がない俺にとっては苦手じゃない階層ではあるが……
「それじゃ、ヒカリくんには新しい武器を試してもらって私は後衛で魔法で支援攻撃、必要なら前衛に飛び出して、素早く後衛に戻るヒット&アウェイ方式でいくからね!」
彼女は短杖を右手に装備。 左手に片手剣を持った。
玉露タマは魔法剣士だ。 獣人化した事によって身体能力と元々持っていた魔法適正を利用したスタイル。
「ほら、ヒカリくん! 前方をよく見て――――いるよ!」
俺はタマさんの声に合わせて、前方を見る。しかし――――
「えっと、何もいませんが?」
「水の精霊だからね。もっとよく見てくれたまえ!」
言われた通りに凝視する。 すると――――
「いた! 本当にいた……
水色の女性。 精霊と言われているが……精霊と魔物の違いはないとされている。
魔法によって水を操る。こういう水の地形では、無類の強さを発揮する。
そんなウンディーネの手に魔力が集中していく。狙いは――――
「――――俺か!」と駆け出している。
しかし、水が邪魔だ。地上のように素早く間合いを縮めれない。
魔力が込められた水が発射された。
以前の俺なら盾で防御に徹する。しかし、今の俺の武装は
「盾がないなら――――魔法切断だ!」
大きな戦斧と振うと向い来る魔法を切り裂いた。
『バズった配信でもやってたけど、当たり前のように魔法切断をしてるね!』
『超高等技術のはずだろ? なんで、簡単そうに……』
そんなに驚かれるものなのか!? と俺が驚かされた。
少し前まで小さな盾とナイフが通常装備だった俺。
魔法を使う魔物相手の場合、運動能力が低い俺は簡単に攻撃の間合いまでたどりつけない。
そのため、自分に向かって放たれた魔法を切り払って技術が自然と身についたのだ。
「まずは――――1匹目だ!」と攻撃の距離までたどりつくと、ウンディーネに向かって戦斧の一撃を与えた。
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