第7話 ヒカリの日常とコラボ配信の申し出
今さらながら、自己紹介をするべきだろうか?
俺の名前は緋炎ヒカリ。ダンジョン配信者だ。
子供の頃に、ダンジョン配信者に命を助けられてから、俺も憧れてダンジョン配信者になった……と言えれば良いのだが、実は運動神経が悪いので諦めていた。
しかし、妹である緋炎アオイが奇妙な病気にかかった。
治療方法は地上にはない。 ダンジョンの奥部に薬となる植物が存在する……らしい。
だから、俺は――――諦めていたダンジョン配信者の道を歩き始めたのだった。
そう断言できればいいのだが……現時点の俺の年齢は17才。 ダンジョン配信者である前に高校生。まだ、高校に在籍中と言った方がいいかもしれない。
「うん、要するに俺……まだ、高校生なんだよな。行かないけど」
「行ってきなさい!」と妹に叩かれた。
妹との約束がある。それは――――
「ダンジョン配信のために学校を休むのは目を瞑るけど……私のために高校を留年なんてなったら、絶対に許さないからね」
トボトボと制服に袖を通して、学校に向かう。
時々、「ほら! あの子よ」と道を行くとおば様が指を向ける。
「あの子、女の子になっちゃんだってね。みんな噂しているわ」
「あら、中々イケメンじゃない。でも、女の子なんでしょ?」
「――――っ!」と思わず俺は顔を背けた。
(なんだよ。女の子になったって……いや、事実なんだけどな!)
俺は事実から目を背けるためにスマホを開いた。
何か有益なダンジョン攻略の情報はないか? それを調べるためだったのだが……
『ダンジョン配信ドリーム?
『情報求める。この配信者は誰? なんと、アイテムドロップを装備すると可愛い少女に変身!?』
『いきなりチャンネル登録者数が激増! 50万人が祝った底辺配信者とその理由は?』
ネットニュースはこんな感じだ。 念のため、身バレしていないか確認してみると――――
『調べて見ましたが――――緋炎ヒカリに関する情報はありません。新しい情報更新を待ちましょう』
「いや、なんでだよ! 普通にダンジョン配信者として活動してきただろ!」
そう叫ぶと虚しさが増してきた。
学校に到着。しかし、学校の方が世間さまより容赦がない。
「おい、お前の配信みたぞ」と大柄の男が近づいてきた。
先輩のはずだが……面識はない。しかし、その先輩は初対面のはずの俺に――――
「あんまり調子に乗るなよ」といきなり恫喝してきた。
「え? いや、そんなつもりはありませんよ」と答えが、どうやら先輩が期待していた回答ではなかったみたいだ。
「それが調子に乗ってるって言ってんだよ!」といきなり殴りかかってきた。
(おいおい、正気か? 投稿時間の学校だぞ? こんなに人目がある所で殴りかかって来る奴がいるかよ!)
思わず、反射的に体が動いた。 俺の運動能力は低い……ただし、それはダンジョン配信者を基準にした場合だ。
先輩の拳を避ける。 それから、動きを止めるように腕を掴んで捻じり上げた。
「いてぇ! てめぇ離せよ! こんな事をしてどうなるか……痛て痛て痛て!」
(ダンジョン配信者になりたくて、いろんな格闘技を習ったよな。あんまり役に立たなかったけど……いや、昨日の殺人鬼戦では有効的だったな)
「わかった。わかったから、離してくれ! 俺の負けでいい」と先輩は大声を上げた。
技を解いてやると――――
「嘘じゃ、ぼけ!」と再び殴りかかってきたので、もう一度、関節技を強めにかけておいた。
そんな些細なトラブルに見舞われたが、無事無傷で自分のクラスに到着した。
すると、愛すべき同級生たちは俺を質問攻めにしてきた。
もみくちゃ状態だ。
(もう、ここで同級生たちに圧死させられるのか?)
本気でそう思うほどだった。
今日の授業が終わるまで、そんな感じだった。 他の教室から、先輩後輩関係なく人が訪ねてきて質問攻めにしてきた。
「おいお前等! 緋炎も困ってるじゃないか! 教室に戻れ、戻れ!」と教員たちが止めに来たが……
「緋炎! 後で職員室に来い!」
「は、はい! でも、出席日数には余裕があると思うのですが?」
「馬鹿たれ! ワシを含めて先生がたもお前に興味津々じゃ。いろいろ話に来いや」
それが聞こえた生徒たちの「わー! 先生、卑怯だぁ」の合唱もどこ吹く風で先生も生徒たちも引き上げて行った。
「やれやれ」と、必要以上の疲労感を覚えて授業を終えた。
また質問攻めにあわないように――――軽く窓から飛び降りて学校を脱出。
しかし、ここで予想外の事が起きる。 学校の周辺を他校の生徒たちが待ち伏せしていたのだ。それも、ほとんどが女子生徒だ。
「まさか、これ……いや、流石に自意識過剰だよな」
あはははは……と笑って見せた。 しかし、生徒の1人が俺と目が合うと――――
「あれ! ヒカリくん! いたあぁぁ!」と声を上げた。
興奮した彼女たちに、ここが他校とか関係ないのか? 問答無用と言わんばかりに走って踏み込んできた。
「いやいや、まずいよな、これ? 逃げるか?」
本格的な逃走を考える俺。しかし――――
「待ちなさい!」と凛とした声が聞こえた。
大声を上げ、暴走した女子生徒たちにも、その声が耳に届いたのだろう。
不思議な事に狂乱と言えるほどの彼女たちは足を止めた。
声の主は――――
「あら、みなさん。順番を譲ってくれてありがとう」
その光景は、まるでモーセの十戒……あの海を割る奇跡のシーンだ。
女子生徒たちの真ん中を歩いてくる救世主の正体は?
「はじめまして 緋炎ヒカリくん? ヒカリくんでいいのよね?」
「はい……あの、どなたですか?」
「あら、私の事を知らない? 我、玉露タマぞ?」と仰け反って見せた。
「玉露タマ……え? あのダンジョン配信者のタマさんですか!」
「やっぱり、知っててくれたのね。よかった」と彼女は、なぜか安堵したように言うと、こう続けた。
「もし良かった。スケジュールを教えてくれない。コラボ配信をしたいのだけど?」
「コラボ配信? 誰と誰の?」
「決まっているじゃない。私と君のコラボ配信よ?」
その言葉に止まっていた女学生たちも興奮の声をあげていた。
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