第6話 今日の終わりは

 ファミレス。  緋炎ヒカリの配信を見ていた熱狂的ファンたちは――――


「……いや、凄い物が見れたな。今日の配信」


「殺人鬼の討伐。それに希少なアイテムのドロップ。取れ高ってレベルじゃないね」


「それで、途中で同時接続者10万以上になってたけど……だれ?」


「私」と手を上げたのは『ガチ恋』って名乗っている少女だった。


「SNSのサブ垢で配信のURLを貼り付けてばら撒いたわ。主にXとかにね」


「『ガチ恋』さん、ライバル増えそうなのに、よくやるね」


「ライバル? 多い方が燃える体質なのよね、私」


「ひゅ~」って、机についていた何人かが口笛を鳴らした。


「これから面白くなるわよ。いきなり、殺人鬼マーダーを倒した無名の配信者。みんなが彼を知りたがるわ」


「それに……あのアイテム。 大丈夫か?」


「なに? 『杞憂民』さん。その名前の通りに『杞憂民』らしいことを言ってるじゃん」


「ただ、性別が男性から女性に変わるだけのアイテムだと思うか? あの殺人鬼からのドロップアイテムだぞ」


「……」と全員が無言。 


 全員がダンジョン配信に詳しいメンバー。実を言えば、彼等ほどダンジョン配信に精通している人間は、あまりいない。


 そんな彼等も知らないのだ。 殺人鬼からドロップされた呪いのアイテム。


 その効果を――――


「おい、そろそろ俺たちの時間だぞ」と『ファンチ』の声。


 全員が一斉に時間を確認する。 彼等が緋炎ヒカリという配信に注目している理由に時間帯がある。


 彼等が気楽に集まって見やすい時間帯に配信しているのだ。


 彼等の仕事は、午後……あるいは深夜になる。


「それじゃ『杞憂民』のおごりな。ゴチになります」


「待ってくださいよ、先ぱ……『指示厨』さん。俺が一番、新人で金がないですよ」


「何が金がないよ。知ってるわけよ……先月の誕生日凄かったらしいわね」


「もう『ガチ恋』さんまで、わかりました。払いますよ」


 トボトボと『杞憂民』はレジに向かう。 店員を呼んでお金を支払おうとするのだが―――――


「あの……」


「はい? どうかされましたか?」


「間違っていたら申し訳ないのですが……もしかして、ダンジョン配信者の銀月ムラサメさんじゃないですか?」


「え?」と『杞憂民』は、仲間たちを見た。


 しかし、既に逃げ出したのか姿が見えない。


「あ、あの人たち……俺を囮にして、自分たちが逃げるために……」


『杞憂民』こと銀月ムラサメは、彼等に沸々と怒りを沸かすが、


「あのファンです! いつもの挨拶をお願いしてもいいですか?」


「え? ここで……ですか?」


「はい、是非! お願いします!」


「――――っ!」と彼は覚悟を決める。 変装のため、サラリーマン風の七三ヘアを手櫛で直していく。

 

 どういう理屈だろうか? さっきまで黒髪が銀髪に変わっていく。 


 トレードマークにしているサングラスを取り出すと……


 「やぁ! みんな、こんサメ! こんサメ! ダンジョン配信者の銀月ムラサメです!」


 「きゃああああ!」と店員から黄色い声が飛んだ。


 そんなファミレスの外では――――


「もう使えないな。このファミレス……事務所に近くて便利だったのだが」


「あの子、変装が甘いのよ。私くらい完璧にしないとね」


 そう言うと『ガチ恋』は帽子を外す。 するとそこには耳が……人間の耳とは違う。それは猫のような耳が生えていた。


 ダンジョン配信者の中には、体に変化が起きる者もいる。


 魔物と戦い、強い魔力を手にすると体がより強靭に進化するのだ。


 一部では、ダンジョン病とも言われる現象。


 彼女の場合は獣人化……猫耳が特徴的だった。  


「 緋炎ヒカリくん、彼は私たちトップダンジョン配信者と並んだ……って言うには、まだチャンネル登録者数が足りてないけど、コラボにお誘いするには十分な有名配信者になったんじゃないかしら?」


『ガチ恋』 彼女もまたトップ配信者の1人。


 配信者名は玉露タマ


 チャンネル登録者数 7000万人の大物配信者だった。


 そして、得意な配信企画は――――


 『コラボ配信』である。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・

 

 俺、緋炎ヒカリは、自宅の前をウロウロしていた。


 マンションの部屋の前……入り難い。もう、周囲は暗くなっていて、夜と言える時間帯になってきた。


「お兄ちゃん、帰ってきているのでしょ? 早く入ってくればいいでしょ?」


「アオイ! こんな姿になった俺でも、まだ兄と呼んでくれるのか?」


 俺は、まだ10代前半くらいの少女の姿のままであった。


「配信見てたわよ。女の子になったくらいじゃ……あら、思っていより小さいわね。大丈夫、お兄ちゃん可愛いわよ」


 ドアを開けたアオイにいきなり言われた。 意外な事実がわかった。


 実の妹に「可愛い」と言われると兄としての威厳が粉々に砕けるほどにショックだという事が……


「俺、こんな姿になっちまったけど、どうしたらいいと思う、妹よ?」


「こういうタイプの呪いは、時間制限があるものよ。ダンジョンを出て、何時間くらい経過してるの?」


「昼よりは前に出たから……7時間くらい」


「ふん」とアオイは俺の頭を触った。そのまま、


「これをこうして……こうね!」と何かを引っこ抜くような動作と共に――――


「取れた……兜が! それじゃ俺の姿は?」


 再び、黒い煙が俺の姿を覆った。 僅か数秒の出来事で、俺は男の姿に戻っていた。    

 

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