第3話 リスナーの座談会

 緋炎ヒカリの配信。 


 チャンネル登録者数83人。 現在の同時視聴数は10人ほど……


 その10人の内、4人はファミレスに集まり、ヒカリの配信を見ていた。

 

 4人は、それぞれ


『指示厨』


『ガチ恋』


『ファンチ』


『杞憂民』


 およそ、配信者に嫌われる要素を異名として名乗っていた。


 それぞれがタブレットで配信を見ながら、音が漏れないようにイヤホンをしている。


 骨伝達を利用したタイプのイヤホン。 周囲の音もクリアに聞こえるイヤホンだ。


「ん~ 俺は面白いと思うけど、どうしてコレで人気が出ないだろ?」


 『杞憂民』の呟きに、全員が『指示厨』『ガチ恋』『ファンチ』が顔を上げた。


 それぞれ、主義主張がありそうだ。


 元より、朝から集まって、新人の配信を視聴するガチ勢たちだ。


「武器が地味。立ち振る舞いがチグハグだ」と『指示厨』がいう。


「ナイフを使って配信映えを狙うなら、スピードを生かして戦うべきだ。盾で防御してカウンターを狙うならナイフは地味過ぎる」


「そうね……本人も運動能力は高くないって言ってるからね。武器を変更すべきよ。どっしり構えてカウンターを狙うのが基本スタイルなら、大型の剣とか派手な武器を使った方がいいわね」


 『指示厨』に続いた『ガチ恋』の言葉に、他の面々も頷く。


「派手で配信映えを狙うなら、誰も使わないような武器を使えばいいのな。思い切って、魔法ビルドにして接近戦型魔法使いなんて受けるしょ?」


 『ファンチ』の言葉に、全員が「……」と無言で否定した。


「なんだよ、ダンジョン配信なんて目立ってなんぼだろ? 結局、俺らみたいな玄人好みの連中が、青田買い目的の視線で言っても、一般受けしねぇぞ」


「……いや、僕はそう思わない」と『杞憂民』


「あん? じゃ、お前はどう思ってるだよ?」


「緋炎ヒカリはダンジョン配信者としての才能はあるよ。だから、みんなも彼に魅かれている」


 確かに、それは事実だった。 緋炎ヒカリにはダンジョン配信者としての才能は高い。だから、こうして朝から集まって、彼の配信を見守っているのだ。


「彼の才能は疑う余地がないわよ」と断言するのは『ガチ恋』だった。


「チャンネル登録者83人。同時接続者数10人……あら、3人増えてるから今は13人ね」


「それがどうした?」と言わんばかりの全員の視線に『ガチ恋』は動じない。


「わからない? チャンネル登録者数から同時接続者数の割合は、普通5%くらいだと言われいるのよ。83人の内、13人が視聴してる。実は、脅威的な数字なのよね」


「つまり、どういう事だ? もう少しわかりやすく言え『ガチ恋』よ」


「落ち着いてよね、『指示厨』さん。単純に言えば、彼の配信は私たちが思っている以上に、視聴者を引き付けているって証拠よ。あとは……」


「あとは?」


「何か、少しでもバズる出来事が起きれば……」


 そんな時だった。 タブレット内で映し出されている緋炎ヒカリの配信。


 その映像に何か、不吉な影が映り込んだのは――――


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


 俺、緋炎ヒカリは目的地に到着した。


「それではダンジョン地下5階に到着しました。今日の目的であるバトルワーム100匹討伐耐久を始めていきます」


 ダンジョン低層で、ここがバトルワームの生息地になる。


 俺は、盾でコツコツとダンジョンの床を叩いた。


 綺麗に舗装された床。それがボコボコと波打っていくと、地面からバトルワームが飛び出してきた。


 ワーム……そう言うとミミズのような形状を連想するかも知れないが、バトルワームは棘の生えた蛇のような魔物だ。


「まず1匹目です。体長は1メートルくらいで……少し気持ち悪いですね」


 コメント欄は


『グロ注意』


『誰得耐久配信始まった』


『もう少し企画を練って……だな……』


 そんな感じで不評だった。


 赤い光沢を持った体に、威圧するようなトゲトゲの体。油断をすると地面に潜ってからの攻撃。 さらに毒で攻撃をしてくる。


(厄介な魔物だ。低層では強モンスターに入る評価だったから、耐久討伐配信を企画したのだけど……失敗だったかな?)


 だが、バトルワーム本人は俺を敵として認めているらしい。


 青い瞳が射抜くように向けられている。 もしかしたら、昼寝や食事を邪魔してしまったのかもしれない。


 要するに――――


「1匹目から、怒っていて、好戦的なバトルワームを引いてしまったか」


『自分で怒らせててワロタw』とコメントを流し見しながら、バトルワームに向かって行った。


  ワームは、体をうねらせながら地面を這って進む。 体に備わった尖った棘を武器にして俺に向かって、振り回し始めた。


「――――っ! 危ない」と盾で棘を防いでのカウンター。 ナイフで切り付けた。


 しかし、効果は薄い。 バトルワームの弱点の位置はわかってる。


 棘がない場所————背中や頭部といったわかりやすい箇所。


 俺は盾でバトルワームの体を上から押さえつけて、動きを封じる。


 コイツは毒を吐く。 頭部も自由してはいけない。 だから――――ナイフを振り下ろした。


 まず1匹の討伐成功。 


 再び、盾で地面を叩いて、次々にバトルワームを呼び寄せる。目的の100匹を達成するために――――


 しかし、途中に不穏なコメントが目に止まった。


『何かヤバイ気配がする』



  


   


  

 

         

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