第2話 ゴブリンとの戦闘

「えっと……それでは配信を開始します」

 

  緋炎ヒカリ チャンネル登録者数83人のダンジョン配信者。


 それが今の俺だ。 


 83人という数……少なくないと思うかもしれないが、世界中から注目されているダンジョン配信者の上位陣はチャンネル登録者 1億人以上だ。


 それほどの注目度で83人は……やっぱり少ないだろう。


 さらに、同時接続数(配信をリアルタイムで見ている人数)は10人ほど。


(いや、少ない人数だからと言って手を抜くな。10人だって見てくれているんだぞ!)


 気合を入れるためにヒカリは、パンパンと顔を叩いた。


『いきなりどうしたw』


『気合入れ、助かる』


『草www』


 俺の視界の隅、視聴者リスナーからのコメントが流れていく。


 使い魔型ドローンのカメラを中継して、俺にも視聴者が書きこむコメントが見える仕掛けになっている。


「えっと……今日は、地下5階に行こうと思います。まずは移動系魔法陣を目指します」


 そんな説明の途中、小さな人影が飛び込んできた。


 緑色の魔物————ゴブリンだ。 それも3匹。


 それぞれが違う武器を持っている。


「えっ……あっ! ゴブリンです! 早速とゴブリンが現れました。倒していきましょう!」


『落ち着け! 落ち着け!』


『ゴブリンに慌てすぎワロタwwww』


 盛り上がるコメント欄。


(命のやり取りを前でも、視聴者の反応を気にしてしまうのは俺も配信者らしくなってきたのだろうか?) 


 そんな事を思いながら、武器を構えた。


 俺は、左手に小さなナイフを持つ。 右手の盾で、自分の体を庇う。 


 そんな構えだ。 だからといって、別に左利きではない。


 魔物の攻撃を受け損じないために利き腕の盾で防御して、体勢の崩れた相手に左のナイフで刺突を決まる……運動能力の低い俺でも戦えるために編み出した戦法。


 しかし――――


『ナイフでやるな。地味すぎ!』


『刺突専用の武器を買えよ』


『ナイフ装備でディフェンシブ過ぎて笑うわ』


 こんな感じで、評判は悪い。


「――――っ、俺だって金があれば、日本刀とか、槍とか装備してみたいよ!」


 思わず、泣き言が零れながらも――――


 斬りかかって来るゴブリンを盾で弾き飛ばす。


 狙いは2匹目のゴブリン。 


 きっと、2匹で同時攻撃を仕掛けるつもりだったのだろう。 


 当てが外れた2匹目のゴブリンは無防備な状態で俺の斬撃を受ける。


 ダンジョン内で倒された魔物は死体を残さない。


 斬り捨てられたゴブリンは、黒い煙に死体が包まれて消滅した。


「よし、まずは1匹目————え?」と俺は異変に気付いた。


 後ろに下がっていた3匹目のゴブリン。 その手には蒼き炎に包まれている。


「――――っ! ゴブリンのまじない師ゴブリンシャーマンが混じってた!」


 ゴブリンのまじない師は希少魔物レアモンスターだ。


 知力の低い種族のはずが、妙に高い魔力を持っている。


 その魔力……蒼い炎が、俺に向けられた。


 コメント欄も――――


『あっ!』


『あっ!』


『\(^o^)/オワタ』


 けど……


「けど! ここでやられるわけにはいかない!」


 発射された蒼い炎の魔法攻撃。 俺は、盾で受ける。


 仰け反り、吹き飛ばされそうになる俺の体……けど、足に力を込めて耐えた。


「よし、耐えきった! ……え?」


 俺が驚いた理由。それは2発目————ゴブリンのまじない師ゴブリンシャーマンは2発目を発射していた。


 攻撃を受け終えたと思った俺は盾を下げていた。 


「もう一度、盾で受けるよりは――――ナイフで切り払う!」


 自身に向かい来る魔法攻撃に対して、俺は素早くナイフを振るった。


 蒼い炎に複数の線が走ると、その場で霧散していった。


『おぉ! 魔法切断!』


『高等テクニックじゃん!』


 賛辞のコメントに調子に乗った俺は、無防備になったゴブリンのまじない師ゴブリンシャーマンに対して、ナイフを投擲。


 しかし、簡単に避けられた。 


 そのゴブリンの表情からは――――『下手くその間抜けめ』と笑っているのが読み取れた。


「まぁ、避けられるのは予定通りだけどね!」と俺は2投目。


 今度はナイフではなく、持っていた盾をフリスビーのように投げていた。


 魔法2連撃のお返しというわけではない。 


 小柄で素早いゴブリン族に投げナイフを当てるのは難しい。ならば、最初が避ける方向を誘導するように1投目を外してやれば、2投目を的中させるための難易度は下がる。


 盾のヘリを直撃した。 


「うぎゃああああああああああああ」と断末魔を上げて倒れたゴブリンのまじない師。


「よし、これで終わり――――じゃないよな!」


 背後から隙を狙って飛び出してきたゴブリン。 4匹目が隠れていた……わけではない。


 最初に盾で吹き飛ばした最初の1匹目が、こちらの隙を狙っていたのだろう。


 ナイフと盾を投擲した俺は、隙だらけに見えたに違いない。


 だが――――


「ナイフの予備くらいはあるに決まってるだろが!」


 太ももに装着していたナイフホルダーから、抜いたナイフをゴブリンに向けて走られた。


『888888888』


 視聴者リスナーたちは、数字の『8』を大量に書きこんでいた。


 パチパチと拍手の音を表現しているネットスラング……要するに称賛だ。


 そんな中、あるコメントが目に止まった。


『アイテム、落ちてないですか?』


 ダンジョン内の魔物を倒すと、低い確率であるがアイテムを落とすドロップすることがある。


 武器や防具。特殊な素材……


 時には、明らかに魔物よりも大きかったり、重かったり……


 質量保存の法則を無視した希少な素材が手に入る場合がある。 


「アイテム? 落ちてないと思うけど……」


『違う、ソッチじゃない』


『ゴブリンじゃない』


『おっ! 希少品GETおめ!』


「ん? みんな、何を言っているんだ」と周囲を見渡すと――――


「あった。しかもこれ……ゴブリンのまじない師からドロップアイテムだ!」


 ゴブリンのまじない師は希少魔物レアモンスター


 落とすアイテムも希少品だ。


 俺が手に入れたアイテムは杖だった。 髑髏ドクロが先端に付けられた悪趣味な杖ではあるが……


「これ、どのくらいの価値があるか、わかる人いますか?」


 コメント欄に聞いてみると――――


『1万』


『今の相場は1万円くらいだよ』


『俺なら5000円出す』


 思っていたより高い品物ではなかった。肩を落としながら、


「希少品なのに、そんなに値が低いの?」


 すぐにコメントで返事があった。


『昔は高かった。それでゴブリン狩りが流行って暴落した』


「そうなのかぁ。ん~ 教えてくれてありがとう」


 何かを察したコメント欄は『ドンマイ』で埋まった。   

 

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