第14話 十二神将「アルベド」と大賢者の孫

「随分と舐められたものですね」


ふふっと笑う白石 桜の周りには五人の黒服の男が倒れている。

今にも死にそうな男達はそれでも白石を捕らえようと地面に手を付き

立ち上がろうとする。


「見たところ、世界政府の諜報員と言うところでしょうか?」


白石の言葉に男たちは流石としか思えなかった。

そして確信する。

この女が大賢者の孫であると。


「何が目的かはわかりませんが、私を捕らえたくばお強い人を連れてきてください」


世界政府の諜報員、それも五人がかりで小娘一人に弄ばれる。

これまでの訓練で流した血と涙は計り知れない。

白石の言葉一つで男たちの怒りはマックスへと達していた。

しかし、現実は虚しくも女一人に遊ばれる始末。


「哀れですね」


白石はそう吐き捨てて杖を突きながら歩いていく。


「おいおい、俺の可愛い後輩たちを勝手に壊すなよ」


白石は足を止める。

いや、止めざる負えなかった。

背後に現れた男は明らかに異質な存在。

莫大な魔力。

久しぶりに身体が身震いをした。

笑みを浮かべざる負えない。

【強敵】


「あらあら、それはすみません。

 あと助言をいたしますと、そのおもちゃは捨てた方が良いですよ。

 とても面白くありませんので」


「おぉ、こっわ」


白石は後ろを振り返り、男の顔を確認する。


「なぜです」


「あん?」


「なぜあなたが?」


「俺を知ってんのか?」


「知らない方がおかしいと思いますよ?

 十二神将「第八席」アルベドさん」


「これは光栄だなぁ、大賢者の孫に知られてるなんて」


白石はその言葉にキョトンと首を傾げる。


「何のことですか?」


「とぼけるな、お前大賢者の孫だろ?」


「根拠は?」


「強さ」


「嬉しいです」


白石はコンコンと地面に杖を突く。

地面は一変、青い海に変わって龍を描く。


「芸術だな」


「ありがとうございます」


白石は作り上げた水龍を杖で操り、アルベドへと向ける。

大きな咆哮を上げた水龍は本物の龍の様に勢いよくアルベドへと襲い掛かる。


「ふっ」


アルベドは笑みを浮かべ、屈強な体をさらに大きく膨らませる。

それはさながら鬼のように、大きな右腕に魔力を込める。


「業小・拳」


アルベドは溜めた拳を振りぬく。

襲い掛かる水龍はアルベドの技により一瞬で消え去り、その衝撃は白石を襲う。

大きな土煙が舞い上がり、視界は一面茶色に染まる。

今放った技の衝撃をモロに食らったらタダじゃ済まない。

白石のような女なら尚更である。


「やっちまった、

 まさか殺しちまったか?」


アルベドは一瞬頭を掻いて心配する。


「心配は無用です」


突風が吹き、土煙が引いた空間に居たのは無傷の白石。

アルベドは安堵を吐いて安心する。


「ほう、杖で結界を張るか。

 やっぱ大賢者の孫だな」


「だから違うと言ってますでしょうに」


「お前自身は認識していないのか?

 自分が大賢者の血族だってことを。

 それとも嘘を吐いてんのか、本当に違うか、」


しかしアルベドは首を振る。


「いや、お前で違いない。

 本当に闘い方までそっくりだ」


白石が無事だったのは杖で結界を展開していたからである。

さっきの技は並大抵の魔法師は結界なんて関係なく殺せている。

結界で防ぐことのできる奴なんて世界の数十人程度。

いや、10も居ないだろう。

そして確信する。

こいつは”ホンモノ”だと。


「じゃあ本格的に行こうか、

 本気で行かせてもらう」


「喜んで」


アルベドは背中に背負っていた大きなハンマーを手に構える。

これがアルベドの本来の武器である。

幾つもの猛獣、魔物を葬り去ったハンマー。

それが今、白石に向けられる。


「おいおい、そんな物騒なもんを女の子に向けんなよ」


「あ?」


一瞬だった。

聞き覚えのある声に白石は目を凝らしたが、瞬く間に景色は凍り付いた。

そう、凍り付いたのだ。

あの、世界政府最高機関「十二神将」の一人が。

アルベドが氷漬けになっていた。


「怪我はしてへんか?」


「だ、大丈夫です」


いつもは動揺しない白石だが、一瞬の出来事に頭の整理が追い付かないでいた。

そして見覚えがあった。

1-3担任の倉橋 宗先生だ。


「いや~こっちも予想外の出来事やったから動くのが遅れたわ。

 しかし…」


倉橋は顎に手を置いてアルベドを見つめる。


「なんで十二神将がこんなことを…っと」


「ハァハァ、」


「随分息切れしとるやないかい」


アルベドの張り付いた氷は壊れ、膝をついて息をする。

それを倉橋は眼鏡をクイっと上げて笑う。


「てめえか、倉橋」


「ほう、知ってくれとんのか、

 というより忘れ取ったら殺しとるわアホ」


「先生、一体どういう関係で?」


「今は気にせんでええ、それより自分を守りはなれや。

 相手は十二神将や、僕が勝てるかどうかもわからん」


倉橋はそう言うと白石に向けて手を仰ぐ。


「ほら、行った行った。

 ここは僕に任しとき」


倉橋は自身の身体を凍らし、構える。

そしてアルベドも同じく、呼吸を荒くしてハンマーを構える。


「じゃあ行くで、アルベド君」


「あぁ、先生」

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