第13話 大賢者の孫、発見

周りには人気が無い。

学生も魔物も動物たちも。

息を潜めているわけではなく、異様な空気に近づけないでいた。

大友は背中を向けて走っていたが、背中に感じる異様さは汗が止まらない程に不気味であった。

たった一分の死闘。

されど神宮寺を除く全員が息を飲んでいた。

ただ一人、神宮寺を除いて。


「てめぇ、、」


「教えてもらえるか?」


神宮寺は倒れた男の背中に腰を落とす。

男は全身の骨が折れ、神宮寺の体重に耐えきれず血を吐き出す。


「なら、、俺の質問にも答えてもらう」


「あぁ、じゃあ先に応えてもらう。

 お前たちの目的は何だ?」


男息遣いを荒くして口を開く。


「目的は…大賢者の孫の誘拐だ」


「大賢者…」


世界最高峰の魔法師【大賢者】

その孫、


「次はこっちの質問だ。

 お前は、大賢者の孫か?」


神宮寺は目を見開く。

予想していた遥か上の質問が飛び出した。


「大賢者の孫を誰だか分かっていないのか?」


「あぁ、ただ女だとは聞いていた。

 だがそれも半信半疑の情報だとよ、」


「残念だが、俺は大賢者の孫でもなければ血族でもない。

 どうやって大賢者の孫を探そうとしているんだ?」


「大賢者の血族だからな、、

 強さでわかる」


だから俺に大賢者の孫かどうかを聞いたという事か。


「ただ、ここまで強いとは聞いてねぇ、、」


「加波…魔物使いを狙ったのも作戦の一つか?」


「違う、おまけみたいなもんだ…」


男はそう言って小さく笑うと、意識を失う。


予想外のハプニングだったがいいことを知れた。

大賢者の孫、血族がこの学園にいる。

それも同学年。

少し興味が湧いてきたが、まずは状況の整理だ。

佐藤もどこかへ逃げて行ったようだ。

佐藤が狙われることは無いため、ひとまず保留で良いだろう。

加波についても大友が付いている。

それにこの作戦は加波が軸ではない。

こいつ程度が襲ってきても、二人で倒すことは出来るだろう。

俺は気絶した男を鎖魔法で拘束して、森の中を進んで行く。



「邪魔をするな、」


「おいおい、連れないなぁ。

 俺には興味なしか?」


風見透は笑みを浮かべながら舌を出す。

立ちふさがるは黒服の男。

神宮寺と対峙した男も黒服であり、特徴が一致する。


「俺の獲物の白石に何か用か?」


1-2のリーダー的存在である風見は1-1の白石桜に目を付けていた。

しかし状況が一変。

白石の動向を探る最中、現在に至る。


「もう何人かは白石の下にお仲間が行ってるじゃねえか。

 俺も相手してくれよ?」


風見は挑発をする。

相手は異様な存在。

明らかに生徒ではないことは身体が察知していた。

それ故、対峙したい気持ちが溢れ出る。


「お前のようなガキと遊ぶために来たんじゃない」


「じゃあ何のためか教えてくれよ、」


「断る」


「死ね」


風見は右拳、両足に炎を纏う。


「ビビるなよ?」


風見は炎の纏った足で踏み込み、男と距離を詰める。


「炎拳」


炎の火力は素早さに変わり、視認出来ない程に速い。


「クッ、!?」


黒服の男は手のひらで炎を纏った拳を受け止める。


「あちィ、」


肉の焼ける匂いが舞い、炎の纏った蹴りを繰り出す。


「厄介な、」


黒服の男は腕で蹴りを守り、距離を取る。


「逃がさねえよ」


風見は男の髪を掴み、顔に膝蹴りを入れる。


「あんま大したことねえな、」


男は後方に飛んでいき、焼けた顔を抑える。


「ぶっさいくな顔が更に酷くなっちまったな」


風見は大したことないなと呟いてゆっくりと歩いて距離を詰めていく。


「その程度だと、白石に触れることもできないんじゃねえか?」


「あまり調子に乗るな」


男は大きく口を開く。

そして素早い速度で舌を出し、風見の腕に纏いつく。


「きめえ、、」


そう余裕に口にするが、状況は一変していた。

力が抜ける感覚。

恐らく魔力が吸い取られている。

舌を掴み、剥がそうとするが強い力が働いており、ビクともしない。

それどころか掴んだ手からも魔力が吸い取られる。


「カエルみたいなことしやがって!!」


しかし風見は何よりも気持ちの悪いこの舌に腹が立っていた。

そして黒服の男は驚いていた。

いくら魔力を吸い取っても枯れることは無い。

それどころか吸収する魔力量は増えていく一方であった。


「もういい、炎空・火だるま」


風見がそう呟くと男の周りが赤く光り始め、一気に燃え上がる。


「ぐああああああああああああ」


風見の合図によって点火した炎は空間を真っ赤に染め上げる。


「どうだ?

 受けたことのない火力だろ?」


底知れぬ風見の魔力、その風見から繰り出される魔法は一級品といえる。

世界政府の諜報員ですら受けたことのないダメージ。


「つまらねえ一週間だと思っていたが、楽しめそうだ」


風見は大きく笑い、燃え上がる男の末路を見ることなくゆっくりと白石の下へと歩んでいく。




「緊急連絡です

 大賢者の孫を見つけました。

 繰り返します、大賢者の孫を見つけました」


「では、お願いします。

 十二神将「第八席」アルベド様」

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