第6話 忌み子と魔物使い

グループが決まって一週間が経ち、周りは団結力が高まってきたように見える。

今まで男女で固まったところを見たことがなかったクラスだったが、グループが出来てからは、男女で仲睦まじい姿が見えるようになってきた。

俺たちのグループも順調に仲を深められている、、わけでもなかった。


「ダメよ、もっと拳に魔力を込めないと。

 他の部位には流さないで」


「と言われてもなぁ、、」


今俺たちは学校の敷地内のダンジョンにいる。

クラス対抗戦に当たり、個人の力が重要視される。

大友は戦闘面に不安を抱える俺達を鍛えるためにD級ダンジョンへ来ていた。


「佐藤君、なぜ言ったことが出来ないの?

 これだと作戦に支障がきたすわ」


佐藤に対して耳の痛いことをズバズバと話す。

佐藤は続けられる言葉に焦りから不満に変わっていった。


「そんな言われたって出来ねえもんは出来ねえよ!

 大体、、戦闘面はお前と神宮寺がカバーする手筈だろ…」


「そうだけれど、あなたが襲われた時に助けられない。

 自分の身は自分で守らなければならない。

 だからあなたには強くなって欲しいの」


「じゃあ加波はどうすんだよ!」


今ここに加波静は居ない。


「あの子には、、もう期待していないわ」


バッサリと大友は話す。

ここ一週間、放課後は三人でしか行動をしていない。

加波に呼び掛けるも「用事がある」と断られ続けている。

クラス対抗に燃える大友はすでに加波を戦力として認識していない。


「そういうわけにも行かないんじゃないか?」


俺は大友にそう声をかける。


「じゃああなたには加波さんをお願いするわね。

 あなたに教えることはなさそうだから」


難しい依頼だ。

大友は女子にも人気の高い谷口にも加波に声をかけるようお願いしていたが、加波の様子を見ると男は特に苦手らしい。

谷口で厳しいなら俺はほぼ不可能に近いだろう。


「出来るだけ努力する」


そして俺は次の日の放課後、加波に仕掛ける。


「加波、少し良いか?」


「な、何ですか、、」


帰ろうとした加波に声をかけて呼び止める。

予想通り、顔を伏せておどおどしている。


「今から、時間はあるか?」


「すみません、用事で、、」


また同じ断り方だ。


「そうか、答えたくなかったら良いんだが、用事って言うのは何なんだ?」


「すみません、、言えないです」


「そうか、、気を付けて帰れ、、」


俺がそう言い終わる前に、加波は一礼して教室を後にする。


「ダメね、」


そう大友はダメ出しをする。


「分かってたことだろ」


「このままだったら、私達の作戦は終わる。

 マイナス10万ポイントまっしぐらよ、」


大友はそう告げて佐藤とダンジョンへと向かうため教室を出る。


「圧がすごいな、」


俺は荷物の支度を始める。

クラスも数人しかいなくなったことで、思いもよらない会話が耳をよぎる。


「加波さんって、、あれだよな」


「あぁ、髪も青空色の綺麗な色だし、」


「クソ可愛いし、なにより、、胸が大きいよな!」


男子学生がひそひそと話す。

俺は耳が良いため、事細かに話が聞こえる。

しかし、他の学生からはそう見えるのか…

俺は荷物を持って教室を後にする。


「太間の森、、」


俺は詮索スキルを使い、加波の後を追っていた。

加波の行く先は太間の森。

学園の敷地内で、D級ダンジョンよりも弱い魔物が生息する森。

ほとんどの人が立ち寄ることのない場所。


「あれは、、」


加波はゴブリンと共に、小さなオークと対峙していた。


「ゴブ郎、挟み撃ちだよ!」


その合図で加波とゴブリンはオークを切りつける。


「やった!!」


加波はオークを倒し、飛び跳ねて喜ぶ。

その様子を見ると、確かに胸は大きい。

加波はゴブリンとハイタッチするなど、仲が良さそうだ。


「誰だ!?」


静かにその様子を近くで見ていると、ゴブリンに気づかれてしまう。


「悪い、盗み見するつもりは…」


その言葉を聞かず、ゴブリンはこちらへ猛スピードに突き進んでくる。

刃こぼれするナイフが、森の木々から差し込み光る。


「待ってゴブ郎!!」


衝突寸前

俺も手が出そうになったところで加波がそう叫ぶ。


「しかし、、見られました、」


ゴブリンは立ち止まり、加波の方へ振り返る。


「私のお友達、、知り合いだから!!」


まともに大きな声で話す加波は初めてだ。

俺は少し驚きつつ、謝罪を口にする。


「悪い、邪魔するつもりはなかった。

 このことは誰にも話さない。

 ただ、少し話をしないか?」


俺は加波に歩み寄っていくと、ゴブリンはナイフをこちらへ突き立てる。


「敵意は無い、、ダメか?」


「静、、どうします?」


「わかった、、いいよ、」


加波はいつも通り、弱弱しい言葉に変わって承諾する。


「加波は、魔物使いだったんだな」


魔物使い

排除されてきた魔法使いの名。

魔物と仲良くすること自体、世間からの目は冷ややかである。

それゆえ魔物使いは殺戮されてきた歴史がある。


「うん、、」


「安心はできないかもしれないが、、」


「私、気持ち悪いでしょ?」


加波は俯く。


「みんなが嫌いな魔物、私…好きなの」


魔物使いは総じて魔物に好意的。


「何でも言うこと聞くから、、お願いだからこのことは、、」


「もちろんだ、他の奴には言わない。

 ただ、」


「ただ、?」


そう話すと、ゴブリンが大声を上げる。


「貴様、何か静に命令をするつもりか?」


「少しだけのお願いだ、ダメか?」


俺はゴブリンに対してそう返事をする。

するとゴブリン、そして静は「え、」と声を出して驚愕する。


「わ、わかるの?話せるの?」


加波は目を見開いてこちらを見る。

初めて目が合ったが、綺麗な目をしている。

確かに可愛い部類に入るだろうな。


「あぁ、俺は”魔物の言葉がわかる”」


「私も、、わたしもだよ!!」


加波は俺の手を握り、笑みを浮かべてそう話す。


「あぁ、そうなのか、」


少し驚いた。

まさかここまで積極的になれる奴だったとは…


「ゴブ郎!私やっと友達ができそうかも!?」


俺を前にしてそんなこと言われると少し困る。

仲良くならないといけない空気

いや、別に仲良くなることがいやではないが、、


「え、じゃあもしかして、もしかして、魔物も好きだったり?」


「そうだな、、他の奴らみたいに嫌いではない」


実際俺は魔物と”交流”を持っている。

加波はぴょんぴょん跳ねて喜びを身体で表す。

その光景を見て、男子の前で跳ねるのはやめておいた方が良いと俺は思った。


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