第54話 便利な無属性魔法
「アレン様、大丈夫ですか?」
「問題ありません。御二人こそ、歩き疲れてはいませんか?」
同じ場所にじっとしていても始まらないということで森の散策を初めて一時間程度が経過した現在、それなりの数の魔物を倒した俺にアリアから心配の声が掛かる。
幸いなことにルーナ王女の持つ魔物寄せの首飾りの効果は森全体ではなくある程度の範囲までしか効果を及ぼさない為魔物の群れに囲まれるということはない。
「私は大丈夫です。ルーナ王女は?」
「少し辛いけど頑張るわ」
「無理はなさらないでください。いざとなれば俺が運びます」
軽く二人を観察した感じ、まだ体力的にも精神的にも大丈夫そうだ。けど、時間が経つにつれてイライラが募り最悪の場合は仲間割れに発展する事もある。そうなれば本格的に終わりだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「アレン様、少し休息を取りませんか?」
「そうですね。場所的にも開けていますし今日はここで野宿をしましょう」
それからさらに歩くこと一時間、息を切らし始めたルーナ王女のことを見てアリアから休息を取ることを提案される。時間的にも夕方に差し掛かっている頃で場所的にもちょうど良かったので俺はアリアの提案を飲むことにした。
俺が今日森を歩いていたのは魔物の種類の把握や地形の調査が目的であって冥府の森からの脱出に関しては初めから視野に入れていない。
そもそもの話、現在地や出口の方角すら分からない今の状態では歩くだけ無駄だ。だから、本格的に森から脱出するのは今夜二人が寝静まってから俺がドラゴンフライで脱出ルートを確認してからになる。
「野宿ですか、私は初めてなのですがアレン様はそういった経験がお有りなのですか?」
「はい、単身でダンジョン攻略をしたことがあるのでその時に経験しました」
「なんていうか、アレンって貴族らしくないわね」
「自分でもそう思います」
実際、俺の人生は貴族で居た時間よりも騎士としての生活の方が濃厚だった。それに、魔王に捕まってからの生活は貴族とは程遠い奴隷のような生活だったから尚更だ。
「さて、野宿するにしてもそのまま地面で寝る訳にもいかないので御二人は落ちている葉っぱを集めてください。俺は火を起こすのに必要な枝を集めますが別れるのは危険なので一緒に行動しましょう」
「分かりました」
「分かったわ」
素直に俺の指示に従ってくれる二人を見て俺は内心安堵する。俺の勝手な予想ではルーナ王女はもっと我儘な人だと思っていたので文句を言わずに役割をこなしてくれるのは本当に有り難い。
「アレン様、ご飯はどうされるおつもりですか?結局、倒した魔物は皆置いてきてしまいましたが」
「俺の予想だとこの周辺にはまだ沢山魔物が居るので野宿の準備をしている間にまた狩れると思います。それを今晩の食糧にしましょう」
「アレン、鑑定で食べられそうなキノコ見つけたけど持って帰る?」
「はい、持って帰ります。場所を教えていただければ俺が持って帰るのでルーナ王女は落ち葉集めと並行して食べられそうなものの散策もお願いします」
「分かったわ」
こういう時に鑑定の魔法が使えるのは有り難い。俺も騎士時代に薬草や森の食べ物に関する知識はある程度身に付けたけど鑑定の魔法で安全確認をするのとしないのとでは雲泥の差がある。
それから俺たちは野宿用のスポットの周辺を何回も往復して枝や食糧、落ち葉などを満足行くレベルまで集めることが出来た。
「アレン様、これからはどうされるのですか?」
「まずは魔物が夜中に来ても対処出来るように簡易的な拠点を建てます」
「えっと、私は土魔法が使えないのですが」
「私も使えないわよ」
「それに関しては問題ありません。俺の魔力で作ります」
そう言って俺は自身の魔力で周囲を覆い魔力の形を変形させていく。魔物が来ても大丈夫なように開けた場所一帯を魔力のドームで囲い、三人分の簡易的なベットを形成し、他にも座って休める場所なんかも幾つか作り、構想を終えた瞬間に一気に魔力の密度を濃くすることで魔力を物質化する。
「これは、無属性魔法ですね」
「こんなこと出来るんだ」
「取り敢えず、これで簡易拠点の完成です。後はベットの上に土と落ち葉を被せれば眠れると思います。土に関しては俺しか道具が使えないので二人には落ち葉を被せるのをお願いします」
そう言って俺は手元に魔力を集中させ土を掘るようのシャベルを作り出す。
「アレン様は本当に器用ですね」
「無属性魔法ってこんなに便利な魔法だったんだ」
アリアとルーナ王女がシャベルで土を掘る俺を見てそんなことを呟いているが正直俺も驚いている。無属性魔法とは要するに魔力の濃度を高めて物質化することであり、本気でやろうと思えば家だって建てることが出来る。
まぁ、それもこれも全ては魔力循環ありきの芸当であって一般的な魔法使いでも簡易拠点を作った時点で魔力が枯渇してしまうだろう。
「アレン様、もしかして調理道具も作れるのですか?」
「はい、包丁や鍋も作れるので魔物の肉でもそれなりには食べられると思います。拠点さえ出来れば血抜きや解体も出来ますので飢えることはありません」
前に一度魔力で剣を作ったことがありそれをきっかけに俺は大抵の物なら魔力で作れるようになっている。それも強度は全て鋼並みだ。
「あの、アレン様。こんな状況でする質問ではないかもしれませんが、お風呂などを作ることは可能ですか?」
「はい、可能だと思います。ただ、お風呂となるとそれなりの量の水が必要なのでルーナ王女の魔力が持つかという問題も発生しますが」
やはり、年頃の女子にとって数日間お風呂に入れないのは辛いのだろう。俺が可能と口にした瞬間アリアの瞳が輝きを見せた。
「一人分なら大丈夫だと思うわよ。流石に王城のサイズは魔力が持たないけど」
「いえ、一人分でも十分です。それとお風呂を作るとなるとそれなりの木が必要になりますので適当な木を一本伐採して来ます」
「はい、お願いします」
それから俺は二人が出来るだけ快適に過ごせるように雑用をこなすのだった。
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