第53話 役割分担

「まずはそれぞれが出来ることを挙げて行きましょうか」



 レッドベアーを倒して、フリーズしていた二人が正気に戻ったタイミングで俺たちは自分の出来ることを発表し合っていた。



「まずは俺から話します。俺が提供出来るのは戦闘力です。さっきのレッドベアーとの戦闘である程度は理解して頂けたと思いますが大抵の魔物なら倒すことが出来ます。後は多少の探知が出来るので夜の見張りや、魔物の解体、調理なんかが出来ます」



 ルーナ王女とアリア様には悪いが今回俺が空を飛べることは完全に伏せさせてもらう。将来逃亡することを考えてもここで飛行能力を知られる訳にはいかない。



 その代わり、騎士時代に培ったスキルをフル活用してなるべく不自由のない生活を提供するつもりだ。



「それはとっても心強いですね。私は聖女なので御二人の力になれるとすれば神聖魔法です。まだまだ未熟の身なのでそう多くの魔法を使える訳ではありませんが簡易的な結界と汚れを落とす程度の清浄化の魔法、後は傷を癒すことが出来ます」



 流石はアリア、この歳で既に結界の構築や回復の魔法まで覚えてるのは優秀の一言に尽きる。

時々ユリウス兄さんから勇者一行の話を聞く度に褒め言葉と共に語られていただけはある。



 今回アリアが冥府の森まで着いて来てしまったことは完全なイレギュラーであり、初めは失敗したと思っていたけど、話を聞く限りでは寧ろ着いて来てくれて良かったかもしれない。



 森で生活する上で不安視される衛生面の心配事はある程度解消される上に上手く行けばルーナ王女のケアもしてくれるかもしれない。



「私はルーナ・フィリッツ。鑑定魔法と水魔法が使えるわ。それと、さっきも言ったけど私のことは見捨てて良いから」


「それは出来ません。それに、魔物はアレン様が倒してくださるので大丈夫です」


「その通りです。ルーナ王女は何も気にする必要はございません」



 アリアに便乗してルーナ王女を励ましながら俺は頭の中で冥府の森を脱出する方法を模索する。初めからあった案の一つとしてはルーナ王女が寝ていたり、体力の限界を迎えて気絶した段階で空を飛んで近くの民家に転がり込むというものがあったがアリア様もいる現状ではそれは難しい。



 なので今回は正攻法で行くことにする。生きる上で必ず必要になってくる水はルーナ王女の水魔法に任せることにして、食料は森の中に生えている草や木の実と魔物の肉で十分に賄える。



「さて、ルーナ王女とアリア様の出来ることも聞けたのでここからはそれぞれの役割について話し合いましょう」


「役割ですか?」


「はい、こういう森の中で遭難してしまった際には何もしていないことが逆にストレスになったりもします。また、この三人で無事に王都まで戻る為にも役割分担は必要不可欠なものです」



 これは騎士時代に学んだことだが、他の人間が働いているのを尻目に自分だけ何もしないというのは割とストレスになる。特に、日常のように執事やメイドがやってくれているならともかく、同じ地位のものや上司が働いているのに自分だけじっとしているのは辛い。



「なるほど、では私は何をしたら良いのですか?」


「アリア様は衛生面を考慮して一日に数回浄化の魔法の行使をお願いします。また、俺が魔物と戦っている間に必要な時で構いませんのでルーナ王女と共に結界の中へ避難をしてください。場合によっては回復の魔法もお願いするかもしれませんが魔力量によっては後回しで構いません」


「いえ、魔力は保たせます」



 今のアリア様には戦闘能力が皆無だがその分出来ることは沢山ある。ルーナ王女のケアに関してはわざわざ口に出さなくてもやってくれるだろう。



「次にルーナ王女ですが、鑑定魔法で木の実や草が食べられるかどうかや、俺たちの生命線とも呼べる水の確保をお願いします。それと、ルーナ王女が居なければ俺たちは水を確保出来ずにのたれ死んでしまうのでそもそも置いて行くという選択肢はありませんよ」



 もしルーナ王女が水魔法を使えなかったり、魔力があまりにも少なければ専用の魔道具を持ってくるなり、木や土から水を確保するなりしたが事前情報通り水魔法は問題なく使用出来るようで一安心だ。



「本当に私のことを守ってくれるの?」


「はい、必ず御二人のことはお守りします。何があっても傷一つ付けさせません」



 不安げに揺れるルーナ王女の瞳を真っ直ぐ見つめて俺ははっきりと答える。魔物から女の子二人を守ることくらい世界を救うことに比べれば何ていうことはない。



「分かった。ひとまずはアレンのことを信じるわ。けど、必要になったらいつでも私のことは見捨ててね」



 自己犠牲、とはまた違う俺たち二人を優先しているというよりは自分に価値を見出せていない感じだ。まぁ、元より死ぬ覚悟を決めて転移魔法陣のある部屋まで行ったのだからそれも仕方のないことかもしれない。



「見捨てませんよ。何があっても」


「そうですよ、ルーナ王女は私たちと一緒に帰るんです」



 例えこの森に生息している全ての魔物を相手にすることになっても俺は一歩も引く気はない。

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